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4章 皇国

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 騎士たちに導かれて向かった先は皇帝の私室。そこにはキャバランシア皇子が立っていた。あふれかえる血の匂い。それにそこかしこに倒れている奴らを見るに、こちらも無事に終えたらしい。

「そちらはどうだ?」

「終わりました。
 ルックアランは自ら……」

 何かを問うようにじろりと見られる。それを見返しながらも何も返さないでいると、あきらめたように視線をそらした。

「さて、早々に後始末を急がなければ。
 まずは湯を浴びて着替えよう。
 そして、全貴族に通達を」

 俺も相当ひどい状態だが、キャバランシア皇子もなかなかだ。人の前に出られる状態ではない。この場を騎士に託して俺の横を通るとき、皇子はおや、という顔をした。

「ようやく顔を出す気になったのか?
 リキッドレート」

「お久しぶりです、キャバランシア皇子」

「ああ、そうだな。
 ……話は後程ゆっくりと」

「はい」

 そういえば顔を知られているんだったか。いつもは見ないリキートの真剣な表情に隣にいるフェリラは不安そうな顔をしていた。

 第一皇子の手のものである人たちに導かれて風呂に入る。そして、用意されていた今まで着たことがないような服に袖を通した。ひどく疲れていて休みたい気持ちもあったが、今ここで気を抜いて他国に付け入るスキを見せるわけにはいかない。せめてもの責任だ。最後まで踏ん張らないと。

 案内された先ではすでに第一皇子とリヒトが待っていた。そして、先日見かけたモンラース皇子と……。

「スーベルハーニ、なのか?」

「え、ええ。
 カンペテルシア皇子、ですか?」

 ああ、とうなずくカンペテルシア皇子。そう言えば、皇国に戻ってきて以降一度も見かけなかった。当たり前だけれど、成長している。どこか神経質そうな、それでいて賢そうな雰囲気だ。

「久しぶり、だな」

「はい」

「再会の挨拶はそれくらいにしておけ。
 今は早急に片付けなければいけない問題が多い」

「申し訳ございません」

 全員が席に着くと、今後の話合いが始まった。ある程度はすでに決まっていたとはいえ、現状を整理して整える必要があるのだ。

 すでに皇帝と皇后が第一皇子の手によって崩御したことは伝えらえている。皇后側の勢力であった主な貴族も捕らえられている。

「そこにはアベニルス公爵も入っている」
 
 その言葉とともに、俺についてきてくれたリキートの方を見る。アベニルス公爵……、確かリキートの生家だったか? 今回捕らえられた貴族はかなり皇后からの恩恵を受け取っていた、いわゆる粛清対象。第一皇子が引き継ぎたくないと言っていた負の遺産そのものだ。捕らえられた先で処刑が決まっている者たち。それをリキートも理解しているだろうに、何も言わなかった。

「どうする、君が継ぐのならば公爵家自体は存続も可能だ。
 領民のことを考えるのならば、そうした方がいいとは思うが、君の意思に任せよう」

「……ありがとうございます」

 公爵家を、継ぐ。リキートは元の地位を取り戻せるのだ。リキートが俺の意思を尊重してくれたように、俺もリキートの意思を尊重しよう。どう考えているのか聞きたい気持ちもある。でも、今はまだ声をかけるべきではない。

「さて、夜が明けたらまずは集まった貴族に説明をせねば。
 その場にはスーベルハーニ、君も出るんだ」

「はい」

「その後、国全体に伝える。
 新しい皇帝が立つと。
 すぐに即位式の準備を整えよう」

「それについてはこちらにお任せを」

「ああ、頼んだ、リヒト」

 即位式。本当に新しい皇帝が立つのだ。次々と今後の予定が決まっていく。しばらくは俺はシャリラントと共に外国から訪れるであろう特使の相手をするのが仕事になりそうだ。

 全く実感はないが復讐は、果たした。後は兄上が暮らしたこの国を守るために動かなければ。ただ、どうしてだろうか。今もこの手が汚れている気がしてならない。実感はないのに、妙に生々しい人の首に手をかけるあの感覚だけが残っていた。

 そのまま用意されていた部屋に戻ると意識を失うように眠りについた。
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