『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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6章 再会と神島

とある神の願い

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 まずい、かもしれない。思っていたよりも安定しない。

 目の前に広がる『世界』。私が創った生まれたばかりの『世界』は一向に安定してくれくれなかった。気を抜けばすぐに大洪水、大地震、大噴火。何度地形が変わったか、もうわからない。きっと私の力ではこのまま、すべての生物が死に絶える。

 仕方ない、消耗が激しいからと避けてきたけれど、一時の大惨事には目をつむることにして、神使を作りだそう。今後生物が生きていくうえで必要な守護者を。

 そうして作り出したのは7体の神使。最初に生まれた神使にはシャリラント、と名付けた。私の分身、は言い過ぎかもしれないがとにかくすべてを詰め込んだ。本当はそれと同じ神使を生み出したかったが、やはり無理か。それをしているうちにこの『世界』が崩壊してしまう。そう判断して、シャリラントから特に重要な要素、6つをそれぞれの神使に託したのだ。

 地に降りさせるのには、それぞれの依り代、が必要だった。何がいいか、どうせならそのまま武器として使えるものがいいか。なら、剣がいい。同じ形にする必要はない、それぞれに合った形で。

「ミベラ神。
 大丈夫ですか?」

「シャリラント。
 あはは、神である私を心配してくれているの?」

「心配です。
 あなたは我々にとって大切な方です」

「私から生まれたのに、不思議なことを言うね。
 神使たちは、私が思っていたよりも面白い存在になってくれた」

 自分が気に入った人を主人に選ぶといい。行っておいで、かわいい子供たち。どうか、この『世界』に安定を。


 少し前から不思議な感覚がしていた。たまに、ふと下のことがよく見えるようになるのだ。もちろん私はいつでも下のことを見ることができるが、それは全体を俯瞰できるということ。細かいところまでは見ることができなかった。しかし、今はたまにだがとある少女を通して細かいところを見ることができる。その少女はリンカ、といった。最初のシャリラントの主人となった少女。

 どうやらその子は私との親和性が高かったらしい。だから、たまたまその子と繋がることで、そのような不思議なことが起きていたのだ。そのつながりはシャリラントがリンカを主人としたことで、さらに強くなった。

 そして、その少女は本当に心根が優しい子だった。常に他人のために尽くし、他人のことを貶めることさえしない。まっすぐで、太陽、みたいな子だった。


『リンカ、各地に神殿を作ってほしいんだ。
 私の存在を認め、そして慕ってくれるとそれが力になる』

 それが私がリンカにした初めての頼みだった。初めはわからなかったが、どうやら信仰というものは、神にとって力らしい。神使たちの存在により、各地に神である私の存在を敬うものが出てきた。それだけで一気に安定化が進んだのだ。

「わかりました、ミベラ様。
 きっとお役に立って見せます」

 にこりと、そう請け負ってくれたリンカはすぐに行動を開始してくれた。シャリラントの力、それと私もできる限りで力を貸した。そのおかげか、全体に神殿ができ、そして私の存在が認知されるまであまり時間はいらなかった。

「ミベラ様、聞いてください。
 私、なんだか聖女として頭を下げられるのです。
 私はなんの力も持たないただの人なのに」

『私とこうして話せるだけで、「ただの」ではないと思うが』

「そうですよ。 
 それにこのミベラの神剣たる私が直接力を貸しているのですよ? 
 私が主人と認めるのはあなただけです」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわ」

 私としては皆が私のことを認知し、そして支えてくれるだけでその形は何でもよかったのだが、人間は面白い。勝手に宗教、というものを構築していった。私の名を関して『ミベラ教』という名のついたそれは、教皇というものを頂点として国のようによくまとまっていた。ただ、大きくなりすぎたようで、もともと国を与えていた者たちからは白い眼を向けられている。それは、私にとって必要なものであるのに。

 そうだ、いつだったかの大災害で新たな島ができ上っていたはずだ。大きさもそれなりにあり、安定もしている。うん、あそこをこのリンカを筆頭とした宗教に与えるのも悪くない。いまだ誰も住んでいないあそこなら都合もよいだろう。

「まあ、私たちに新しい島を与えてくださるのですか!? 
 ありがとうございます。
 今、少し困った状況になっていまして……」

 困った状況。それには心当たりがあった。アナベルク、という国の王の話だろう。あの国は好きではない。正直、あれは失敗作だ。あそこまで欲にまみれた存在になるとは……。

 そいつらは今、どうやらリンカを狙っているらしい。私と直接話すこともできるリンカを手に入れ、そして自分たちの立場を強いものにしたいのだ。そんなこと、許さない。


 そうして新たに与えた島は神島、という名がつけられた。ミベラ教の総本山として、閉ざされた楽園としてその島は本当にちょうどいいものだった。そこから、私の願いを忘れずにいてくれたリンカの進言で、各地の神殿に人を送っているようだ。

 荒れていた『世界』が神使たち、そしてその主たち、特にリンカのおかげで平和、と言える日々を過ごせるようになってきたころ。特に問題視されていたのは、あのアナベルクという国だった。

「また、あの国が問題を起こしたの……」

「アナベルクは解体すべきでは?」

「そうだ、問題しか起こさない」

「だが、武装力でも随一だぞ。
 それに魔力も。
 どうも精霊様に好かれる体質らしい」

「どうにも太刀打ちできそうにない」

 毎日のように頭を抱える人たち。これに関しては申し訳ないと思った。性格などがよくわからないままに、あそこの人に力を与えてしまったのだから。とはいえ、今更それを取り上げる、というのもまた難しい話だった。

------------------------

 事件が起きたのはそんなある日のことだった。

『なんだ!?
 急に不安定に?』

 これは、アナベルク? あそこから何かとてつもないエネルギ―のものが。無理だ、私だけでは止められない。なんだ、一体。

「ミベラ様!
 一体何が起きているのですか!?」

『詳しいことはわからない。
 どうやら、アナベルクのものが力を暴走させたらしい。
 精霊も力を貸していて、とても止められる状態では……』

「わ、私に何かできることは」

『無理だ。
 人の力で止められるものではない。
 自然に止まるのを待つしか……』

「そ、それではあの大陸にいる者たちはどうなるのですか?」

 それは、おそらく……。口に出さなくてもわかったのだろう。リンカはどこかへと走り去っていった。

 ああ、大混乱を起こしている。みんなが祈っている。私に、すがっている。どこまでできる? 確かに私にとって祈りは力だ。だが、暴走が大きすぎる。まさか、人間たちのおかげで安定したこの世界が、人間たちのせいでまた不安定になるなんて。

「み、ミベラ神!
 リンカが!」

 慌てたシャリラントの声。慌ててリンカに焦点を合わせると、どうやらリンカは私と最もつながることができる洞窟に走っていたらしい。どうしてそんなにシャリラントは慌てている?

 一体何を、とその行動を見ているとどうやら祈りをささげようとしているようだ。私と最も親和性の高い少女が、ただひたすらにこの地に生きるすべての生き物の平和を願って、全身全霊で。

『ま、まて!』

 ぐん、と力が入ってくるのを感じる。リンカの力だ。こんなに私に流しては、絶対にリンカが持たない。私は、私はあの地に住む無数の人よりもリンカの方が大切だというのに!だが、私にはリンカの力を受け取らない方法がない。

『シャリラント!』

「やっていますが!」

 どうか、どうかリンカの命が消える前に。その前に間に合ってくれ。

 不意にリンカを中心に大きな氷の柱ができた。なんとか間に合った? よかった、リンカからの力が止まった。受け取った力は返せない。まずは大陸の魔法、そして精霊の暴走を止めなければ。

 とまれ、とまれ、止まれ。もうそこには面白いものは何も残っていない。これ以上そこにいても苦しい思いをするだけ。今こちらに、リンカのもとに行くならばきっと静寂が訪れる。静寂という名の平穏が。だから、どうかリンカを救ってくれ。

 どのくらいの時間そんな風にしていただろう。気が付けば暴走は収まり、残った精霊は皆リンカのもとに集まっていた。それでも被害は大きい。

『シャリラント、リンカは?』

「あ、あ、ああ……。
 リンカは、リンカは恐らく死んではいないです。
 精霊が命をつなぎました。
 でも、私との契約は途切れました」

「……そうか。
 一度こちらに戻っておいで」

 そうして戻ってきたシャリラント、それとほかの神使も一時的にこちらに戻ってきてもらった。今後のことを話すために。

「力のある精霊は今、リンカのもとにいる。
 今後は姿を現すことができないくらいの精霊が人間の魔法を手助けしていく。
 だが、アナベルクはだめだ。
 私はもう、あそこに力を貸すことはできない……」

「ミベラ神……。
 ええ、わかりました。
 私も、あそこの人間は好きになれません」

シャリラントのほかの面々もうなずく。彼らは私の分身のようなものなのだ。考えからもおのずと似てくるのだろう。あとの問題は……。

「資源はどうしましょう。
 あの一件で、尽きてしまったところもある」

 資源、か。それだったら一つ心当たりがある。リンカの一件では私も思っていなかった結果を残した。リンカが眠っているあの地で、新たな力が生まれたのだ。中央に大きな宝石がある、それだけの空間だったのにも関わらず、リンカが眠りについたのち、様々な資源が生まれたのだ。

 まあ、あの地は誰も踏み入らせないようにしたため、まだ気が付かれていないが。

 無垢な魂を犠牲にはできないが、ちょうどよい魂がある。きっとあれをもとにすれば……。

「何か考えがあるようで安心しました。
 これからも我らはあなたに従うのみです」

 話はついた、とほかの神使が消える中、シャリラントだけがそばに残った。これからは余計に忙しくなる。シャリラントにも誰か、他の主を与えるか。

 罪人の穢れた魂をもとにして作られた資源の塊、人間にダンジョン、と呼ばれたものは無事に完成した。だが、ここで誤算が一つ。自分の持ち物をとらえるという意識が働くのか、詳しくはわからないがそのダンジョンには魔獣、と呼ばれる凶悪な生物が生み出されるのだ。まさに主人に似ている。

 リンカのもとに生まれないのは、ひとえにリンカの心根の問題。あの少女は本当にいつでも人のためを思っていた。

 だが、まあ自由にとっていかれても困る。この辺りは放置でいいか。シャリラントにも新たな主が付いたし、きっと安定的に資源は取れるだろう。

-----------------------

「なぜだ!
 なぜ、人間とはこんなに勝手なのだ!」

 なぜ、私の代行者の名をかたり勝手に罰を与えているのだ。私はそんな些末なことを気にしたりしない。なぜ資源がないと嘆くのだ。そなたらの目の前に用意したのに。それに、資源だって、もとはと言えば、人間たちが勝手に消費していったのだ。

 せめて、シャリラントの新たな主がリンカのようであったなら。それなら救いはあったのに。新たなシャリラントの主は、自分中心のものだった。何をするにも自分の利になるかを考える。シャリラントのことも下僕か何かと勘違いしてる。

 ああ、どうして、どうして人間はこんなにも……、こんなにも欲にまみれている? 私はきっとこの世界の仕組みを間違えた。この世界では欲望がその人の力になってしまう。魔法なんて、その最たるものだ。私への祈りは、あくまでこの世界のための力。神聖な気持ちほど本人を助ける力にはなってくれなかった。

 なんとか神島だけは死守した。あそこにはもともとリンカのダンジョンがある。なんとか、よこしまなものが入ってこられないようにできた。

 だが、もう疲れてしまったよ……。好き勝手して、そして困った時だけ頼る。私は、もう……。リンカのようなものにまた会いたかった。それだけが願いだった。人間は愛おしいものだと、大切に守るものだと、そういう気持ちを思い出したかったのに。もう、私には無理だ。

-----------------------

 そんなとき、気まぐれに地球の神が遊びに来た。魔法ではなく頭脳が発展した世界。

「なんだか大変そうだね、ミベラ。
 ……ねえ、こっちに面白い人間がいるんだ。
 もしよければ、君のところにあげるよ」

「どういう、ことですか?」

「んーっとね、彼の死後、魂を君に譲るってことさ。
 後からね、もう一人受け入れてほしいんだけれど、まあそれはまた後の話かな」

 勝手に話を進めるな、そういいたかったがもう否定するのも面倒だった。まあ、人間なんて変わらない。今は魂の数が減っているし、二人くらい受け入れられるだろう。

 そうしてまず初めに受け取ったのが弥登陽斗の魂だった。こちらの世界で生きていけるように魂をいじっていると、いろんな記憶が見れた。到底リンカに似ているとは思えないが……。そうか、この人も勝手な欲望に殺されたのか。

 初めての試みにかなり手間取ってしまったが、これでこの魂は私の世界でもちゃんと生きられるようになっただろう。さて、どこに生み落とそう? いや、選択肢などないか。アナベルクの王族は世界屈指の魔力量を誇る。そんな奴とミラの民、と呼ばれる娘の子。それしかこの魂の器にはなりえない。

しかし、あそこはなぜか今でも勢力を伸ばしている。本当に仕組みを間違えた。さて、欲望に殺された彼が、それに憎しみの感情も抱かなかった彼が、欲望すら力へと変えることができる私の世界でどんなふうに成長するのか、楽しみにしていようか。

 それに彼はどうやら『特別』な存在になりたかったらしい。ならば、困ったときには常に助けてもらえる、そういう魅力を与えてやろう。ああ、そうだシャリラントも。いままで二人の主人しか持たなかったシャリラントはいい加減暇そう、というのもあったが、力は確かだ。

 どうせ君も、いつかは欲望に染まって、そして自分のためだけに生きるようになるんだろう? もう飽き飽きした人間の人生、というやつ。もう少しだけ、見ていてやってもいいかもしれない。

 だが、地球の神も意地悪だ。どちらに対する意地悪か知らないが、まさかああいう人もこちらに送れとは。死亡時期にはだいぶ差があったが、陽斗で手間取っていた分、こちらでの年齢差はあまり気にならない程度だろう。


 せいぜい、私を楽しませてみろ。

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