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4章 皇国
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しおりを挟むちょうど話は一区切りついた。リキートたちとの間につくった壁をなくすと同時に、馬車の扉が開けられた。
「今日はここに野宿するが大丈夫か?」
そう尋ねるイシューさんの視線の先にいるのはリヒトだ。まあ、俺たちは冒険者だから野宿でも大丈夫だとわかっているのだろう。
「ええ、問題ありません」
うなずくリヒトに早速今夜のための準備が始まる。晩御飯の準備のために火をおこしたり、簡易的な寝床を作ったり、などなど……。さすがにほぼ冒険者で構成されているだけあって皆手際がいい。それなりの人数分の用意だったにも関わらず、あっという間に準備は整った。
火にかけた料理が香ばしい香りをあげ、順番に配られていく。そのタイミングで俺はそっとサランに近づいた。今なら話しかけられると、そう思ったのだ。
「あの、サラン?」
「そんな恐る恐る来るなよ。
俺とお前の仲だろう?」
「いやまあ、それはそうだけれど……」
なんかこう、気まずいじゃん。ああ、でも。本当に久しぶりだ。出発の時は慌ただしかったからあまりちゃんと見れなかったけれど、あらためて見ると、なんだか逞しくなった気がする。
「言っておくが、俺の方が驚いているんだからな?
まさか同じ孤児院で育ったやつが、皇子だとは思わないだろう……」
「まあ、そうだよね。
って、それよりもあれからどうしていたんだ?」
それよりもって……、となんだか突っ込まれてしまったが、ご飯を食べながらもぽつぽつと説明してくれた。
「俺たちは孤児院を出た後に、何か、洞窟のようなところに連れて行かれたんだ。
一歩中に入るだけで、ひどく嫌な空気を感じるような洞窟に」
「洞窟?」
ああ、とうなずくサラン。その顔は暗く、顔色も悪い気がする。そんなにも嫌なところだったのだろう。入った瞬間、嫌な空気を感じる洞窟。まさか……。
「クワとかそういう武器になりそうなものを持たせて、村の人に無理やりそこに入れられた。
入れられた、というよりも先陣を歩かされた、という言葉の方が正しいか。
ぼろぼろすぎて武器にもならないクワを持って歩かされた時は、ああ、もう終わったなと思ったよ」
「それで……?」
「仕方ないから、中に入ったんだ。
そしたらすぐに、『何か』が襲ってきた。
あの時は本当に死ぬかと思ったな」
ああ、やっぱり。それは恐らくダンジョンだ。まさか、孤児院の子をそんな風に扱っていたなんて。顔から血の気が引いていくのを感じる。それがいかに無謀なことか、今ならよくわかる。でも、だから余計に不思議だ。
「そんなところから、どうやって生きて帰ったの?」
「そこを助けてくれたのがイシューさんなんだ。
颯爽と現れて、『何か』を一掃した。
そして、俺たちを連れ出してくれたんだ」
そう語るサランは先ほどとは打って変わって、目を輝かせている。どれだけ、イシューさんを尊敬しているのかそれだけで伝わってくる。
「そう、なんだ
「イシューさんは俺たちに道を示してくれた。
自分が紹介するからどこかに職を得てもいいし、このまま自分についてきてもいい、と。
だから、選んだんだ、イシューさんと一緒に行くことを」
そんなことがあったんだ……。何の知識も武力もない人をダンジョンへと向かわせる。その行為にただただぞっとする。あれ、待てよ。その行為はもしかして今も続いている……?
「あの方のすごいところはさ。
俺たちを安全なところに送り届けた後に、あっという間にダンジョンを崩壊させてしまったんだ!
俺たちには数歩進むのが限界だったのに、本当にあっという間だった」
「え、じゃあ、そのダンジョンはもうない……?」
「ああ。
だからそんな顔するなよ。
長を倒した報酬を村の人に渡す代わりに、これからも孤児院を援助することまで取り付けてくださったんだ。
俺、この人なら信じてついていけると思ったんだ」
ああ、よかった。本当に、イシューさんには感謝してもしきれない。
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