上 下
47 / 69

46

しおりを挟む

 そのあとは何事もなく王城へと向かうことができた。屋敷でまた王城へ上がるのだから! と気合を入れた格好をさせられたことはつらかったけれど、容赦はしてくれませんでした。

 数年ぶりの王城。それだけでひどく緊張する。王族が出入りする用の門から入っていくと、庭を抜けた先にユースルイベ殿下が立っていた。後ろに人を従えている姿は見慣れず、別人のように感じてしまう。馬車が止まり、フェルベルトのエスコートを受けて馬車から降りる。

 すぐ近くに止まった馬車からはマリアンナ殿下が下りてきた。マリアンナ殿下にとっては家のはずなのに、その表情は硬い。

「やあ、よく来たね。
 無事についたようでよかったよ」

 私とマリアンナ殿下にユースルイベ殿下が話かけてくる。その声音は今までのルイさんとはどこか違う、よそ行きのものだった。

「わざわざ出迎えていただき、ありがとうございます、お兄様。
 久しぶりの旅でしたが、とても快適でしたわ」

「それならよかった。
 フリージア嬢は体調を崩したようだけれど、もう大丈夫なのかな?」

「お気遣いいただきありがとうございます。
 ゆっくりと休ませていただけましたので、もうすっかり」

 私の返答に、ユースルイベ殿下が笑顔を深める。あ、これも違う……。

「疲れているところ申し訳ないのだけれど、謁見の間に陛下がお待ちだ。
 このまま向かってもいいかな?」

「もちろんです」

 そんなの聞いていない。でも、さすがに今それをいうわけにはいかないから、笑顔でうなずいておく。マリアンナ殿下も少し遅れたけれど、はい、とうなずいていた。

 謁見のままでの道で、人々に見られているのを感じる。この人たちがどこまで知っているのかはわからないけれど、興味の的にはなるだろう。なにせ王太子を先頭にこの国唯一の王女と私がいるのだから。

 居心地の悪い道を抜けて、重厚な扉の前で一度止まる。この扉の先に、今の国王陛下がいる。どきどきと心拍数が上がっていくのがわかる。もし、この先にいる人があの人の面影を残していたら。でも王家はすでにあの人の血脈を組んでいない。なら、大丈夫かしら。

 そんな私の葛藤が伝わることもなく、無情にも扉は開けられていく。光に満ちたその部屋には考えていたよりも少数の人が待っていた。

「お待たせいたしました、陛下」

「ああ、気にするな。
 顔を上げてくれ、ここはそんなに硬い場ではないからな。
 よく戻ったな、マリアンナ。 
 そして、よく来てくれた、フリージア嬢。
 そなたを歓迎しよう」

 昔の記憶を引き出して陛下への礼をとると、すぐに声がかかる。顔を上げると、そこにはユースルイベ殿下の面影を感じさせる男性が座っていた。少しだけほっとする。あの人とはあまり似ていない。当たり前と言えば当たり前だけれど。

「長らく王城を開けてしまい、申し訳ございませんでした。
 お変わりないようで安心したしました、陛下」

「ああ、大きくなったな。
 長旅だったろうに、顔色もよさそうで安心したよ」

「そうですね、ここを離れた時よりも丈夫になれたように感じます。
 あの地ではよき出会いにも恵まれ、かけがえのない時間を過ごすことができました」

「それは何よりだ」

 マリアンナ殿下が私の方を見る。きっと次は私が話すように、ということなのだろう。

「王城へお招きいただき、ありがとうございます。
 こうしてお目にかかれて光栄でございます。
 フリージア・シュベルティーと申します」

「ああ、話は聞いているよ。
 ……後程、ゆっくりと話すことができると嬉しい。
 改めて歓迎しよう、『神の目』の少女よ」

「はい、お話できると嬉しいです」

「そなたはユースルイベの婚約者となった。
 私にとっては娘も同様だ。
 そのように接することができれば嬉しいと思う」

「もったいないお言葉です」

 そういって一礼する。これで終わりだろう。ただ、顔を上げて陛下の顔を見ると、思っていたものと違って、なにかを話したいような顔をしていた。結局陛下は何かを言うこともなく、この場にいるほかの人たちの自己紹介へと移っていった。

 こうして無事に謁見を終えて、謁見の間を出る。そのまま今後私が使うことになる部屋に案内してもらうことになった。前世ぶりに入る、王族のプライベートエリア。また前回と同じ部屋に案内されるのかな。あの部屋はベッドからでも庭がよく見える。せめてもの慰めに、と用意された部屋で、今までもよくあの部屋で過ごしていた。

「……あれ?」

 こっちの道は、違う。あの部屋に行く道じゃない。

「君の部屋は、僕の隣に用意したんだ。
 何かあったらすぐに呼んでくれて構わないから」

「ユースルイベ殿下の、隣、ですか?」

 え、私まだただの婚約者だよね……? 婚約者の時点で王城に住むこと自体おかしなことだけれど、実家との関係があれなので、まあいいとする。でも、ユースルイベ殿下の隣?

「うん。
 大丈夫だとは思うけれど、厄介な人もいるからね」

 厄介な人……? と少し首をかしげると、すぐに答えが返ってきた。王妃、と小さな声でユースルイベ殿下が言う。ああ、その人のことを忘れていた。あまり詳しくは知らないけれど、ひとまず、ユースルイベ殿下が立太子したことが不服であろうことは知っている。なるほど。

「いろいろと落ち着いたら、パルシルクにも会ってもらいたいな。
 君のおかげで助かった命だから」

「それは大げさすぎます。
 私の言葉がなくても、優秀な騎士たちが殿下をお守りしたはずですから」

「そうだね。
 でも、君の言葉によって害される可能性が大きく下がったのは確かだから。
 改めて、ありがとう」

「……いいえ」

 ここで、ルイさんみたいにほほ笑むのはずるい。あなたはユースルイベ殿下であって、ルイさんではない。そう納得したかった。ルイさんはこの人の中の一部分ではあるけれど、もう表に出ることはないって。

 もやもやとした気持ちを抱えながら歩いていると、いつの間にか部屋に着いたようだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた

みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。 争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。 イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。 そしてそれと、もう一つ……。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

サイキック・ガール!

スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』 そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。 どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない! 車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ! ※ 無断転載転用禁止 Do not repost.

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

処理中です...