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パーティーの日の夜、いつものようにリテマリアと一緒にベッドへともぐりこむ。初めて参加したパーティーはとっても楽しくて、あっという間に時間が過ぎて行ってしまった。まだパーティーが終わったことに心が追い付いていないかのようで、まだ眠れそうにはなかった。
「ねえ、リステリア。
もう寝た?」
「ううん、寝られなくて」
「私も」
どうやら寝られないのはリテマリアも一緒みたいだ。こんなところまで私たちはそっくりなのか。
「今日、楽しかったね」
「うん。
兄様だけじゃなくて、父様も、カイ兄様も先生も参加してくれて。
あんなに笑顔があふれた空間、初めてだったかも」
「そうね。
それに、その笑顔をつくるのに私たちも力を貸せたのよ」
「素敵だよね」
にこにことお互いの顔を見合わせる。眼鏡を外した私たちの瞳は本来の虹色。その瞳が今日はひと際輝いているように見える。
「また、こういうパーティーしようね」
「次は私たちの誕生日かな」
「父様の誕生日もあるよ」
「そうだ、セイラールさんとセスアルトも」
「いっぱいだね」
「うん」
「楽しい時間を過ごすときも、隣に、いてね、リステリア」
「当たり前だよ。
だから、ずっと一緒にいてね、リテマリア」
どこにもいかないで。あのゲームのように、私の隣から姿を消さないで。楽しい気持ちの中にふいに這い上がってきた恐怖に、ぎゅっとリテマリアの手を握る。今が楽しくて幸せだ。だからこそ、あのゲームを参考にするとこの幸せがいつか壊れてしまうということが怖くて仕方ない。あの地獄のような生活から救い出されて、ようやく人間らしく生きられているのだ。絶対に幸せなままがいい。
いつの間にか眠りについたリテマリアの手を握りながら、私はそう祈った。
***
「今、なんて言いました?」
翌日、朝食をとりながらぽかん、としてしまった。そのくらい侍女の発言に驚いたのだ。
「ですから、セイラール様が、セスアルト様を見に来るか、と」
どういう心境の変化でしょう? 前はあんなに嫌がっていたのに。というか、セスアルトをとられないように必死だったのに。私にはセイラールさんの気持ちを理解することができないけれど、あの様子だけで、きっと何か事情があるのだろうとは思っていた。だからこそ、こうして私たちとセスアルトの接触を許すどころか、誘ってくるとは思わなかったのだ。
「見に行ってもいいのなら、行きたいけれど……」
言いながらちらり、とリテマリアの方を見る。前回のセイラールさんの反応をだいぶ怖がっていたから、もしかしたらリテマリアは行きたくないかも。セスアルトには会いたいけれど、それはリテマリアに負担をかけてまでではないかな……。
すると、リテマリアもこくりとうなずいた。
「セスアルト、かわいかったもの」
大丈夫なの、と視線で問いかけると思いのほか柔らかい笑みが返ってきた。無理していそうではない? それならいいのだけれど。
「では、朝食後に伺いましょう」
戸惑い気味だった侍女は、私たちの言葉を受けるとうなずく。うーん、よくわからないけれど、まあいいか。セスアルトには会いたかったもの。
「そもそも、セイラール様にはセスアルト様との接触を禁止する権利なんてないのに」
「ちょっと、聞こえますよ」
きっと私たちの訪問を伝えに行くのだろう。その去り際。侍女の一人がいらだちのこもった声でそうつぶやく。私たちに向けたものではないと知っている。知ってはいるけれど、久しぶりに聞いた声音に、知らず体がこわばる。なんだか不安にかられてリテマリアのすぐ横に行くと、リテマリアもきっと不安だったのだろう。すぐに手を握られた。
セイラールさんはどうしてこの家でこういう扱いを受けているのだろう。どうして父様はこんなにも妻をめとっているのだろう。きっとまだ子供の私たちには言われていないことが多すぎる。
「ねえ、リステリア」
「どうしたの?」
「エミルークさんも、一緒に行ってくれるかな?」
「エミルークさん?」
言えば一緒に行ってくれる気がする、けど。ふと見ると、リテマリアの手の震えはまだ止まっていない。なるほど。それでエミルークさん。うん、私も一緒にいてくれたら心強い。と言うことで、戻ってきた侍女に再びお使いをしてもらいました。
「ねえ、リステリア。
もう寝た?」
「ううん、寝られなくて」
「私も」
どうやら寝られないのはリテマリアも一緒みたいだ。こんなところまで私たちはそっくりなのか。
「今日、楽しかったね」
「うん。
兄様だけじゃなくて、父様も、カイ兄様も先生も参加してくれて。
あんなに笑顔があふれた空間、初めてだったかも」
「そうね。
それに、その笑顔をつくるのに私たちも力を貸せたのよ」
「素敵だよね」
にこにことお互いの顔を見合わせる。眼鏡を外した私たちの瞳は本来の虹色。その瞳が今日はひと際輝いているように見える。
「また、こういうパーティーしようね」
「次は私たちの誕生日かな」
「父様の誕生日もあるよ」
「そうだ、セイラールさんとセスアルトも」
「いっぱいだね」
「うん」
「楽しい時間を過ごすときも、隣に、いてね、リステリア」
「当たり前だよ。
だから、ずっと一緒にいてね、リテマリア」
どこにもいかないで。あのゲームのように、私の隣から姿を消さないで。楽しい気持ちの中にふいに這い上がってきた恐怖に、ぎゅっとリテマリアの手を握る。今が楽しくて幸せだ。だからこそ、あのゲームを参考にするとこの幸せがいつか壊れてしまうということが怖くて仕方ない。あの地獄のような生活から救い出されて、ようやく人間らしく生きられているのだ。絶対に幸せなままがいい。
いつの間にか眠りについたリテマリアの手を握りながら、私はそう祈った。
***
「今、なんて言いました?」
翌日、朝食をとりながらぽかん、としてしまった。そのくらい侍女の発言に驚いたのだ。
「ですから、セイラール様が、セスアルト様を見に来るか、と」
どういう心境の変化でしょう? 前はあんなに嫌がっていたのに。というか、セスアルトをとられないように必死だったのに。私にはセイラールさんの気持ちを理解することができないけれど、あの様子だけで、きっと何か事情があるのだろうとは思っていた。だからこそ、こうして私たちとセスアルトの接触を許すどころか、誘ってくるとは思わなかったのだ。
「見に行ってもいいのなら、行きたいけれど……」
言いながらちらり、とリテマリアの方を見る。前回のセイラールさんの反応をだいぶ怖がっていたから、もしかしたらリテマリアは行きたくないかも。セスアルトには会いたいけれど、それはリテマリアに負担をかけてまでではないかな……。
すると、リテマリアもこくりとうなずいた。
「セスアルト、かわいかったもの」
大丈夫なの、と視線で問いかけると思いのほか柔らかい笑みが返ってきた。無理していそうではない? それならいいのだけれど。
「では、朝食後に伺いましょう」
戸惑い気味だった侍女は、私たちの言葉を受けるとうなずく。うーん、よくわからないけれど、まあいいか。セスアルトには会いたかったもの。
「そもそも、セイラール様にはセスアルト様との接触を禁止する権利なんてないのに」
「ちょっと、聞こえますよ」
きっと私たちの訪問を伝えに行くのだろう。その去り際。侍女の一人がいらだちのこもった声でそうつぶやく。私たちに向けたものではないと知っている。知ってはいるけれど、久しぶりに聞いた声音に、知らず体がこわばる。なんだか不安にかられてリテマリアのすぐ横に行くと、リテマリアもきっと不安だったのだろう。すぐに手を握られた。
セイラールさんはどうしてこの家でこういう扱いを受けているのだろう。どうして父様はこんなにも妻をめとっているのだろう。きっとまだ子供の私たちには言われていないことが多すぎる。
「ねえ、リステリア」
「どうしたの?」
「エミルークさんも、一緒に行ってくれるかな?」
「エミルークさん?」
言えば一緒に行ってくれる気がする、けど。ふと見ると、リテマリアの手の震えはまだ止まっていない。なるほど。それでエミルークさん。うん、私も一緒にいてくれたら心強い。と言うことで、戻ってきた侍女に再びお使いをしてもらいました。
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