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5章 ダンジョン
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しおりを挟む軽く休憩を、と言ってもここから先は休憩を取らずに進む予定だ。しっかり食べて寝て、気力を回復する。それを3人繰り返しているとあっという間に時間は経ってしまう。気が付けば窓から見える外は明るくなっていた。
「それでは行きましょうか」
ぐっと伸びをしてから言うと、うなずきが返ってくる。気力が回復したことと、かなり連携が取れやすくなってきたことで次の階も、そのまた次の階も苦労はしつつもなんとか上がっていく。中には状態異常をかけてくるやつもいたが、それはフェリラがすぐに治してくれる。本当に腕をあげたよね……。
そうして頂上に近づくたびに否応なしに感じる。
頂上付近からかなり重い気が放たれている。禍々しさと、他者を思わず屈服させるような威圧が混じった、そんな気が。近づいてはだめだ、と本能が逃げるという選択肢を提示してくるがそういうわけにはいかない。
逃げたくなる弱い気持ちを叱咤してなんとか登っていくと、今までとはまた違った色の鎧をまとった兵士軍団とかち合った。今度は一体何の特性だ?
「氷よ、やつらを貫け」
先制攻撃とばかりにマリナグルースさんが魔法を展開する。だが、それは形になることはなかった。
「なっ!?」
「マリナグルース、ここには魔法妨害がかけられているよう」
呆然とするマリナグルースさんの前にマジカンテが現れてそう伝える。え、魔法使えないとか俺が頑張るしかないやつでは。
「頼んだ、ハール」
はい、そうなりますよね。
「わかりましたよっと」
「シールディリア、彼を!」
「いえ、大丈夫です。
私が守りますから」
走り出した俺の後ろでそんな声が聞こえてくる。確かに今の俺に後ろを気にしている余裕はない。シャリラントならなんとかしてくれるだろう。
「うぉぉぉぉ!」
ガッと剣と剣がかち合う。こいつら剣士か! 一体一体ならそんなに強くない。でも一気に襲ってくるからこれは厳しい。一本じゃ、足りないか……。
一瞬、腰に視線を落とす。そこにはもう一本の剣。ここ数日で握るようになった年季が入った剣だった。一度は断ったけれど、レッツに押し切られて腰に佩くようになった。すっと、その剣を抜く。
「ハール」
「力を、貸してください。
兄上」
祈るように、つぶやく。頼ってばかりで情けないけれど、でも兄上が力を貸してくれるなら乗り越えられる気がする。両刀とか絶対扱えないと思っていたが、それはシャリラントの助けもありすぐに俺の手になじんでくれた。
右左、襲ってきた兵士の剣を両手で受け止める。正面から襲ってきた剣は足で。そのまま押し込むと意外にも兵士はすぐに後ろを巻き込んで倒れこむ。そんな軽かっただろうか。
受け止めていた剣も力任せに振り払う。いや、やっぱりこれおかしいよな。俺こんなに腕力ないもの。きっとシャリラントが何かしてくれているのだろう。魔法とはまた違う、風圧ともいうもので一度兵士の体勢を崩してから一気に斬りかかる。練度はそこまでないおかげでそれだけで楽に倒せる。
剣とたまに力業で次々と倒していくと、ようやくこの階層の長であろう兵士が見えてきた。もう雑魚はどうでもいい。一直線にそいつのもとへ向かう。もう息が切れている。早く決着を付けなければ。
「はっ!」
取り逃がしたやつが後ろにも向かっているのだろう。リーンスタさんの声も聞こえる。
フェリラが弓を射る音も聞こえる。でも、今は気にしている場合ではない。両手の剣で相手の剣を受け止める。お、重い。今までのやつらとは全然違う。
剣を振り払うことで相手の剣がぶれる。その隙を狙って相手の心臓部分を狙うも避けられる。何度も戦ってきてわかったことだが、見た目本物の人間に似ているだけあってこいつらの心臓は俺たちと同じ場所にある。急所も同じ。ある意味わかりやすい。
何度か打ち合いをするも、なかなか隙が無い。減っていく体力に焦りがうまれていく。さすがにこのままではまずい。周りのやつらはなぜかこちらを狙うのではなく後ろのフェリラたちを狙っていくし! さすがにそろそろ決着を付けなければ。
真上から振り下ろされた剣を受け止める。それを横に流しそのまま剣を手放す。落ちていく剣はシャリラントがどうにかしてくれるはずだ。空いた手で空いての手首をつかむ。これでもう剣は握れないはず。
そうしてもう片方の手でようやく相手をしとめることができた。
『モウシワケ、ゴザイマセン……。
ヘイカ……』
最後にそう残して兵士は消えていった。まるで、人のような言葉を残して。前にも、こういうことがあった。ここまできて、俺の中にはずっとある違和感があった。それが確信に変わっていく。でも。今はそれを気にしている場合ではない。
階層の長を倒すとしばらく新しい敵はうまれない。意気も下がったのか先ほどよりも簡単に倒すことができる。残った兵士を一掃していき、みんなのもとに戻る。多少怪我はしているがなんとか無事のようだ。
「先に進もう」
きっとこのダンジョンの長までもう少しだ。もう早くここから出たい。落ち着きたい。
「うん、行こう、ハール」
そっと、フェリラが俺に抱き着いてくる。……、温かい。俺はきっとひどい顔色をしているのだろう。あいつの声が聞こえなかっただろうフェリラが、大丈夫、大丈夫だから、とひどく優しい声で落ち着けてくれる。
「……ありがとう、フェリラ」
知らず焦っていた気持ちが落ち着いていく。少し気恥しくて、ぽつりとつぶやいた俺にフェリラはやさしく微笑んでくれた。
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