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九章 初めての夏休み

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 荷物が片付いた後、さっそくジャムを持って母様の部屋、というよりも両親の部屋へと向かう。
 事前に母様がどこにいるかは聞いていたから、今はちゃんと部屋にいるはずだ。
 さっきまでは診療所の方にいたみたいだからきっとお疲れだろう。

 少し前にベンネにスコーンと紅茶を頼んでおいたから、多分そろそろ持ってきてくれるはずだ。
 これで少しでも母様の疲れが癒されるといいんだけど……。

 少し緊張しつつ、部屋の扉をノックすると、すぐに返事が返ってきた。

「今、少しいいですか?」

「あら、アーネ。
 大丈夫よ」

「お土産にこちらを持って帰ってきました。
 ヴィートと一緒に作ったのよ」

「これをアーネが?
 とても綺麗ね」

「ヴィートが教えてくれたんです。
 庭にあったバラで作ったジャムです」

 へえ、と反応しながら母様は興味深々に瓶を見ている。
 興味を持ってもらえたようで良かった。

「今、ベンネにスコーンと紅茶をお願いしているので、来たらお茶にしませんか?」

「いいわね! 
 ちょうど何か甘いものを食べたい気分だったのよ」

 手を合わせて嬉しそうに母様が笑う。
 本当に何か甘いものを食べたかったのだろうな。

「失礼いたします。
 スコーンと紅茶をお持ちいたしました」

 ちょうどベンネの声が外からかかる。
 母様に許可をもらって扉を開ける。
 そして、部屋に入るとすぐに紅茶を用意してくれた。

「さあ、いただきましょう」

 母様は少しおそるおそるといった様子で、スコーンにバラのジャムをつけて口に運ぶ。
 その様子を私はついじっと見つめていて、母様に注意されてしまった。

「おいしいわ!
 バラのジャムなんて初めて食べたけれど、とてもおいしいのね。
 見た目もきれいだし」

 そう言って少し興奮したように母様が伝えてくる。
 見た目も味も気に入っていただけたようで何よりだ。
 持ってかえってきたかいがある。

「アーネは食べないの?」

「私もいただきますね」


 少しおおめにジャムをつけて、スコーンを口に入れる。
 やっぱりおいしい。

「素敵なお土産をありがとう!」

「喜んでいただけたようで良かったです。
 そういえば、こちらをルカさんにも、と思っているんです」

「まあ、ルカミア様に?
 でも食べ物ですし、休み明けでは少々不安です」

「今はルカさんの返事まちなのですけど、明日にでも会うかも……」

「あら、建国祭に出かけるの?
 それはいいわね。
 予定が決まったら教えてね」

「はい! 
 ではまた夕食のときに」 
 
 そういって私はベンネとともに母様の部屋を後にした。
  
 
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