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 デビュタントの夜会を2日後に控えたある日、私は陛下に呼び出されていた。何かしてしまったのだろうか……。まさかドレスに予算を使いすぎたとか⁉ どきどきとしながら陛下に呼び出された部屋へと向かった。

「やあ、よく来たね。
 急に呼び出してすまなかった」

「い、いえ。
 あの、ここは?」

「ここは……、そうだね国王の私的な書室かな」

「え……⁉
 そのような場所に私が入ってよかったのですか?」

「ああ。
 君はその資格があるから」

 資格? どうして私にそんな資格があるのだろう。不思議に思っているうちに、紅茶が置かれ、席を勧められた。

「初めて出会ったあの日、ゆっくり話したいと言ったのに遅くなってしまってすまないね。
 ようやく時間が取れたよ」

 はぁ、とため息をつく陛下は相当お疲れのご様子。それなのにどうして私を呼び出したのだろう。

「気がついたら、もうデビュタントか。
 少し早いけれど、おめでとう。
 当日を楽しみにしているよ」

「光栄です。
 あの、ドレスもありがとうございます」

「ああ、いや。
 そこまで王室は負担していないよ。
 それに我が国が誇る商会は君の味方らしいしね」
 
 紅茶に口をつけながら、陛下が穏やかにほほ笑む。そんな、と口にした言葉もそのままスルーされてしまった。

「さて、そろそろ本題に入ろうか。
 君にこれを見せたかったのだ」

 そう言いながら、陛下は本棚から一冊の冊子を取り出す。それを受け取ると表紙には日記帳、と記されている。それにしてはずいぶんと丁重に扱われているような……。

「これは?」

「これはね、かつてこの国を治めていたとある人が残した日記帳だ。
 私が王位を継ぐとき、父から渡されたものになる」

「え⁉
 そんな貴重なものをどうして私に⁉」

「これはね君に……、正確には『神の目』を持つ者に見てもらうために長い間保管しているものなのだ。
 それまでは、我らの戒めとして王室に保管してきた。
 だけれど、本当に見るべき人が現れた。 
 それなら渡すのは当たり前だろう?
 この日記帳は私も、そしてユースルイベも見ていることは伝えておこう」

「そう、ですか」

 そこまでの話で、何となくこの日記帳を書いたのが誰なのかが分かった気がした。触れてみると、長い時を経たはずのその日記帳は時の流れなど感じさせなかった。どれだけ大切に保管されてきたかがうかがえる。

 そのまま一ページ目をめくった。

 一ページ目に記されていたのは、幼い字で書かれたサラシェルト・グージフィ・バニエルタの名。ああ、やっぱり。これはサラシェルト様の日記帳なんだ。

 初めに書かれていたのは、日記帳をもらった日のこと。誕生日のお祝いにもらったこと、とても嬉しかったこと、今日から何かあるたびに書き込んでいこうといったことが書かれていた。

 ページをめくっていく。そうしていると、マゼリアに初めて会った日のことが書かれていた。幼かったサラシェルト様はその日のことを、こちらが恥ずかしくなるほど素直な言葉で綴っていた。

 ご令嬢を見つめては失礼だと聞いていたのに、思わず見つめてしまった。それをごまかすために笑みをつくると、マゼリア嬢は顔を赤らめてしまった。本当にかわいらしい。このご令嬢が私の婚約者候補だなんて、嬉しい。嬉しい。もっと頑張ってマゼリア嬢に選んでもらえるようにならなくちゃ。

 その日から日記帳にはマゼリアのことが度々書かれていた。今日はお茶会をした。今日は剣の授業を見て応援してくれた。

 そのすべてに喜びがあふれていて。私の中に確かに存在するマゼリアの気持ちが嬉しいと喜んでいた。夢中になって日記帳を読み進めていく。そして、ギフトが明らかになった日。その日の日記も残っていた。

 どうして、マゼリア嬢が『神の目』を持っているんだ。あのギフトを持っている人は長生きできないっていうのに。どうして。そのおかげで正式に婚約を結ぶことができた。でも、どうしてこんなにも喜べないのだろう。私は、何ができる? マゼリア嬢のために、私は何をするべきなのだろう。

 最近マゼリア嬢が出席する予定のお茶会をよく休んでいる。心配だ。それなのに王妃教育にも力を入れているなんて。また、何もできない。婚約者になって、前よりも近い立場になったはずなのに。どうして、こんなに遠いのだろう。

 結婚式を控えて、マゼリアが王城に住まうようになった。前よりも一緒に居られる時間が増えて嬉しい。だが、彼女の苦しみをより近くで感じてしまう。あんなに苦しそうなのに何もしてやれない。何も助けてやれない……。

 ただでさえ苦しんでいるのに、どうして部屋に香をたくなんて非道なことができるのだ! だが、父上を止められない。苦しんでいる彼女を見るたびに自分の無力さを思い知る。『魅了』のギフトなんてあっても、何も助けられない。どうして彼女が『神の目』のギフトをもっているのだろう。マゼリアと結婚できなくてもいいから、幸せでいてくれたらそれでよかったのに。どうして、こんなことに。

 マゼリアが謝っていた。謝るのは私の方なのに。王太子妃としての務めを果たせていないと、涙を流していた。私がいくらそうじゃないって言っても、聞いてくれない。誰かが彼女に余計なことを言っているのか?

 もし、王太子妃という地位のせいでマゼリアが苦しんでいるのなら王太子なんて地位はいらない。彼女さえいてくれたらそれでいいのだ。次の王位はウリジースが継げばいいのだ。幸い彼にはカンタレア嬢という素晴らしい婚約者がいる。だから……。

 知らない、知らない。サラシェルト様がそんな気持ちでいたなんて。婚約者になってから冷たい態度をとっていたのは、私が気に食わないからだと思っていた。それなのに、こんな。それに、ウリジースって、サラシェルト様の従弟よね。確か、サラシェルト様の後を継いだ……。

「カンタレア嬢って……」

「その方はウリジース陛下の奥方だ。
 美しい金髪に蒼の目を持っていたという。
 その方の象徴花が……、水色のステラだった」

 水色の、ステラ。それを聞いたとき、ふと頭に浮かんだのは水色のステラを渡して似合っていると言っていたサラシェルト様の姿。まさか、その意味は……。

 もう日記帳の残りは少ない。そのままページをめくっていくと、ひどくにじんだページがあった。何とか読んでいくと、それはマゼリアが亡くなったときの日記だった。深い後悔と、悲しみ。なんとも言えない気持ちになって、そのまま次へとページを進めた。

 マゼリア
 私はいつも気づくのが遅い。君がいなくなってから何度も何度も考えていた。私には何ができたのだろうかと。それは今でもわからない。
 君はいつか記憶をもって新しい生を受けるのだろう。その時はきっと、私のことはひどい人だと認識しているのだろうね。それは正しい。
 本当にすまなかった。
 大切だった、君が。初めて会ったあの頃から、ずっと。でも、私は大切なものを大切にする仕方を知らなかった。そのせいで何度君を泣かせてしまっただろう。中途半端なことなんてしないで、限られた時間で精いっぱい君を、君との時間を大切にすればよかったのに。
 マゼリア、君を愛している。
 その一言すら、きっと私は口にできていなかった。
 それでも、一生を君にささげよう。私の愛は君だけに。

 この後悔を二度と私の子孫たちは繰り返さないことだけを願おう
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