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「エミルークさん、急にごめんなさい」
私たちの誘いに快諾してくれたエミルークさんは、朝食後のさっそく私たちの部屋を訪れていた。そして私の言葉を聞くとなぜか苦笑されてしまいました。
「いいえ、いつでもお声がけください。
それにしても、リステリア様は私のことをそうお呼びになっていたのですね「
あれ? そっか、何気に私もリテマリアもエミルークさんのことを呼んだことってなかったか。今まで気にしていなかった。
「私のことはただ、ユウセラルと呼んでください」
「ユウセラル?」
「はい」
にこり、と笑みで押し切られてしまった。まあ、それでいいならいいのですが。ところで、とユウセラルは私たちに目線を合わせるように膝をつく。
「何かありましたか?」
「何か?」
「あったのかな」
何か、と言われて心当たりがあるのは先ほどの侍女のこと。今日はいつもメインで面倒を見てくれているテミリアが忙しく、別の人がお手伝いに来ていたのだ。
私たちの面倒は基本、テミリアとルーチェが見てくれている。その二人のお手伝いと言う形で、人手が足りないときは別の人が来ている。先ほどいらだちを覗かせたのはそのお手伝いの侍女だった。でも、話してもいいのかな。
リテマリアと顔を見合わせていると、ユウセラルが私たちの手を取る。そして真剣な眼をこちらに向けた。
「大丈夫ですから、思ったことを話してください。
そしたら、セスアルト様に会いに行きましょう」
どうやら話さないとセスアルトには会いに行けないらしい。いつの間にか人が減っていて、今この部屋にはユウセラルとテリミアとルーチェだけ。それだったらユウセラルの大丈夫、という言葉を信じて、ひとまず口に出してみてもいいのかもしれない。
「あのね、怖かったの」
「怖かったのですか?
何が」
「うーん?
怒られそうで」
「リテマリア様とリステリア様をですか?」
「ううん。
違うの。
私たちにじゃないけれど、侍女がいらだっていてね」
「それで、思い出したの。
だから、怖かったの」
ね、とリテマリアがこちらを見る。それにうなずくとそうですか、と固い声が返ってきた。
この家に来てから扱いはずいぶんと変わった。とても大切に育ててもらっていると実感している。でも、記憶を消せるわけはなくて。私たちにとってはいらだちや不機嫌は恐怖と結びついている。あの侍女が私たちに何かしようとしていたわけではないと頭では理解できても、反応してしまうのは仕方ないことなのだ。
「今はもう大丈夫ですか?」
「ちょっとだけ、怖いかも?
でも、セスアルトに会ったら大丈夫だと思う」
「でもね、一緒にいて、ユウセラル」
「はい、もちろんです」
もう一度、ぎゅっと手を握られる。その温かい手にほっとする。この手は私たちを救ってくれる手だから。寄り添ってくれる手だから。
「話してくださってありがとうございます。
では、セスアルト様のところに行きましょうか」
どうやら話しは終わったらしい。ようやくセスアルトに会いに行ける! しかも今回はセイラールさんにちゃんと許可をもらっているから、心置きなく楽しみできる!
セスアルトがいるのは前回と同じ部屋。またもやちょうど起きている時間だったようで、セスアルトは目をきょろきょろとさせていた。
「セスアルト、姉様ですよ」
「本当にかわいい」
私たちを歓迎してくれた乳母がそっとセスアルトをカーペットの上に下ろしてくれる。手伝ってもらって抱っこしたり、手を握ってみたり、セスアルトに癒されていると部屋に人が入ってきた。振り返ると、そこにいたのはセイラールさんだった。
「セイラールさん……。
あの、今日は誘っていただいてありがとうございます」
「ありがとうございます。
セスアルトとてもかわいいです」
また何か言われることはないか、内心恐る恐る声をかける。きっと大丈夫とは思いつつ、先ほどのこともあって、思わず体がこわばってしまう。
「そう……」
入ってきたセイラールさんは下を向いている。向こうから誘ってきてくれたこともあって、さすがに今日は怒られることはないみたい。それは良かったけれど……?
「あの、セイラールさん?
どこか体調が悪いのですか?」
「ああ、あなたもいたのね。
別に体調は大丈夫よ」
ユウセラルの声に顔を上げると、そこでようやくユウセラルも一緒にいたことに気がついたようだ。ユウセラルもセイラールさんの態度の理由がわからないみたいで困惑しているのが伝わってくる。
「その……、あの……」
んんん? 何か言おうとしているようだけれど、言葉にならずに消えていく。でも、セイラールさんが何か頑張っているだろうことは伝わってくるので、私もリテマリアも辛抱強く続く言葉を待った。
「ありがとう……」
「え……?」
「だから、ありがとう……。
アクセサリー。
とてもかわいかったわ。
それに……、アシェルタのパーティー、誘ってくれてありがとう……」
小さい声。視線だってずっと下を向いているから、こちらとは一切あわない。それでも、セイラールさんがその言葉に込めた想いは伝わってくるようで。リテマリアと顔を見合わせる。
私たちは立ち上がるとセイラールさんのもとへと行く。セイラールさんは少し体を跳ねさせたけれど、とくに逃げることはしなかった。
「いいえ!
受け取ってもらえてよかったです」
「喜んでもらえて嬉しいです」
「そう……」
やっぱり今日のセイラールさんはどこか変。じっと、見守っていると、もっと深くうつむかれてしまった。
「それに……、前は、ごめんなさい」
謝った、セイラールさんが。お礼も言われたのに、謝罪まで。ユウセラルも驚いているのが伝わってくる。え、本当に今日のセイラールさんはどうしたの?
「それだけ。
それじゃあ」
ようやく顔を上げたセイラールさんの目は濡れていた。その目にはいろんな感情が混ざっているようで、何も言えないままセイラールさんは去って行ってしまった。
「あの、一体何が?」
「……心境の変化でもあったのでしょう。
さあ、そろそろお昼の時間ですから戻りましょうか」
「う、うん」
よくわからないけれど、そんなに悪いことではない、よね?
私たちの誘いに快諾してくれたエミルークさんは、朝食後のさっそく私たちの部屋を訪れていた。そして私の言葉を聞くとなぜか苦笑されてしまいました。
「いいえ、いつでもお声がけください。
それにしても、リステリア様は私のことをそうお呼びになっていたのですね「
あれ? そっか、何気に私もリテマリアもエミルークさんのことを呼んだことってなかったか。今まで気にしていなかった。
「私のことはただ、ユウセラルと呼んでください」
「ユウセラル?」
「はい」
にこり、と笑みで押し切られてしまった。まあ、それでいいならいいのですが。ところで、とユウセラルは私たちに目線を合わせるように膝をつく。
「何かありましたか?」
「何か?」
「あったのかな」
何か、と言われて心当たりがあるのは先ほどの侍女のこと。今日はいつもメインで面倒を見てくれているテミリアが忙しく、別の人がお手伝いに来ていたのだ。
私たちの面倒は基本、テミリアとルーチェが見てくれている。その二人のお手伝いと言う形で、人手が足りないときは別の人が来ている。先ほどいらだちを覗かせたのはそのお手伝いの侍女だった。でも、話してもいいのかな。
リテマリアと顔を見合わせていると、ユウセラルが私たちの手を取る。そして真剣な眼をこちらに向けた。
「大丈夫ですから、思ったことを話してください。
そしたら、セスアルト様に会いに行きましょう」
どうやら話さないとセスアルトには会いに行けないらしい。いつの間にか人が減っていて、今この部屋にはユウセラルとテリミアとルーチェだけ。それだったらユウセラルの大丈夫、という言葉を信じて、ひとまず口に出してみてもいいのかもしれない。
「あのね、怖かったの」
「怖かったのですか?
何が」
「うーん?
怒られそうで」
「リテマリア様とリステリア様をですか?」
「ううん。
違うの。
私たちにじゃないけれど、侍女がいらだっていてね」
「それで、思い出したの。
だから、怖かったの」
ね、とリテマリアがこちらを見る。それにうなずくとそうですか、と固い声が返ってきた。
この家に来てから扱いはずいぶんと変わった。とても大切に育ててもらっていると実感している。でも、記憶を消せるわけはなくて。私たちにとってはいらだちや不機嫌は恐怖と結びついている。あの侍女が私たちに何かしようとしていたわけではないと頭では理解できても、反応してしまうのは仕方ないことなのだ。
「今はもう大丈夫ですか?」
「ちょっとだけ、怖いかも?
でも、セスアルトに会ったら大丈夫だと思う」
「でもね、一緒にいて、ユウセラル」
「はい、もちろんです」
もう一度、ぎゅっと手を握られる。その温かい手にほっとする。この手は私たちを救ってくれる手だから。寄り添ってくれる手だから。
「話してくださってありがとうございます。
では、セスアルト様のところに行きましょうか」
どうやら話しは終わったらしい。ようやくセスアルトに会いに行ける! しかも今回はセイラールさんにちゃんと許可をもらっているから、心置きなく楽しみできる!
セスアルトがいるのは前回と同じ部屋。またもやちょうど起きている時間だったようで、セスアルトは目をきょろきょろとさせていた。
「セスアルト、姉様ですよ」
「本当にかわいい」
私たちを歓迎してくれた乳母がそっとセスアルトをカーペットの上に下ろしてくれる。手伝ってもらって抱っこしたり、手を握ってみたり、セスアルトに癒されていると部屋に人が入ってきた。振り返ると、そこにいたのはセイラールさんだった。
「セイラールさん……。
あの、今日は誘っていただいてありがとうございます」
「ありがとうございます。
セスアルトとてもかわいいです」
また何か言われることはないか、内心恐る恐る声をかける。きっと大丈夫とは思いつつ、先ほどのこともあって、思わず体がこわばってしまう。
「そう……」
入ってきたセイラールさんは下を向いている。向こうから誘ってきてくれたこともあって、さすがに今日は怒られることはないみたい。それは良かったけれど……?
「あの、セイラールさん?
どこか体調が悪いのですか?」
「ああ、あなたもいたのね。
別に体調は大丈夫よ」
ユウセラルの声に顔を上げると、そこでようやくユウセラルも一緒にいたことに気がついたようだ。ユウセラルもセイラールさんの態度の理由がわからないみたいで困惑しているのが伝わってくる。
「その……、あの……」
んんん? 何か言おうとしているようだけれど、言葉にならずに消えていく。でも、セイラールさんが何か頑張っているだろうことは伝わってくるので、私もリテマリアも辛抱強く続く言葉を待った。
「ありがとう……」
「え……?」
「だから、ありがとう……。
アクセサリー。
とてもかわいかったわ。
それに……、アシェルタのパーティー、誘ってくれてありがとう……」
小さい声。視線だってずっと下を向いているから、こちらとは一切あわない。それでも、セイラールさんがその言葉に込めた想いは伝わってくるようで。リテマリアと顔を見合わせる。
私たちは立ち上がるとセイラールさんのもとへと行く。セイラールさんは少し体を跳ねさせたけれど、とくに逃げることはしなかった。
「いいえ!
受け取ってもらえてよかったです」
「喜んでもらえて嬉しいです」
「そう……」
やっぱり今日のセイラールさんはどこか変。じっと、見守っていると、もっと深くうつむかれてしまった。
「それに……、前は、ごめんなさい」
謝った、セイラールさんが。お礼も言われたのに、謝罪まで。ユウセラルも驚いているのが伝わってくる。え、本当に今日のセイラールさんはどうしたの?
「それだけ。
それじゃあ」
ようやく顔を上げたセイラールさんの目は濡れていた。その目にはいろんな感情が混ざっているようで、何も言えないままセイラールさんは去って行ってしまった。
「あの、一体何が?」
「……心境の変化でもあったのでしょう。
さあ、そろそろお昼の時間ですから戻りましょうか」
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よくわからないけれど、そんなに悪いことではない、よね?
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