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2章 学園生活
108話 宿泊(4)
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「ウェルカ嬢!
よかった、元気になられたのですね」
イルナに迎え入れられ部屋に入るなり、先生は嬉しそうに笑ってそう声をかけてくださる。その様子からもどれだけ心配をかけたか伝わってきて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「も、申し訳ございません。
アゼリア様」
どう反応したらいいのかわからなくて固まっていると、お姉様に謝る先生の声が聞こえる。どうやらお姉様に挨拶もせずに、真っ先に私に話しかけたことを謝っていたらしい。
「大丈夫ですわ。
それじゃあウェルカ、またあとでね」
そういうと、そのままお姉様は部屋を出て行ってしまった。いや、私どうしたらいいのかわからないんだけど⁉
「ウェルカ嬢、申し訳ありませんでした。
ずっとそばにいるといっておきながら、側にいなかったどころか君たちを危険にさらしてしまった」
そういって、先生は深く頭を下げる。貴族名を名乗るものは簡単に頭を下げてはいけない。それは私でも知っていることだ。でも、先生は頭を下げて謝るべきだとそう判断した。それだけで十分じゃないか。
「私たちは、こうしてけがをすることもなく帰ってこられました。
それに、私は魔獣を一度も見ていないんです。
それはすべて先生方のおかげでしょう?
ですから、大丈夫です」
ゆっくりと、言葉を紡いでいく。あの魔獣狩りの責任者は先生だったのだ。有事の際に私たちの側にいられないのは仕方なく、それでも最大限安全を確保しようとしてくれた。それだけでもありがたいことなんだよね。
なおも何かを言い連ねようとした先生を視線でやんわりと止める。幸いそれで伝わったようだ。
「それにしても、君とセイットさんの話は前線にまで届いていましたよ」
前線までうわさが届いていた? なんだか嫌な予感しかしない。
「重症をおい、もう二度と会えないと思っていた仲間たちを助けてくれる天使が教会にはいると、そう聞きました。
日夜戦って、疲弊していた私たちにとってそれがどれほど希望となったか、きっと君はわからないのでしょうね」
「あの、お役に立てたのならば何よりなのですが、治療はほとんどセイットが行ったのです。
私は指示のもと動いていただけで、何もできませんでしたから」
先生の話だと、まるで私も皆さんを救ったようではないか。何とか否定をしなくては、と考えているとそんな言葉が自分からできてきた。耳がいたい話だが、これが事実だ。
「いいえ、あなたは十分、いえそれ以上に働いてくれました。
あなたのおかげで助かった命も多くあるのです。
改めて教会にて、休む暇もなく治療し続けてくださったあなたに感謝を」
そういいながら、先生は座っていた椅子を立ち、私の側によって来る。そして、私の手の甲に軽い口づけをする。
それを認識した瞬間、私の顔は真っ赤になってしまった。そういうことをやられるとは全く思っていなかったのだ。
「ふがいなく、これからもご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。
それでも、これからも君たちの師として魔法を教えていいでしょうか?」
迷子になった子のように、不安げに揺れる瞳。きっと先生はいまだに迷っているのだ。このまま私たちに教え続けてもいいのか。だったら……。
「もちろんです!
これからもよろしくお願いします」
いいながら、今度は私が頭を下げる。私の気持ちがちゃんと伝わりますように、そんな気持ちを込めながら下げたままでいると、驚いた先生はすぐに顔を上げて、といってきた。
「ありがとうございます。
これからもよろしくお願いしますね」
もうその笑顔に迷っている様子はなくて、よかったとついほっとしてしまう。
「それでは、まだ病み上がりなのに長々とお邪魔してしまいましたね。
また、授業でお会いしましょう」
「はい」
そして次の授業の予定を伝えると、先生は帰っていった。というか、確かもともと多忙な方なのだ。今もきっと貴重な時間を割いてこちらに会いにきてくれた。それが何だかとても嬉しかった。
よかった、元気になられたのですね」
イルナに迎え入れられ部屋に入るなり、先生は嬉しそうに笑ってそう声をかけてくださる。その様子からもどれだけ心配をかけたか伝わってきて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「も、申し訳ございません。
アゼリア様」
どう反応したらいいのかわからなくて固まっていると、お姉様に謝る先生の声が聞こえる。どうやらお姉様に挨拶もせずに、真っ先に私に話しかけたことを謝っていたらしい。
「大丈夫ですわ。
それじゃあウェルカ、またあとでね」
そういうと、そのままお姉様は部屋を出て行ってしまった。いや、私どうしたらいいのかわからないんだけど⁉
「ウェルカ嬢、申し訳ありませんでした。
ずっとそばにいるといっておきながら、側にいなかったどころか君たちを危険にさらしてしまった」
そういって、先生は深く頭を下げる。貴族名を名乗るものは簡単に頭を下げてはいけない。それは私でも知っていることだ。でも、先生は頭を下げて謝るべきだとそう判断した。それだけで十分じゃないか。
「私たちは、こうしてけがをすることもなく帰ってこられました。
それに、私は魔獣を一度も見ていないんです。
それはすべて先生方のおかげでしょう?
ですから、大丈夫です」
ゆっくりと、言葉を紡いでいく。あの魔獣狩りの責任者は先生だったのだ。有事の際に私たちの側にいられないのは仕方なく、それでも最大限安全を確保しようとしてくれた。それだけでもありがたいことなんだよね。
なおも何かを言い連ねようとした先生を視線でやんわりと止める。幸いそれで伝わったようだ。
「それにしても、君とセイットさんの話は前線にまで届いていましたよ」
前線までうわさが届いていた? なんだか嫌な予感しかしない。
「重症をおい、もう二度と会えないと思っていた仲間たちを助けてくれる天使が教会にはいると、そう聞きました。
日夜戦って、疲弊していた私たちにとってそれがどれほど希望となったか、きっと君はわからないのでしょうね」
「あの、お役に立てたのならば何よりなのですが、治療はほとんどセイットが行ったのです。
私は指示のもと動いていただけで、何もできませんでしたから」
先生の話だと、まるで私も皆さんを救ったようではないか。何とか否定をしなくては、と考えているとそんな言葉が自分からできてきた。耳がいたい話だが、これが事実だ。
「いいえ、あなたは十分、いえそれ以上に働いてくれました。
あなたのおかげで助かった命も多くあるのです。
改めて教会にて、休む暇もなく治療し続けてくださったあなたに感謝を」
そういいながら、先生は座っていた椅子を立ち、私の側によって来る。そして、私の手の甲に軽い口づけをする。
それを認識した瞬間、私の顔は真っ赤になってしまった。そういうことをやられるとは全く思っていなかったのだ。
「ふがいなく、これからもご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。
それでも、これからも君たちの師として魔法を教えていいでしょうか?」
迷子になった子のように、不安げに揺れる瞳。きっと先生はいまだに迷っているのだ。このまま私たちに教え続けてもいいのか。だったら……。
「もちろんです!
これからもよろしくお願いします」
いいながら、今度は私が頭を下げる。私の気持ちがちゃんと伝わりますように、そんな気持ちを込めながら下げたままでいると、驚いた先生はすぐに顔を上げて、といってきた。
「ありがとうございます。
これからもよろしくお願いしますね」
もうその笑顔に迷っている様子はなくて、よかったとついほっとしてしまう。
「それでは、まだ病み上がりなのに長々とお邪魔してしまいましたね。
また、授業でお会いしましょう」
「はい」
そして次の授業の予定を伝えると、先生は帰っていった。というか、確かもともと多忙な方なのだ。今もきっと貴重な時間を割いてこちらに会いにきてくれた。それが何だかとても嬉しかった。
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