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5章 ダンジョン
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しおりを挟む部屋に戻りひと段落する。ああ、フェリラの見舞いにも行きたい。やること多すぎる……。だけどまずはリーンスタさんのところだろうか。きっと早く会いに行きたいだろうから。
侍従に頼んでリーンスタさんに伺いをたてる。すると、いつでもきていいとのことだったので早速お邪魔することにした。部屋に入るとリーンスタさんは着替えてくつろいでいた。席を勧められて座ると、リーンスタさん自らお茶を出してくれた。
「ようやくゆっくりと話せるね、スーベルハーニ」
「そうですね。
ダンジョンでは本当にありがとうございました」
「いいや。
君と共に戦うことができて光栄だったよ。
……先に会いに行ってもいいかい?
そこで話そう、我々一族のこと、リゼッタのこと。
君も教えてくれると嬉しい」
「……はい」
穏やかな母との記憶。リーンスタさんを見ているとそれを思い出す。そんな母がもともとどういう人だったのか、それを聞けるのは楽しみだ。
お互いお茶を飲み終わったところで合図もなく立ち上がる。ここはあまり立ち入らない区域だけれど、うん大丈夫。案内できる。
何となく雑談をする気分にもなれないし、リーンスタさんもなにも言わない。そのまま俺たちは騎士団の寮へとたどり着いた。軽く通りかかった隊員に声をかけるとそのまま丘の方へと足をむける。
少し久しぶりになってしまったが、そこに変わらずにお墓はあった。いつでも綺麗に整えられているが、今度は俺の手できれいしないとな。
「二つ、あるな」
「あ、えっと、右が母の、左が兄のお墓になります」
「兄……、そうかリゼッタには息子が2人いたのだったね」
静かにそう言うと、リーンスタさんは服が汚れるのもいとわずに膝をつき祈りをささげた。そう言えばこの世界の人は一体どうやって墓参りをするのだろうか。視線をリーンスタさんに向けるとただ静かに祈りをささげていて、そこだけ神聖な空間になっている気がする。まあ、俺は俺のやり方をすればいいか。
久しぶり、という声かけから始まって一方的に報告したいことをしていく。ふと、そうしていくうちに気になったのはダンジョンのことだった。命を落としたものが魔人となって帰ってくるとは……。兄上は、母上は大丈夫なのだろうか。本当に安らかに眠れているのだろうか。
「あっ」
小さく声が漏れ聞こえる。その声に目を開けると母のお墓が淡く光っていた。
「これは?」
「リゼッタの精霊だ……。
ああ、喜んでいるな」
光は徐々に収まっていく。完全に収まった後はふわふわと精霊と言われた光が母のお墓の周りと飛び回る。そのあと、兄のお墓の周りも飛び回った。
「ここはリゼッタに良く似合う場所だね。
あまり多くの時を共に過ごすことはできなかったけれど、あの子はとても自由で活発な子だった」
「母上が、ですか?
俺が知っている母上は体が弱く、寝込んでいることが多かったのであまり想像できません。
でも、いつも微笑んでいました」
「ふふ、そうか。
……私たちの一族はミラの民と言ってね、この世界で現在唯一精霊を使役できる一族なんだ。
使役、という言い方は少し違うかもしれないが。
私たちは物心つくころに自分を気に入ってくれた精霊と契約を結び、ずっと共にいるんだ。
私たちはそれぞれ世界中を見て回り、手助けをする民でね。
一族をつなぐのは精霊、この黒髪赤目、そして親から生まれたばかりの子に送る懐中時計、この3点なんだ」
スーベルハーニは白髪なんだね、と不意にリーンスタさんが俺の髪に触れた。
「俺ももともとは黒髪だったんです。
でもいつの間にか白髪になってしまって」
はは、と笑いながら告げるとリーンスタさんはきょとん、とこちらを見てくる。少しして、そういうこともあるんだね、と言った。そういえば、精霊の話を聞いてふとリヒトが話していた母の話を思い出した。母は自分のことを堕ちた身と言っていた、と。それはもしかして……。
「あの。
ほかの人から聞いた話なのですが、母は自分のことを堕ちた身だと嘆いていたそうです。
それはもしかして幼い時から共にいた精霊が自分のもとから離れていったから、ですか?」
俺の言葉にリーンスタさんは一瞬目を見張った後、哀しそうな目をした。
「そうか、あの子はそんなことを……。
きっとスーベルハーニの言っている通りだろうね」
「どうして、精霊は母から離れたのですか?」
正直、今のように母と再会できたことを喜んでいる様子を見るに精霊が母のこと自身を見限ったとは思えない。なら、なぜ。
「この国は精霊が生きていくのに厳しすぎたんだ。
毒にすらなりえる。
今は私や、何よりもスーベルハーニ、君がいる。
だからなんとかいられるんだ」
「俺、ですか?」
「正確にはシャリラント様が、かな。
この子もずっとリゼッタといたかったが消滅を逃れるためには共にはいられなかったんだ」
なるほど……。詳しくはわからないけれど、シャリラントがなんだか特別なのだろう。もしも。母が生きているうちにシャリラントを手にすることができれば、もしかしたら母はもっと穏やかに過ごせたのかもしれない、なんて叶わないことを想像してしまった。でも、リーンスタさんが知っているならば母も精霊が皇国では生きていけないと知っていたはずだ。ならなぜ、母は皇宮に来たのだろうか。
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