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6章 再会と神島
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しおりを挟む何とか和解できてほっとした数日後。俺はとうとう始まりのダンジョンの入り口に立っていた。ここまで案内できる人は限られているようで、今回は枢機卿であるグラン卿が連れてきてくれた。でも、この方も中には入れない、と言っていた。
「クリエッタ、これが最後の確認だ。
本当に一緒にはいっていいの?」
『うん。
きっと大丈夫』
心配になってクリエッタに問いかけるも、しっかりとした返事が返ってくる。こうしてクリエッタの心配をするにはある理由があった。宴が終わった後、部屋に戻ってからシャリラントが話していたのだ。始まりのダンジョンに流れる強すぎる精霊の母の力に「初期化」されるかもしれない、と。「初期化」、つまりはすべてを忘れて生まれたての状態に戻るかもしれないということ。
その話を聞いてから何度も確認した。でも、そのたびにクリエッタは一緒に入る、と言ってくれた。きっと、そうはならないから、と。クリエッタは俺にとって大切な仲間だ。出会ってからの期間は短いものの、すぐそばにいてくれて、母上との思い出を共有できる。だから、失いたくない。それでも、付いていくと言ってくれたクリエッタを無視することもできず、俺は結局一緒にダンジョンへ連れていくことにした。
「それでは、行ってらっしゃいませ。
無事のお帰りをお待ちしております」
「行ってくる」
本来、教皇と神剣の主の代表しか入ることが許されていない始まりのダンジョン。緊張しながらも、そこへの一歩を踏み出した。
―――――
そこは入った瞬間から他とは違った。重苦しくはない。でも、息がしずらい。清浄な空気に魔獣がいる様子は全くない。そのうえ、そこかしこに資源が眠っている。まさに夢のような場所。
たまにふわふわとした光が横を通り過ぎる。よく見るとそれは精霊のようだった。大陸から姿を消した精霊は、確かにここにいるのだ。
「ハール、お願いがあります」
「お願い?」
「ええ。
……リンカのもとにたどり着いたら、あなたの体を私に貸していただけませんか?」
「体を?」
緊張した様子のシャリラントに、何を言うのかと思ったら……。体を貸す?
「はい。
リンカは命を失う前に、その身を氷に閉じ込められました。
その氷もただの氷ではありません。
私の力をもってしないと溶かせない特別なもの。
そして、ただ氷から解放するだけでは命が失われます。
それを防ぐためには、私の主であるあなたの身を借りる必要があるのです」
な、なるほど? 俺の体を借りて一体何をするのはか知らないが、その必要があることはわかった。ここまできて拒否する必要もないだろう。
「わかった」
そう返すと、シャリラントはほっとした表情でありがとう、といった。
「それにしてもあっさりと許可してくれますね。
普通嫌なのでは?」
「まあ、ここまで来て断る理由もないし……。
シャリラントのことは信頼しているしな」
「あなたはまた……」
はぁ、とため息をついたシャリラントはもう一度ありがとうございます、と
『母様の気配がする』
「母様?」
『うん。
精霊たちを生み出す母なる樹の気配』
精霊を生み出す樹……。クリエッタが興奮したようにどんどんと先に進んでいく。それについていくと、目の前に大きな白い樹が現れた。その付近には無数の光が飛び交っている。
「ああ……」
はぁ、はぁ、と浅い息を繰り返す。これは、あまりそばにいられない。離れよう、と顔を横に向けると、無意識にか、ふよふよとその樹に近づいていくクリエッタに急に不安になる。
「「クリエッタ!」」
シャリラントと声が重なりながら、ぱっとクリエッタを捕まえる。走ってその樹から離れると、クリエッタがはっとしたようにこちらを見た。
『い、今……』
「危なかったですね。
あの樹は精霊を生み出すものですが、生まれ変わらせるものでもありますから……」
ぞっとしたのか、顔を白くさせるクリエッタ。無事で本当に良かった。
「さて、戻ってきてしまいましたが、あの樹の枝を少しもらう必要があります。
クリエッタにはここで待っていてもらい、私たちだけで行きましょうか」
「え、また戻るのか?」
「ええ。
この後のことを考えると持っていた方が安全です」
またあそこに行かなくてはいけないのか、とげんなりするものの、シャリラント曰く持っていた方が安全らしい。ここで一体何が行われるのかわからないし、なるべく助言は聞いていた方がいいだろう。意を決して、俺はシャリラントと樹の枝を取りに行くこととなった。
樹の場所へ戻っていく。息苦しいのを我慢し、なるべく速足で近く。そのあとはゆっくりと近づき、シャリランに指示された部分の枝を少しだけ拝借して帰ってきた。折った瞬間、体がぞわりとする。その感覚から逃げるために俺はすぐにクリエッタが待っている場所へと戻っていった。
『あ、母様の力を感じる』
「ああ、枝を拝借してきた。
これくらいだったら自我を保っていられるか?」
『うん、たぶん大丈夫……。
むしろ心地いい』
そういって、クリエッタが肩に乗ってくる。これ、本当に大丈夫なのか? しかも、ほかの精霊も集まってきましたね……。
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