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3章 冒険者養成校
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しおりを挟む自分はなにから始めるべきか、それを考えた結果、俺は今日ここを訪ねていた。皇国に帰ることを目標とするならば、まず必要なのは情報。俺が皇国を離れてから、もうだいぶ経っている。それに加えなるべく触れたくないという気持ちから、離れた後の皇国に関する情報は一切ない。
つまり、俺がすべきは情報の収集。シャリラントがあいつらが悪政を敷いていると断言してくれたが、それを鵜呑みにするのは危険。ちゃんと自分でも情報を集めるべきだろう。そう思ってきたのが……。
「すみません、シラジェ会頭はいますか?」
「……失礼ですが、どちら様でしょうか?
お約束は?」
「ハールと申します。
約束はしていませんが、店頭で声をかけたらシラジェさんのところまで連れてきてもらえる、と言われました」
いくら不審に思われても、ここは引くわけにはいかない。これしか、今の俺には伝手がないのだ。
「少々お待ちください……」
結局店員さんは不審げな顔のまま、一応、といった様子で奥に行ってくれる。格好とか、立ち姿とか、たぶんそういうのがほかの人と違うんだろう。ただここにいるだけで視線を集めている……。正直居心地悪い。
それでも耐えること少し、店員さんが帰ってきた。いまだに納得できないような顔をしていたが、ちゃんと奥に案内してもらえた。
「こちらになります。
少々お待ちください」
店員さんがノックをすると、中から返事がくる。シラジェさんの声だ。どうぞ、という言葉に開けてもらった扉をくぐる。中には先日と変わらないシラジェさんがいる。その顔を見ると、決心してから入っていた力が抜けるのを感じた。
「よく来たね。
今日はちょうどケリーも来ているんだ。
ずいぶんと会いたがっていたよ」
「はい、俺も会いたいです。
でもその前に、少しいいですか?」
「どうした?」
「この前こちらに来た時、フィーチャさんが皇国、から帰ってきたと言っていましたよね?
そちらの方にも店を出しているのですか?」
ケリーが戻ってくるまでに話を終わらせたい。その一心で直球で聞いてしまう。すると、シラジェさんは戸惑うように視線を泳がせた。さあ、どう答える?
「……ああ」
しばらくの沈黙の後、シラジェさんはささやき声でそう答えた。正直、隠されるかと思ったが、素直に答えてくれるとは。でも、教えてくれるのならば運がいい。
「教えてほしいんです。
今の皇国の内情を」
「私たちが内情を知っていると?」
「内情もわからずに、わざわざ皇国まで商売をしに行かないでしょう?
そこに商機があったから行ったのでは?」
だからきっと少しは知っているはず。そういうと、シラジェさんはため息をついた。
「いや、逆だよ、ハール。
私たちは内情を探りたくて皇国に行ったんだ」
……は? 神に呪われている、そうも言われている皇国に内情を探るために行った? 正気じゃない。というか、正直、商機があって行ったのだとしても、かなりおかしい。そうとすら思っていたのに?
「ハールが、皇国から来たのだろうということは思っていた。
出会った場所があそこだからな。
君が私たちの前から去っていって、そのあとに私たちは考えたんだ。
返しきれないほどの恩を惜しげもなくくれた君に、私たちは何ができるんだろう、とね。
沢山話して、たくさん悩んで、それで君がやってきた方向の皇国を探ることにした。
君が、あそこまで人の目を怖がる理由がわかるのではないか、と思って」
ばれていた。自分が皇国の関係者だってことが。どこまで知っている? 俺を、今、一体どんな目で、見ている……?
「そんな怯えた顔をするな。
結局、深くはわからなかったから。
とにかく、そういう理由で皇国に移動商会を出した。
どういう巡り合わせか、それがきっかけで王室公認になったのだから、本当にハールには感謝しかないよ」
一体、何がどうなって? ま、まあ結局シラジェさんたちの利になったのならばいい、のか?
「で、本題に入ろうか。
皇国のことが知りたい、だったか?」
「はい」
「皇国への移動商会を担当しているのはハミルとフィーチャだ。
二人に詳しいことは聞くといい。
……今日は、家の方に来てくれよ」
な? というシラジェさんに俺は逆らえなくて。思わずうなずいていた。そのとき、ノックの音が部屋に響いた。
「親父?
なんかこっち来るように言われたんだが」
「ああ、ケリーか。
ちょうどいい、入ってこい」
「なにさ……。
……も、もしかしてハール!?」
「ひ、久しぶり、ケリー」
だから、がくがく揺さぶるのはやめてほしいんだが。
「ほ、本当に、本当にハールか!?
久しぶりだなぁ!
背伸びたな、体がっしりしたな!
あ、フードかぶってない!?」
「ケリー、お願いだから落ち着いて!」
う、いきなり捲くし立てられたら何言っているのかわからない。本当に落ち着いてくれ。
「うーん、とりあえず家に行こう!
お袋も会いたがってる。
いいよな、親父」
「ああ、先行ってろ」
「え、あの、シラジェさん!
ハミルさんたちは!?」
「家にいる」
……え?
「俺たちさ、一緒に暮らしてるんだ。
本当はそれぞれ家持ってていいのに、皆一緒がいいって。
俺もさ、ずっと一緒だったから、もうそれが普通っていうか。
とにかく行こう。
皆、待ってる」
「う、うん」
おかしいな。明日もまた養成校があるし、話を聞いたら帰ろうと思っていたんだが。
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