113 / 178
5章 ダンジョン
10
しおりを挟む空を見上げると快晴。目の前には数台の馬車が列を連ねていた。今日はカンペテルシア殿が皇宮を出発する日だ。あっという間すぎる5日間。シャリラントが前に言っていた通りならばもういつダンジョンが出現してもおかしくない、ということだ。
「それでは、行ってまいります」
「ああ、気を付けていってこい」
「よろしくお願いします」
今、目の前ではカンペテルシア殿と陛下、そしてリヒトが最後の挨拶を交わしている。それを傍観していると、不意にカンペテルシア殿がこちらへとやってきた。
「どうか、この皇都を、兄上をよろしく頼む」
「……善処します」
真剣な瞳に、俺は込められるだけの誠意を込めてそう返す。一瞬目をすがめたカンペテルシア殿はすぐに朗らかに笑った。
「ああ」
そして肩をぽんぽんと謎に叩くと、馬車へと乗り込んでいく。その様子を何ともなしに見ていると、間もなく馬車は動き出した。
最後の一台も見えなくなると、渡された執務を片付けようかと自室へと足を向ける。日本出身なことが関係しているのか、計算がだいぶ得意な俺は最近では決裁書の計算ミスがないか確認する、という何とも忍耐力がいる作業をしていた。
「スーベルハーニ皇子!」
いい天気だな、なんて考えて歩いていると、目の前から誰かがこちらへと向かってくる。俺の名前まで呼んでいるから、間違いなく俺を探していらのだだろう。一体何の用だろう? 俺に心当たりはないが……。
「あの、スーベルハーニ皇子のお客人だという方がいらしていまして」
俺に、客? 最近は商人とかが訪ねてくることはあるが、それだと客ではなく商人と言うだろう。客、客……。まさか……。
思い当たる人物がいて、大慌てでその人が待つ門前へと急ぐ。身元がわからないからと門の中に入れていないと聞いて、思わず血の気が引いた。こっちから呼んでおいてそんなことある!? 国境を無事に越えられたのは本当によかったけれど、でもまさか城についてそんなことがあるなんて。
「おう、久しぶりだな!」
「イシューさん!
ようこそいらっしゃいました。
すみません、お呼びしておいてこのような……」
「いい、いい。
気にするな。
冒険者なんてこんなもんだしな」
気にしないのはさすがに厳しいですって……。それにしても、門番やその上司である貴族相手にかなり慣れた様子だが、実はイシューさんも貴族同士の裏含みまくりの会話に参加できるのか?
「それで、巨大ダンジョンが出るんだって?」
「はい……。
おそらく、数日中に」
「それは腕がなるな」
頼もしくにこりと笑うイシューさん。安心感がすごい。あれ、そういえば。
「イシューさんお一人ですか?」
「ん?
ああ、そうだ。
ファイガーラがそうした方がいいと言っていてな」
「そうだったんですね。
イシューさんに使っていただく部屋に案内しますね」
そう言って、皇宮の方へと歩き出す。侍従とかに頼めばきっとやってくれるけれど、こちらの都合で呼び出したこともあって、自分で案内したいと申し出たのだ。
「えっ?
城の中に俺の部屋があるのか?」
「はい。
今は街も騒がしいですし、皇宮の部屋に空きもありますから」
俺の言葉にああ、とひとつうなずく。さすがに最近の皇国のことはイシューさんの耳にも入っているらしい。納得したようなので改めて中へと案内することになった。
皇帝も事情は承知している。危険だとわかっていてわざわざ助けに来てくれるイシューさんに敬意を払う形でなかなかいい部屋を用意してもらった。入った瞬間、イシューさんがことばを失う程度には。うん、やりすぎたかもしれない。
「これは、なんというか……。
気を引き締めたほうがいいかもな」
「なんか、すみません」
「いや、ありがとう。
……元気そうで何よりだ。
サランたちも気にしていたぞ」
「ありがとうございます。
いろいろとありましたが、なんとか」
侍女に頼んでお茶と茶菓子を用意してもらい、ひとまず下がらせる。まずイシューさんには休んで回復してもらわないとな。
「まさか俺が皇国に来ることがあるとは思っていなかったし、それ以上に皇宮に足を踏み入れることがあるとはな」
「閉鎖的な国でしたからね」
「……ハールが、皇国の外で育った皇族が戻ると知ったとき、何かが起こる予感がするとは思っていたが、予想以上だった」
「そう、ですか?」
ああ、とうなずくと、イシューさんはカップに手をかける。そして口を付けると、さて、と言う。
「今は2人だけだしファイガーラが出てきても大丈夫だろう」
「そうですね。
シャリラントも交えて4人で話しましょうか」
とはいえ、俺も何が起きるのかほとんどわかっていないから、何か話せることがあるかもわからないが。
7
お気に入りに追加
1,663
あなたにおすすめの小説
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる