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2章 孤児院と旅立ち

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「そういえば、いつも夜はどうしているんだ?」

「夜……。
 お金は多くないし、基本的には野宿をしているよ」

 それでいい? と聞いてくるリキート。それはもちろん大丈夫だ。もともと宿に泊まれるとは思っていない。

「俺もそんな金持っていないから」

「そっか、孤児院から来たって言っていたものね」

「ああ、でもその代わりにいろいろと餞別をもらった」

 寝るための布団、そして先ほどの弁当もその一つ。さて、俺の夕飯どうしよう。まあ、一日くらい食べなくてもいいけど。というか、この人は今までどうやってご飯を食べていたんだ?

 野宿にいいところを探すために、もう少し進むことにする。しばらく行くと、ちょうどいい大きさの広場が見つかった。ここで休むとともに、今後の行動についても相談することにしたのだ。

「ふふ、こうして誰かと寝たのって初めてだ」

「そうなのか?
 リキートって、いいところの出とか?」

 なんか、似たようなことをミーヤに言われた気がする。それを今度は質問側に回るなんて思わなかった。俺は孤児院でも、その前の旅でもほかの人と寝るのが基本だったから、そんなワクワクすることではないが、リキートはそうではないらしい。目を輝かせている。

「え!? 
 え、えーっと」

「あ、言いたくなかったら言わなくていい!
 無理に聞き出したいわけではないし」

「うーん、そうだな……。
 ハールには話しておくよ。
 僕はとある貴族の長男なんだけど、家に嫌気がさして飛び出してきたんだ。
 急に飛び出したものだから、大したもの持ちだせなくて」

 貴族の、長男。それは嫡男っていうやつではないのですか? いいのか、いやよくはないだろう。でももう飛び出してきた以上、戻ることもできないはずだ。それに自分で飛び出してきたなら、後悔もないだろう。実際、そういう顔をしている。

「かろうじて、愛用のこの剣だけは持ってきたけれど」
 
 そういって腰元にあった剣を抜く。いいものなのだろう、おそらくだが。

「その、どうして嫌気がさしたんだ?」

「うーん……。
 どうしてって言われても、確信あることではなかったからあまり口にしたくないな。
 あ、あともう一つ。
 僕、魔法得意じゃなくて。
 弟に馬鹿にされること多かったんだ」

 言えないこと……。気になるが、言いたくないなら聞くのもよくないだろう。それにしても、魔法を使えなくて馬鹿にされたのか。

「ハールも、馬鹿にする?」

「どうして?
 孤児院では魔法が使えないのが当たり前だった。
 でも、誰もお互いを馬鹿にしなかったよ」

 リキートは僕の言葉にきょとんとする。そして、一瞬の後思いっきり笑い始めた。その瞳には少しだけ涙が浮かんでいて、きっとずっととても悩んでいたんだろう、ということがうかがえた。


「それで、今後どうしようか」

「冒険者養成校に向かうんだけど、その前に入学金を稼がないと。
 ひとまず、ギルドに行って登録するのがいいかな」

「ギルド自体には登録できるっていってたな」

「うん。
 ほとんどずっとあるっていう薬草摘みとかを地道にやって、ようやく入学金を稼げるかな。
 それで、入るにも試験があるからその訓練もしないと」

「試験って何をするんだ?」

「えっと、剣、魔法それぞれの適性を見て、あとは面接もかな。
 それくらいしか知らないや」

 ほー。やっぱりそういう適正を見られるのか。だが、最後の面接ってなんだ? 冒険者は荒くれものもいるよな。偏見かもしれないが。え、まさか性格見られるのか? ……うん、今考えても仕方ない。その場でどうにかしよう。

「詳しいんだな」

「家を出るって決めてから、必死に調べていたんだ」

 やっぱり、リキートって結構ちゃんとした人なんだ。向こう見ずで家を飛び出してきたのかと思えば、ちゃんと下調べを済ませてから家を出たらしい。おかげでこの後の行動指針が決まった。

「よし、ひとまず今日はもう休もう。
 それで明日からまた歩いて王都に向かうんだ」

「冒険者養成校は王都にあるのか」

「あはは、そうだよ。
 ハールは本当に何も知らないな」

 君と違って俺は調べる時間もすべもなかったんだよ。むすっとして答えると、なぜかまた笑われてしまった。

 おやすみ、とあいさつをしてそれぞれ寝転がる。寝不足といっていただけあって、すぐにすーすーと寝息が聞こえてきた。ちゃんと寝れたようで何よりだ。

「ハール」

 ふわっと姿を現したのはシャリラント。一応リキートが寝てから姿を現したということは気を使ったのだろう。まあ、いいか。

「どうしたの?」

「本当に私が姿を現してはだめですか? 
 その、あまりにも無防備すぎます」

「うーん、まだリキートがどのくらい信頼できるかわからないんだ。
 だから怖い……」

「そう、ですか。
 ならせめて寝ている間は力を使わせてください」

「力って何を?」

「認識阻害ですよ。
 それくらいはさせてください」

 う、シャリラントの微笑みって本当に破壊力あるよね。なんか負けた気分になる……。

「あ、ありがとう」

「あと一つ、許可していただきたいものがあるんです。
 姿を現さずとも、直接話しかけてもいいですか?
 それだけでもアドバイスはできます」

 直接……。それってあれかな? テレパシーみたいな感じですかね。まあ、それならいいか。ほかの人にはばれないなら。

『なら、そうしましょう。
 なるべく話かけるのを我慢できるようにしますから』

 早速ですね! やっぱり変な感じはするけれど、まあきっと慣れるだろう。安心して寝られる環境は整ったようだし、ゆっくりと眠らせてもらおう。
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