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2章 学園生活
132話 領地へ(3)
しおりを挟む荷物を早速紐解くと、しわになりやすいドレスを出していく。まあ、すべて侍女がやってくれるから、私は何もしなくていいんだけれど。これは早速暇?
「ねえ、イルナ。
今日は何か予定があったかしら?」
「本日は夕飯まで特に予定はござません」
やっぱり。旅で疲れたのは確かだから、今日は休んでしまうという手もある。けれどせっかくだから町に降りてみたい気もするんだよね。
「どうかなさいましたか?」
「この後どうしようかと迷っているのです。
休むか、町に降りるか……」
ぽつりとつぶやいた言葉に、片づけをしてくれていたルナベークがこちらを見た。えっと?
「少しよろしいでしょうか?」
申し訳なさそうに声をかけてきたルナベークに、うなずきを返す。するとルナベークはあの、と言いづらそうに口を開いた。
「本日町へ降りるのは厳しいかと思います。
まずは領民に対するお披露目を済ませなくてはいけませんので……」
「お披露目、ですか?」
貴族の方々に対するお披露目があるのは知っている。私の年齢のこともあって大規模なお茶会を開くことになっているのだ。でも領民に対するって何?
思わず顔が引きつっているけれど、仕方がない。
「ええ。
お茶会は5日後を予定しておりますが、領民へのお披露目は2日後を予定しております」
聞いておりませんか? と戸惑い気味に尋ねられてしまったけれど、聞いていない。何それ、状態だ。人の前立つのって苦手なのに!
「そ、その。
領民へのお披露目とはいったい何をするのですか?」
「お庭に面したところに大きなバルコニーがあるのですが、そこに立っていただくのみでございます。
当日は屋敷を領民に開放し、ごちそうをふるまうのです」
みな、とても楽しみにしておりますよ、と微笑む。た、楽しみにって……。
でも私がやるのはバルコニーに立つだけ!うん、きっと大丈夫。
「でも、歓迎、してくださるのですね」
思わずこぼれてしまった言葉に視線が集まるのを感じる。しまった。少し気を緩めすぎたみたいだ。
「お嬢様?」
「ごめんなさい、何でもないの」
慌てて手を振るも、やっぱりごまかされてはくれない。何とも気まずい空気になってしまった。
「あの、私が言うのもおこがましいかもしれませんが……。
皆様、領民もご主人様一家も心から歓迎されているんですよ。
ご主人様にはご息女はいらっしゃいませんでしたからね」
「でも、私はよそからいきなりやってきたでしょう?」
「それでも、アリストリア様のご息女です。
アリストリア様も皆様からとても愛されていました」
「お母様を、知っているの?」
お母様のお名前、なんだか久しぶりに聞いた気がする。つい、お母様の名前に反応してしまうと、ルナベークはとてもやさしい顔をして笑っていた。
「私は存じ上げているのは、ほんのわずかなことでございます。
このお屋敷にお勤めするようになって間もなく、バーセリク様に嫁いでいかれましたから」
この屋敷にいた時の、侍女から見たお母様。それは気になるかもしれない。
「ねえ、ルナベーク。
手が空いたらでいいのだけれど、あなたが知っているお母様のこと教えてくださらない?」
ルナベークは喜んで、と答えてくれた。
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