ハルとアキ

花町 シュガー

文字の大きさ
上 下
31 / 536
友だち編

3

しおりを挟む






「……ぇ?」

「どう言う、ことですか…?」

俺たちは失礼な質問をしてると思う。

本人に聞かないといけないのに
もしかしたら佐古は隠したいのかもしれないのに
佐古のことを、櫻さんから聞こうとしている。

(それなのに、なんでお礼を言われるんだ?)

〝?〟がいっぱいの俺たちに、櫻さんがクスリと笑った。

「〝佐古〟という名字は、彼の母方のものなんですよ。
本当の名字はまだ別にあります」

「ぇ、そうなんですか……?」

「はい。
彼のお父様は、彼が幼い時に亡くなっているんです」

そこからはお母様が彼を女手一つで育てあげ、彼が小学生の時に再婚しました。

「それが、今の佐古くんのお父様です」

(そ、うだったのか……)

「それから、彼には妹と弟ができました。しかしお母様は幼い兄妹に付きっ切りで、お父様の方も自分の子どもたちばかりを可愛がってしまったようで…
知らない間に、彼と新しい家族との間には大きな溝ができてしまったんです」

佐古くんの名字がいつまでも変わらないのは、きっと彼なりの反抗なのだと思います。

(あ……)


『ハル、ハル今日は調子がいいのね!』

『ちゃんと食べないと大きくなれないぞ?』

『はい、おかあさん、おとうさん』

母さんたちが、笑ってる。
3人で、楽しそうに。

それを、俺はいつも遠くから、眺めてて……

(佐古も、こんな気持ちだった?)

幼い頃の俺が、佐古と重なるーー


『アキっ』


(いや、違う)

俺にはハルがいた。
どんなに寂しくても、悲しくても。

ハルがいつも隣りにいてくれた。


(そうか、佐古は本当に一人だったんだ)


ーー俺にとってのハルのような存在が、佐古にはいなかった。


「お父様の意思で、佐古くんは中学からこの学校に入りました。
しかし、ここでの空気に馴染むことができなかったのでしょう、彼は寮を抜け出し外で友人をつくるようになったんです」

外の友人の影響なのだろうか、彼は赤く髪を染めピアスもあけて、周りにだれも寄せ付けないような…そんな外見へと徐々に変わっていったらしい。

「私も、よく中学の寮へ指導に行ってたんですよ?」

「え、櫻ちゃん寮来てたの!? 全然会わなかった……!」

「ふふっ、私が行くのは消灯時間を過ぎてからでしたからね。佐古くん以外の生徒とは会いませんでしたよ」

そうなのかー!とイロハが驚いてる。

「でも、ここの学校に馴染めなかったって…当たり前だよね、それって」

「そうだな。普通の一般家庭に生まれて、いきなりこんなとこに入れられて。周りはみんな顔見知りみたく上辺だけな奴らばかりだし、孤立するのもわけないな」

「うん……おれたちも、もっと早く気づけたらよかったね」

「だな。佐古に申し訳ないな…」

「そんなことないよ。2人が落ち込むことない」

「っ、ハル……?」

「確かに中学の頃は気づけなかった。
けど、でも今気づけた。それでいいんじゃないの? それだけで、僕は嬉しいと思う」

(少なくとも俺は、そう思う)

もしも
本当にもしも
2人が〝俺〟に気付いてくれたら……

それだけで、俺は泣きそうに嬉しい。
そんな日は絶対来ないだろうけど。

佐古も、多分同じ気持ちだと思う。

「クス、小鳥遊くんは本当に優しい子ですね。
…彼も、本当は根はとても真面目で、優しい子なんです。彼がこんなに規則を破ってもここにいられるのは彼の成績にあります。通知表は出席点以外満点、テストは毎回上位の成績です。
恐らく、ここに通わせてくれているお父様への彼なりのお返しなんでしょう」

「そ、か…そうだったんだ……
でも授業出てないのに頭いいのはズルいよねっ!」

お前はテスト前になるといつもヒーヒー言ってるもんな。

なっ、それ今言うことじゃないでしょ!?

ギャーギャー騒ぐイロハとハイハイとお茶を飲むカズマ、それをクスクス笑ってる櫻さん。


(俺は……)


「…ん? ハル、どうしたの?」

「疲れたか?」

「少し長く話しすぎましたかね?」

ハルには、
俺が少し黙るだけですぐにハルの事を心配してくれる人たちが…いる。

でも佐古には?
外には友だちがいる、じゃあここには?

どんなに嫌でも通わなければいけない学校。
外の友だちは、ここまで着いて来てくれない。


冷めた目を思い出す。


(あいつは、まだ1人なんだ……)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

運命と運命の人【完結】

なこ
BL
ユアンには10歳のときに結ばれた婚約者がいる。政略でも婚約者とは互いに心を通わせ、3日後には婚姻の儀を控えていた。 しかし運命と出会ってしまった婚約者はそれに抗うこともできず、呆然とするユアンを前にその相手と番ってしまう。 傷ついたユアン、運命の番たち、その周りにいる人々の苦悩や再生の物語。 『孕み子』という設定のもとに書かれております。孕み子と呼ばれる男の子たちは、子どもを産むことができる、という、それぐらいの、ゆる~い設定です。 3章ぐらいまでは、文字数が少ないので、さくさく読めるかと思います。 R18シーンありますが、下手くそです。 長い話しになりそうなので、気長にお付き合いいただける方にお楽しみ頂ければと思います(◞‿◟) *R18の回にRつけました。気になる方はお避け下さい。そんなに激しいものではありませんが…

処理中です...