上 下
235 / 261
十四章 不穏な空気

234

しおりを挟む
「以前、いつか話すと言いましたよね」

 持ってきた紅茶を私の前に置くと師匠は静かに話し始める。なんのことかわからずにきょとんとしていると師匠が苦笑いをした。

「どうして私が馬車を持っているのに、従者もいない家で暮らしているかという話です」

 ああ、確かに聞いたことがある気がする。すっごい前、初等科1年の頃だったような気がする。でもどうして突然そんな話を?

「そろそろ話してもいいかと思いまして。
 今あなたに降りかかっている問題でもありますしね」

「今……」

 というと神官長がらみの問題かな? どうしてそれが師匠が一人で暮らしていることと関係があるのかな……。

「私の苗字にある、チェスト。
 これはもともとこの国の子爵家の名だったのです」

「え……?」

「でも今は存在しません。
 私が終わらせたも同然です」

 一つの子爵家を、それも自分の生家を師匠が終わらせた? それってどういう意味だろう。

「あなたと同じように私は学園の入試の際に魔力を開放しました。
 その魔力は歴代のチェスト家の中で誰よりも高かった……。
 それに加えて、解放されたばかりの魔力を扱うのが楽しくて仕方なかった私は、こっそりとだれもいないところで魔力を使い遊んでいました。
 その結果、同世代の誰よりも魔力の扱いがうまくなったのです。
 その二つが合わさった結果、神官長に目をつけられてしまったのです」

 そこまで言うと先生は一息ついて紅茶を飲む。その様子を見て私も紅茶を飲んだ。うん、おいしい……。
 今にも泣きそうな、後悔に満ちた先生の顔を直視できないまま私は紅茶を置いた。

「私は神子になどなりたくないと、その誘いを断ったのですが家族は違いました。
 何か交換条件を持ちかけたようで……。
 それでも私はどうしても神殿には行きたくなかったのです。
 その結果段々と家族とうまくいかなくなっていきました。
 そこを助けてくださったのが私の師匠だったのです」

「先生の師匠ですか……?
 ということは、バーストさんのお兄様?」

「はい、そうです。
 そのころはまだ弟子になっていなかったのですが、どこからかこの話を聞き、名乗り出てくださったのです。
 当時家に居場所がなくなっていた私はその誘いにすぐに飛びつきました。
 そして、師匠はご自宅に私の居場所を作ってくださいました。
 あれは本当に楽しい日々でした……」

 昔を懐かしむように師匠は目を細める。その表情は、本当にその日々が楽しかったことを語っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...