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2章 学園生活

162話 遠乗り

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 今日はとうとう遠乗りする日です! 本当に忙しいようで、もうすぐで今期も半分終わっている。
馬小屋に行くのは初めてで、迷うことはないだろうと思いながらも、早めに部屋を出ることにする。遠乗りは初めてなこともあり、少しどきどきとする。そして約束の時間よりも早い時間に馬小屋につくと、そこには二つの人影がいた。

「だから、もう帰ってくれないか?
 もうすぐ来てしまう」

「えー、別にいいじゃないか。
 だって久しぶりにレクト兄の休みだろう?
 俺も連れて行ってよ」

 あれは、フルージア公爵家の? どうしてここに……。それにしても出ていきづらい。まだ、時間はあるし、ね。

「……ウェルカ?」

 み、見つかった。いや、まあ隠れてもいなかったんだけどさ。

「ごきげんよう、ヴァーク。
 私、邪魔だったかしら?」

「いや、そんなことはないよ。
 行こうか」

 行こうか、って……。フルージア様はいいの⁉ いや、なんとも言えない顔でこちらを見てきているけれど。

「もういいだろう、マーフェ。
 そろそろ出たいのだが」

 少しうっとうしそうに言うヴァークに、それでもフルージア様はあきらめようとしない。一体どうしたんだろう。というか、そんなに一緒に行きたいのなら、私はまた別の機会でいいのだけれど。

「あの、やっぱり私はまた今度にいたしますか?」

 別にそれでも、と口にするとフルージア様はバツが悪そうな顔をした。そして今までよりも厳しい声でヴァークがフルージア様の名を呼んだ。

「彼女にここまで気を使わせてどうするんだ」

「だって……。
 わかりましたよ、ここはあきらめますって。
 ですが、絶対にまた一緒に遠乗りに行ってくれよ」

 ああ、と返事をすると、ようやくあきらめたようだ。困った顔をしてヴァークが手を差し伸べてくれた。


 馬に乗り始めて少しすると、ようやくヴァークが口を開いてくれた。こう、彼の前に乗って落ちないように支えられているわけでして。大分身長差があるからすっぽりと抱えられる形になっているから、安定感は抜群だ。でも、この体勢なんというか緊張する。何よりずっと沈黙だったのがとてもきつかったのだ。

「先ほどは、すみませんでした」

「え⁉
 いえ、気になさらないでください」

 驚いたけれど、それだけだし。

「彼とは幼馴染でしてね。
 僕の方が年上なこともあって、慕ってくれているのはうれしいのですが」

 行きすぎなところもあって、というヴァークに私はなんといっていいのかわからない。結局あいまいな笑みを返すだけで終わってしまった。

 そこからは他愛もないことをぽつぽつと話していくことになった。目的地については聞いていなかったけれど、どうやら自然公園に向かっていたようだ。学園から馬で3時間ほどのところにあるそこは、確かに少しの遠出にはちょうど良い。

「前に庭を案内した時に楽しそうでしたので」

「ありがとう、ございます」

 あることは知っていたけれど、実は初めて来た。いろいろな動物と触れ合うこともできるらしいので、とても楽しみだ。
 ゆっくりと公園を回りつつ、会話を楽しんでいく。そこで、私は前から少し気になっていたことを切り出すことにした。

「あの、ヴァーク。
 一つ、お願いがあるのです」

「お願い、ですか?」

「わ、私には敬語なんて使わないで、もっとラフに話してくれませんか?
ヴァークのような年上の方にそう丁寧に話されるのは、何と言いますか……」

 初対面とかあまりない付き合いならばあまり気にならないのだけれど、長い付き合いになっていくのならば、やっぱりもっと楽に話してほしい。私の突然の申し出にヴァークは一瞬驚いた顔をした後に笑った。

「君がそれを望むのなら。
 でも、なら君もそうしてくれ」

 私が、ヴァークに……。気まずい気もするが、でもそういわれたら聞くしかないよね。

「はい、そうするわ」

「そう、僕もウェルカに頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと、ですか?」

「刺繍をね、頼みたいんだ。
 今度見習いを卒業して、近衛騎士団に正式に入るからね。 
 いろいろ一新しようと思っているんだけれど、襟元に所属を示す刺繍をしなくてはいけなくて。
 できたらウェルカにやってほしいんだ」

 ヴァークの、隊服の襟に刺繍……。

「はい!
 ぜひやらせてください」

「ありがとう。
 制服ができたら君に届けさせるね」

 最近は刺繍もさぼり気味だったから練習しておかなくては! せっかくだし、何か他にも作って差し上げようかな。戦いに身を置くわけだし、こう、身を守るお守りみたいなものを作りたい。

 そこからゆっくりと自然公園を見て回ったり、動物との触れ合いを楽しんだりしているとあっという間に日は暮れて行ってしまった。


「今日はとても楽しかった。
 また一緒にどこかに出かけたいね」

「はい、ぜひ」

 寮のエントランスで別れると、急に疲れを感じる。今日はどこか浮かれてしまっていたことに、私はようやく気が付いた。

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