上 下
171 / 193
2章 学園生活

171話 王宮でのお見舞い(1)

しおりを挟む

 ゆっくりと目を開ける。知らない天井。何があったんだっけ……。

「目が覚めた?」

 ララさんの声がして、そちらを見るとこちらの様子をうかがうララさんが見えた。

「はい。
 えっと、ここは?」

「王宮の魔法師団だよ。
 もう、本当に驚いたよ。
 校外学習に行ったはずの副団長が血相を変えて、ウェルカを運んできたんだから」

 ふう、とララさんがため息を吐く。うう、申し訳ない。迷惑をかけてしまった。

「そんな顔しないの!
 傷は大丈夫?」

 傷……。そうだ、腕を槍で切られたんだ。そう思いだした途端、ずきりと痛み出す。そっと腕の方を見るとそこには包帯がまかれていた。

「まだ、少し痛いです」

「私はあまり治癒魔法が得意じゃないからね。
 さすがに完治はできなかったみたい」

「でも、治療してくださりありがとうございます」

 お礼を言うと少し照れたように視線をそらされてしまった。ララさんはそこで少しわざとらしく、そうだ、と話題転換をしてきた。

「あなたのお姉さんだっけ、アゼリア様が訪ねてきてたみたい。
 ひとまず目が覚めたって連絡しておくね」

 お姉様! もうずっと会えていない気がする。そんなお姉様にまでご心配をかけてしまうなんて……。

「ウェルカ嬢、目が覚めたようで何よりです」

 お姉様に久しぶりに会える、そう考えて少し緊張していると聞こえてきたのは先生の声だった。いや、今は副団長だった。

「勝手な行動をした者たちには、罰則が与えられます。
 学園の先生にそちらはお任せしてしまったので詳しくは知りませんが……」

 罰則。そっか、そうなったんだね。

「あの、どうしてそんなことをされたのが知っていますか?」

 一応訪ねてみるも、首は横に振られた。うん、そうだよね。

「それにしても、申し訳ありませんでした。
 あなたがいてくださるからと、チームに若手のものをつけてしまいました。
 実力はあるのですが、こういった場での対処は苦手なようです」

 そういわれて思い出すのは、チームの人たちが去っていったあと、その方向と私を見比べておろおろとしていた姿だ。うん、確かに苦手なみたいだね。

「ほかの方はどうなったのですか?」

「みんな無事に入り口にまで戻ってきましたよ。
 治癒が必要なけがをしたのはあなただけです」

 その言葉を聞いてほっとする。妙に魔獣が集まっていた気がするけれど……、って先生が何とかしていたね。あれ、私のせいで集まっていた気がするから、本当に良かった。

「ウェルカ!」

「お姉様⁉」

 こんな風に焦ったり、大声を出したりしているところを初めてみた。び、びっくりした。

「大丈夫?
 けがをしたって聞いたのだけれど」

「手当もしてもらえたので大丈夫ですよ。
 ご心配おかけしました」

「心配なんて、そんなのいいのよ。
 よかった、無事で」

 ギュッとお姉様に抱きしめられる。こうして抱きしめられるのはいつぶりだろう。温かい。ようやく、無事に帰ってくれたんだ、と実感がわいてくる。今更ながら自分、そしてその結界に魔獣が群がっていた様を思い出す。そうすると恐怖がわいてくるのだ。今はもう安全なところにいるにも関わらず。私は思わずギュッと抱きしめ返していた。

 ゆっくりと頭をなでてくれると、だんだんと瞼が重くなってくる。さっきまで、寝ていた、のに。もっとお姉様と、話していたい、のに。

「あら……。
 おやすみなさい、ウェルカ」

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

処理中です...