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3章 冒険者養成校

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 少しずつ、少しずつ、思い出す、努力をする。母上と歩いた散歩道、兄上に教えてもらって初めて剣を持った日。深い眠りと覚醒の間のうとうととした意識で、今までわざと思い出さないようにしていた記憶の鍵を緩めていく。久しぶりに感じる本能的な恐怖、それにあらがうのは想像以上に難しいことで。でも、足がすくんで立ち止まったとき、シャリラントが側にいてくれた。
 それでも起きるころには、いつも心の中がぐちゃぐちゃだった。

「ハール?
 大丈夫?」

「……ああ」

 ああ、また泣いていたのか。今まで泣くことはほとんどなかったのに。

「ハール、早くいかないと。
 今日はダンジョンに行く日だよ!」
 
「ん……。
 行く」

 ……うん、大丈夫。今日は少し楽しみにしていたダンジョンだ。かなり大きいダンジョンに行くらしい。もちろん長のところまではいかないらしいが。

『ハール、今日は助けますか?』

(ううん。
 今日は俺自身の力を確かめたい)

『わかりました。
 それでは私は見守りに徹しましょう』

 よし、行くか。


「えー、いいですか。
 こちらでの勝手な行動は控えるように。
 ここでは本当に人が死にます」

 『死にます』というキリク先生の言葉に、俺たちは真剣な顔で返事をする。ここに実際に来るまで、午前は座学、午後は実技、といった感じで勉強してきた。意外と学ぶことがあったのだ。それに加え、俺たちには魔法の座学も追加される。他の人たちが休みの日でも魔法の授業が入ったのは、果たして幸か不幸か……。

 説明の中には、ギルドカードでできることの話もあった。ランクが上に行けば行くほど、信頼度は高くなる。Cランクほどまで行けば、それを使って国境を超えることもできるらしい。その例外が、皇国。あそこにはまた別の条件がある、と……。本当に、よくあんな手で国境超えたな、俺。子供って怖い。

 その中でも特に強く言われたのは、ダンジョンの危険性だった。ダンジョンでは俺たちのランクでは想像もできないほど、一度に稼ぐことができる。魔獣の素材、ダンジョンごとに異なる素材、そして魔獣を倒した際にまれに得られる魔石。これらはどれも高値で買い取りされるし、中でも魔石はレアで特別らしい。

 小石ほどの大きさで銀貨50枚ほどになるという魔石。俺は思わず袋にしまい込んだ魔石で一体いくらになるのか、想像してしまったくらいだ。周りでは魔石を見ることがなかったが、何に使っているのかと思ったら、どうやら貴族によって消費されているらしい。詳しくは説明されなかったが。

 初めの説明にあった通り、ここでの回収物は基本養成校が回収する。ただ、誰がいくら分、と把握する必要があるらしく、もし2人で倒したら折半とのこと。この辺りはすべて養成校に従うこととされている。

 そんな感じの座学を受けたうえで、先日実技のテストが行われた。これに合格しないとダンジョンに連れてきてもらえないというやつ。フェリラは大丈夫か? と思ったが、なんとか合格。こうして全員で来られている。

 ちなみに魔法学に関して、結局特殊魔法に関して特別な訓練がされることはなかった。俺も訓練するのは基本属性のみで、2属性に関しては全く触れていない。そんな中、フェリラは魔法の座学は受けるが、それ以外の実技は弓の方に力を注いでいた。その結果の合格。間違いなくフェリラの努力の結果だ。

 と、ながながと話してしまった。そろそろ中に入るらしい。

「ここのダンジョンには鳥系の魔獣、爬虫類系の魔獣が出ます。
 上にも下にも、ちゃんと注意して下さいね」

 え、上に下に注意しろって、最初から難易度高くないですか? まあいいが……。とにかく、養成校に入って自分がどれほど成長できたか確認するいい機会だ。

 3人一組、それに引率として先生が付く。俺たちは元からパーティを組んでいるので、もちろん決まった3人だ。そして引率の先生は、ラグア先生。魔法も剣も扱える先生だ。そのため、俺らの担当になったのだろう。

「ああ、確か俺の担当はお前らだったか」

「はい。
 よろしくお願いいたします」

「しっかし、お前らパーティ組んでいるのに何で名前つけてないんだ?
 そしたらもっと呼びやすくなるのに」

「い、いやー、なかなかいい名前が思いつかなくて」

「そんなもんか?
 まあ、いい。
 とりあえず中入っていくぞ」

 パーティの名前、か。リーダーであるリキートが決めたのだ。パーティの名前はまだ付けない、と。別にそれでもかまわなかったから何も言わなかったが……。つけるのが一般的なのか?

「じゃ、中入るぞ」

 こんな軽い感じの人なのにAランクに近いBランク。実力は折り紙付きだ。そんなラグア先生に続いて、ダンジョンに入る。その瞬間にぞくり、とした感覚が背を伝った。

「くらい……」

「ああ、ここはそういうダンジョンだ。
 一口にダンジョンと言っても相当な種類がある」

「うん……。
 あたしの居た村にあったのは、もう少しきれい、だった。
 空気も軽かったし、鉱石が輝いていてきれいだった」

「ほう、出身村にダンジョンがあったのか」

 ああ、もうずいぶんと前な気がしてくる。あそこも空気が冷えていたが、確かにもっと軽かった。それに、魔獣たちは置いておいて、主もきれいだった……。

「ほら、ぼけっとすんな。
 そこいるぞ」

 爬虫類って蛇かよ……。ニョロニョロこっち来る。あまり大きくないから見つけづらい。剣ではかなりめんどくさい。

「炎よ、地に這う蛇を焼き尽くせ」

 ごおっ、と燃え上がる炎。う、たんぱく質が焼けこげる匂いがきつい。あ、上に蝙蝠もいた。なるほど、だからこんなにも暗いのか。俺の魔法に引き続いて、リキートが前に出る。炎におびえたのか、後ろに下がった蛇たちを追いかけたのだ。そして、フェリラが弓を射る。グギャーー、という喚き声をあげて、ボトリとそれが落ちた。見事に当たっているが、さすがに一匹ずつか。

「ハール!
 下は僕がやるから、上を!」

「わかった!」

 あんまり数はいない。ここからは俺も剣だけでいいか。天井とは言え、そこまで高くない。どう振ったら一番効率よく蝙蝠を切り捨てられるか……。よし。


「ま、他のグループが行った後だし、こんなものだろう。
 それぞれの役割分担、よくできていたんじゃないか?」

「ありがとうございます」

 思ったよりもすぐに決着がついてしまった。まあ、確かに数が少なかった。先生が素材を回収し終わったのを確認して俺たちは奥へと進んでいった。

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