上 下
116 / 178
5章 ダンジョン

13

しおりを挟む
 ダンジョン攻略については、体を慣らす以外は基本やることがない。イシューさんが到着したことでダンジョン攻略が最優先となり、しばらく執務は控えられることとなった。正直机仕事よりも体を動かすことが好きだから嬉しい。まあ、別に机仕事も苦手ではないのだけれど。

 ただ、控えるという話を聞いたときに終わったら本格的に参加してもらう、というなんとも恐ろしい言葉をもらってしまった。今まではそもそも公務もしたことがない上に、ずっと平民として育った俺の素質を見るような試験だったらしい。いつの間にかそれをクリアしていたようで、先ほどの恐ろしい言葉をもらってしまったのだ。

 それはさておき、イシューさんは騎士団に訪れた翌朝には早速稽古に出向いてくれたらしい。本当に頭が上がらない。陛下もイシューさんのことは耳に入ったらしく、ダンジョン攻略の末には謁見をしようと話が進んでいるらしい。

 さて、俺も騎士団に向かおうか、と準備をしていると少し荒く扉をノックする音が響いた。今となってはこんな風に音を出すのは珍しい。多少の警戒はしつつも扉を開けると、そこにいたのは見覚えのある顔だった。たしか、リヒトの侍従、だったか?

 その顔色はどこか優れなく、焦っているようにも見える。一体何が、と困惑していると、その人は焦りを感じさせない動作で一礼をした。
 
「突然申し訳ございません。
 リヒベルティア様の命により、皇子を迎えに参りました」

「何があった?」

「その、神島からお客様がいらっしゃったと……。
 今はリヒベルティア様が対応していらっしゃいます」

 神島から!? まさか、本当に来てくれるとは……。

「わかった。
 すぐに行こう」

 そのまま部屋を出ようとすると、止められてしまう。一体何が、と驚いているとその前に着替えと、と言われてしまった。自分の身を見てみると、いまから騎士団に行く予定だったため、かなり動きやすい服装になっている。

 面倒な、と思いはしたが、礼儀を欠いて怒らせるわけにはいかない。手を借りながらもすぐに着替えを済ませた。

『さすがに待ってくださいましたか……』

『シャリラント?』

着替え終わった後、はやる気持ちのままに早足でリヒトのいる部屋へと向かっていると不意に頭の中でシャリラントがそうつぶやく。何を言おうとしたのか問いかけると、何でもありませんと言って、そのまま黙り込んでしまった。

 
 執務室の前に着き、侍従がノックをしてくれる。許可と共に扉が開くと、中には数人の男女が座っていた。この人たちが、神島の住民か……。

「お待ちしておりました、スーベルハーニ皇子。
 こちらの方々が神島よりいらっしゃったお客人です」

 リヒトの言葉に一斉に俺に視線が向く。一瞬、その圧にうっとなりながらもなんとか微笑みを浮かべた。

「初めまして、ようこそアナベルク皇国へいらっしゃいました。
 神剣シャリラントの主、スーベルハーニ・アナベルクと申します」

 一礼をすると、シャリラントがイシューさんを呼ぶことと共に人払いを促してくる。その言葉をリヒトに伝えると、心配そうな瞳をこちらに向けつつも退室してくれた。

「もう我々以外誰もいないのですから、姿を現しても大丈夫でしょう」

 言うなりシャリラントが姿を現す。すると、それにつられるように次々に神使たちが姿を現した。その様子は圧巻、というしかないだろう。

「シャリラント様、久方ぶりにそのお姿を拝見することができ安心いたしました」

 そのうちの一人の神使が膝をつくと、それに倣うようにほかの人々も膝をつきはじめる。えっと、これはどういう状況ですかね?

「そう固くならないでください。
 こちらに呼んだのは私なのですから」

「そう言ってくださるのなら」

 まだ呆然としているうちに目の前の人たちは元の姿勢に戻る。ちなみに膝をついたのは神使だけではない。神島より訪れた人たちもだ。

「改めて、挨拶申し上げます。
 初めまして、スーベルハーニ様。
 わたくしは癒しの神剣ヒーラスーンの主、ティアナと申します」

 一人の女性が杖のようなものを手に一歩前に出ると、おしとやかに挨拶をする。共にその横にいた女性の神使が礼をした。そして次はその横にいた人が包丁を手に一歩前にでた。……、包丁?

「俺は料理の神剣クックマインの主、ジヘドだ」

「魔法の神剣マジカンテの主、マリナグルース」

 次の女性は長い杖を手にしている。ぺこっと軽く頭を下げる様子に軽く微笑みながら女性の神使が礼をする。

「僕は魔獣の神剣アニルージの主!
 シュリベだよー」

 にこりと人懐こい笑顔を浮かべて前に出たのは幼く見える青年。実際には何歳なんだろう……。その人は少し細身の剣を手にしている。

 あれって、やっぱりそれぞれの神剣、だよな。こんなにもさまざまな形があったなんて。あと自己紹介をしていないのは2人。ただ、神使は後1人。どちらかは神剣の主ではないということだ。それにしてもあの少女、見覚えが……。まさか……。

「ミー……ヤ……?」

「やっぱり、ハール、なんだよね?
 え、でもさっきスーベルハーニって……。
 それに皇子って?」

 こんなところにいるはずがない。でも、確かに見覚えがある。それに俺のことをハールと呼んだ。その声も、覚えている。

「ミーヤ、この方を知っているの?」

「は、はい、ティアナ様。 
 私が神島に行く前にいた孤児院で共に育ちました」

「まあ、そうだったの。
 でも今はまず顔合わせを済ませないと」

「申し訳ございませんでした」

 まだ状況が読み込めない俺を置いて目の前で交わされた会話は終了したようだ。もうこの少女がミーヤであることは間違えない。でも、なぜここに? 見たところミーヤは神剣の主というわけでもなさそうだし。

「相変わらずベベグリアの言うことはよく当たるわね……」

 ベベグリア……、そう、ベベグリアだよ! 例の司祭は! 思い出せなくて少しもやもやとしていたからやっとすっきりした。それにしても、まさかまたその名前を聞くとは。今回ミーヤがここにいる理由にも関わっているみたいだし。

「そろそろ挨拶をしてもいいかな」

 神剣の主、最後の一人がそう声をあげた。あらためてその男性を見てみると、黒い髪に赤い目となんだか懐かしい色彩をしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

処理中です...