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5章 ダンジョン

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 空を見上げると快晴。目の前には数台の馬車が列を連ねていた。今日はカンペテルシア殿が皇宮を出発する日だ。あっという間すぎる5日間。シャリラントが前に言っていた通りならばもういつダンジョンが出現してもおかしくない、ということだ。

「それでは、行ってまいります」

「ああ、気を付けていってこい」

「よろしくお願いします」

 今、目の前ではカンペテルシア殿と陛下、そしてリヒトが最後の挨拶を交わしている。それを傍観していると、不意にカンペテルシア殿がこちらへとやってきた。

「どうか、この皇都を、兄上をよろしく頼む」

「……善処します」

 真剣な瞳に、俺は込められるだけの誠意を込めてそう返す。一瞬目をすがめたカンペテルシア殿はすぐに朗らかに笑った。

「ああ」

 そして肩をぽんぽんと謎に叩くと、馬車へと乗り込んでいく。その様子を何ともなしに見ていると、間もなく馬車は動き出した。


 最後の一台も見えなくなると、渡された執務を片付けようかと自室へと足を向ける。日本出身なことが関係しているのか、計算がだいぶ得意な俺は最近では決裁書の計算ミスがないか確認する、という何とも忍耐力がいる作業をしていた。

「スーベルハーニ皇子!」

 いい天気だな、なんて考えて歩いていると、目の前から誰かがこちらへと向かってくる。俺の名前まで呼んでいるから、間違いなく俺を探していらのだだろう。一体何の用だろう? 俺に心当たりはないが……。

「あの、スーベルハーニ皇子のお客人だという方がいらしていまして」

 俺に、客? 最近は商人とかが訪ねてくることはあるが、それだと客ではなく商人と言うだろう。客、客……。まさか……。

 思い当たる人物がいて、大慌てでその人が待つ門前へと急ぐ。身元がわからないからと門の中に入れていないと聞いて、思わず血の気が引いた。こっちから呼んでおいてそんなことある!? 国境を無事に越えられたのは本当によかったけれど、でもまさか城についてそんなことがあるなんて。

「おう、久しぶりだな!」

「イシューさん!
 ようこそいらっしゃいました。
 すみません、お呼びしておいてこのような……」

「いい、いい。
 気にするな。
 冒険者なんてこんなもんだしな」

 気にしないのはさすがに厳しいですって……。それにしても、門番やその上司である貴族相手にかなり慣れた様子だが、実はイシューさんも貴族同士の裏含みまくりの会話に参加できるのか?

「それで、巨大ダンジョンが出るんだって?」

「はい……。
 おそらく、数日中に」

「それは腕がなるな」

 頼もしくにこりと笑うイシューさん。安心感がすごい。あれ、そういえば。

「イシューさんお一人ですか?」

「ん?
 ああ、そうだ。
 ファイガーラがそうした方がいいと言っていてな」

「そうだったんですね。
 イシューさんに使っていただく部屋に案内しますね」

 そう言って、皇宮の方へと歩き出す。侍従とかに頼めばきっとやってくれるけれど、こちらの都合で呼び出したこともあって、自分で案内したいと申し出たのだ。

「えっ?
城の中に俺の部屋があるのか?」

「はい。
 今は街も騒がしいですし、皇宮の部屋に空きもありますから」

 俺の言葉にああ、とひとつうなずく。さすがに最近の皇国のことはイシューさんの耳にも入っているらしい。納得したようなので改めて中へと案内することになった。

 皇帝も事情は承知している。危険だとわかっていてわざわざ助けに来てくれるイシューさんに敬意を払う形でなかなかいい部屋を用意してもらった。入った瞬間、イシューさんがことばを失う程度には。うん、やりすぎたかもしれない。

「これは、なんというか……。
 気を引き締めたほうがいいかもな」

「なんか、すみません」

「いや、ありがとう。
 ……元気そうで何よりだ。
 サランたちも気にしていたぞ」

「ありがとうございます。
 いろいろとありましたが、なんとか」

 侍女に頼んでお茶と茶菓子を用意してもらい、ひとまず下がらせる。まずイシューさんには休んで回復してもらわないとな。

「まさか俺が皇国に来ることがあるとは思っていなかったし、それ以上に皇宮に足を踏み入れることがあるとはな」

「閉鎖的な国でしたからね」

「……ハールが、皇国の外で育った皇族が戻ると知ったとき、何かが起こる予感がするとは思っていたが、予想以上だった」

「そう、ですか?」

 ああ、とうなずくと、イシューさんはカップに手をかける。そして口を付けると、さて、と言う。

「今は2人だけだしファイガーラが出てきても大丈夫だろう」

「そうですね。
 シャリラントも交えて4人で話しましょうか」

 とはいえ、俺も何が起きるのかほとんどわかっていないから、何か話せることがあるかもわからないが。
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