上 下
145 / 193
2章 学園生活

145話 街遊び(2)

しおりを挟む

「ここのお店にはかわいい小物がたくさんありますよ」

「じゃあ、見てみたいな」

 少し小さめのお店だが、商品がたくさん並べられている。その並べ方も、余分なスペースがないし、とても見やすく整えられている。自然に期待度が上がった。

「おや、久しぶりだね、ルナ。
 今日は人とい……」

 奥の方から人が出てくる。ルナベレークと顔見知りだったようで、気軽に声をかけてきたのはわかる。でも、どうして私の顔を見て固まっているのかな?

「こ、これはウェルカ様。
 ようこそいらっしゃいました」

 ありゃ、速攻でばれてしまった。まあ、当たり前といえば当たり前か。

「ごきげんよう。
 少し見せてもらってもいいかしら?」

 もちろんです、とこくこくとうなずく店主がなんだかおかしくて、私はくすりと笑ってしまった。
 店の中を一通り見て回る。その中で一つ、とあるペンに目が止まった。柄の部分に花が閉じ込められているようで、とてもかわいかったのだ。きれいな紫の花とそれを際立たせるような緑の葉、芽がとても気に入った。

「そちらをご購入なさいますか?」

 どうしよう……。でも、せっかくだもんね。
 私がうなずくと、ルナベレークがすぐに会計を済ませて商品を受け取ってくれた。それを確認すると、私たちはまたお店を回ることにした。

 結局、行儀が悪いと眉をしかめられるのも気にせずに露店で食べ物を買って食べ歩きをしたり、ほかにも店を回ったりしている間にいつの間にかすっかり日は暮れてしまっていた。

「今日は本当に楽しかったわ。
 たまにはこういう風に過ごすのもいいわね」

「はい。
 気分転換になったのならなによりです」

「一日付き合わせてしまって悪かったわね」

 いえ、という二人に苦笑しつつも私たちは屋敷へと戻っていった。

「お帰りなさい、ウェルカ。
 街は楽しかったかしら?」

「お母様!
 はい、とても楽しかったです」

 それはよかったわ、とお母様は微笑む。でもなんでこんなところにいるんだろう?

「少し時間あるかしら?
 お話できたらうれしいのだけれど」

「もちろん大丈夫です」

「ありがとう。
 私の部屋で話しましょう」

 そういうと、お母様はさっそく歩き始めてしまう。私はあわててその後ろをついていった。
 お母様の部屋は2階に上がって近くのところにあり、すぐに到着する。お母様に勧められて、私はお母様の正面に座ることになった。

「それで、あの……?」

「旦那様に、聞いたの。
 ヴァーレクト様とのご婚約の話をあなたにしたと」

「はい」

「どう、するつもりなの?
 セイットとのこともあるでしょう?」

 セイットのこと、お母様も知っていたの⁉ 叔父様しか知らないと思っていたんだけど……。ということはお父様も知っているのだろう。うわ、恥ずかしい。

「もちろん、無理強いをするつもりはないわ。
 でも、しっかり考えてみてほしいな、って」

 お母様の瞳はまっすぐ私を見ている。そこには心配だと、そうはっきりかかれている。しっかり、考えるとするならば私の答えは昨日には決まって、いるんだ。

「なら、私はヴァーレクト様と婚約したいです。
 素敵な方だと、そう思いましたから」

 そう、絞り出す。きっとこれで間違っていないはずだ。

「本当に、それで……。
 いえ、そう、わかったわ。
 旦那様には、私からそうお伝えしますね」

 はい、と私は何とか答える。どうして、こんなにも自分の発言に心が重く感じるのか、わからなかった。

「なにかあったら、いえ、何もなくてもいいの。
 私にぜひ話を聞かせて。
 あなたの本当の気持ちを」

「お母様……。
 ええ、わかりました」

「引き留めてしまってごめんなさいね。
 もう部屋に戻っていいわ」

 ありがとうございます、と言って私は部屋に戻っていった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...