『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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1.5章 逃走

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 結局そのまま熱出して寝込んでしまった……。つくづく迷惑しかかけない。でも、きっともう大丈夫。これまで以上に厳重に鍵をしておいたから。その間に任務を達成したグルースさんたちは帰っていったらしい。

「えーっと、銀貨1枚が3つと、銀貨4枚が2つ、それと銅貨35枚が1つっすから、えーっと……」

 元気になってきたし、なかなか暇だ、と思っているとそんな声が聞こえてきた。あ、なんか売っているみたい。この声はフィーチャさんかな? 計算にてこずっている声がする。

このくらいなら、いいかな?

「銀貨11枚と銅貨35枚、だよ」

「え、あ、ハール?」
 
 あ、驚かせちゃった。でも早くしないとお客さん嫌がっちゃうものね。早く、とせかすと、ようやくフィーチャさんは値段を口にした。

「じゃあ、銀貨12枚で」

 銀貨12枚だから……。

「お返しは銅貨65枚です」

いや、65枚って。そう思っても突っ込まないものである。今度はもう対応できたみたいで、お客さんが帰っていった。

「いやー、助かったっすよハール。
 計算得意なんすね?」

「う、うん。
 計算だけは」

 え、どうしてそんな風に目を輝かしているの、フィーチャさん?

「ねえ、お願いっす!
 これからも手伝ってください!」

 え、これからも? ……僕でも、役に立てる、のかな? お世話になりっぱなしだし、表に立たなければ……。

「う、うん……」

「わーーー!
 嬉しいっす!」

「で、でも僕絶対にお客さんの前に出ないよ!?」

「わかってるっすよ」

 にこにこと嬉しそうなフィーチャさん。いや、なんで? そ、そんなに計算苦手だったの?

 まだ人前には出れない。けれど計算が得意、ということで何かと経理関係を任されることに。まさか、こんなことになるとは。

「いや、本当に助かるわ!
 計算、早くて正確だし」

「い、いえ」

 うう、そんなに褒められると申し訳ない気持ちになってくる。いや、もちろん嬉しいんだけどね!? 僕が人の視線を怖がっていることも気が付いているのだろう。極力外の人に触れないで済むように気を使ってくれているし。

 でも、僕にでも役に立てることがあるのがとても嬉しかった。今までお荷物だったけれど、ちゃんと一員になれたみたいで。

「あーー、重い! 
 水運びって本当に大変っす」

「そうだね。
 でもないと生きていけないからな」

「そんなことはわかってるっすよ」

 水? ひょこ、と顔を出すとフィーチャさんとハミルさん兄弟が水を運んでいるところだった。サーグリア商団特性の木桶に入れて運んでいるそれは、もちろん水が隙間から漏れることもない優秀なもの。だが、重さだけはどうにもできでいなかった。

 水、みず、みず……。なんかいい案があった気がする。……あ! 思い出した。確か水を入れる容器をボールとかにして転がしながら運ぶんだ。せっかくだ、ブラサさんに作ってもらおう。これができたら、きっともっと水くみが簡単になる。

「ぶ、ブラサさん」

「ハール。
 俺に何か用か?」

「あの、お願いが……」

 身振り手振りで何とか形を伝える。ボールの形でもいいし、ドーナツ状でもいい。作るのはボールの方が作りやすいだろう。

--------------------
「ハール、できたぞ」

 数日後、ブラサさんから急に呼び出されたと思ったら急にそういわれた。できたって、もしかしてあれ!? もうできたの?

「これでどうだ?」

 受け取ったものをじっくりと見てみる。うん、よく丸められている。

「これ、水は入れてみました?」

「ああ、入れてみた。
 ちゃんと漏れないことは確認した」

「すごい!
 こんなにすぐに作ってもらえるなんて」

「言われたときに、ちょうどいいものがあったからな。
 満足してもらえてよかった」

「これ、使ってもらっていいですか?」

 もちろんだ、と答えてくれたブラサさんに甘えて、早速今日の担当、ウィリーさんに使ってもらうことに。うまくいくといいな。

「は、ハール!
 あれ、すごいね。
 水持って帰ってくるの、すっごく楽になったよ」

「本当ですか?」

 うん、と笑顔を見せるウィリーさん。よ、よかった……。初めて、僕の、『陽斗』の知識が役にたった。よかった……。

「あの、それたくさん作って売れませんか?」

「いいと思う!
 水汲みに困っている人、たくさんいるもの」

「頑張る」

「おーおー、なんかにぎやかだな。
 どうした?」

「あ!
 パーレンさん、聞いてくださいよ!」

 こうしてあれよ、あれよとボール型の水入れは新商品として発売。即完売という異例の商品になった。

「いやぁ、だってお宅のところの人が、毎日楽しそうに水をもちかえってただろ?
 そんなに便利なものかって、ずっと気になったのよ」

 とのこと。

 こうなってくると、なかなか楽しい。次は何がいいかなって考える。まずはみんなの困りごとを解消したい。あとは玩具とかもいいよね。オ〇ロ、名前は使えないからチップ、という名前ですすいと作ってみる。ケリーとやってみたけれど、これ単純に見えて奥が深い。あっという間にはまって、夜更かしして怒られたこともあった。

---------------------
「だんだん笑顔を見せるようになってきたな」

「ええ。
 フードはまだ手放せていないけれど……。
 まだまだ先は長いと思うけれど、本当によかった」

「しっかし、ハールが考えるものは本当にすごいよな。
 アッという間にうちの商団の人気商品になっちまった」

「うん。
 あれから格段に売りあげが上がったし」

「はー、本当に感謝しなきゃな」
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