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第4章 ジルネイ編

ドラニスタの女王

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 「おかえりなさいませ、エイケン様」

 「おう」

 「サイ様、アディオン様、ご無沙汰しております。どうぞお通り下さい」

 「うむ」

 「ありがと」

 「スカーレット様もお変わりなく何よりです。どうぞ」

 「ありがとうございます」

 食事を済ませたセナ達は入国のため検問所を訪れ、エイケン達4人は無事に通ることが出来た。

 「ん?あなたは?失礼ですが入国に必要な申請がなされておりませんが?」

 「あっはい。それは」

 「あぁ、ブリード。そいつは必要ねぇんだ。そいつの名前はセナ。甥っ子だ」

 「え?エイケン様の甥!?」

 「我が弟子だ」

 「ボクは彼の主治医で、ボクもある意味、彼の師匠なんだよ?」

 「はぁっ!?エイケン様の甥でサイ様とアディオン様の弟子!?」

 「無礼をはたらけば……わかるな?」

 「は、はい!大変失礼をしました!セナ様どうぞ、お通り下さい!」

 「ありがとうございます。すいません……ご迷惑をおかけして」

 ブリードという名の緑色の皮膚をし甲冑を着込んだ大柄な男が、申請のないセナを引き留めたが、エイケンやアディオン、サイの言葉に顔を緑から青にかえ、セナを入国させた。

 「なんか気の毒な事をしてしまいましたね」

 「まぁ、最初だけだし気にすんな」

 「それより私は、セナ様が普通にしているほうが驚きですが?」

 「はい?」

 セナが申し訳なさそうにいうと、エイケンは気にした様子もなく笑顔でこたえたが、スカーレットはため息交じりにセナの態度が変わらなかったことに驚いていた。

 「いや、どうみても先ほどの方は、セナ様の知るたちと違うじゃないですか?」

 「あぁ、地図を見たあと、もしかしたらボクの使ってる言葉が通じないんじゃないかと思ってドキドキしましたが、同じ言葉のようでほっとしましたよ!」

 「えっ!?そこですか!?」

 スカーレットは緑色をした肌のことを言ったが、セナの回答が全然ちがう答えで驚きの声をあげた。

 「ぶっ!あはははは!」

 「おぉ、そうだったな!ここは他の国と同じ言葉と文字を使うから安心しろ」

 「ちっ、そんな些細なことを気にしておるから、貴様はそこまでなのだ」

 二人のやり取りを見ていたアディオンが、セナの回答を聞き吹き出し、エイケンは思いだしたかのように笑顔で答え、サイは舌打ちをしてスカーレットを睨みつけた。

 「師匠ひどいですよ!」

 「ふん!」

 「まぁ、まぁ。ほら!街の中にでるぜ?」

 子弟のやり取りを止め、出口のドアをあけたエイケンが言った。

 「ここが世界の均衡を守る国。ドラニスタだ!」

 「おぉ~!賑やかでいいところですね!……ん?世界の均衡を守る国?」

 ドアをあけ放ったエイケンの言葉で街並みを見渡したセナが、疑問を口にした。

 「あぁ、まぁとりあえず、このまま城に向かうからよ?道すがら説明するわ」

 エイケンがセナの疑問にそう答えながら、事前に用意してもらった馬車へと向かった。

 「それで?世界の均衡ってなに?」

 「そうせかすなよ、まずこの世界には4大国家がある大陸リネストがあるのはわかるな?」

 「うん」

 馬車に乗り込み、動き出したと同時にセナは、待ちきれないと言わんばかりにエイケンへ質問をした。

 「実はな?このドラニスタはある場所と、リネスト大陸との中間点にある島なんだよ」

 「ある場所?」

 「あぁ、そうだ。そこはな?……いや、俺より詳しいやつにこれから会いに行くから、そいつから聞いてくれ」

 「えぇ?気になってしょうがないよ!」

 エイケンが少し考えもったい付けるかのようにいい、セナは中途半端になった気持ち悪さを感じていた。

 「ふふふ。セナ君?ボクもこれから会う人物に聞いたほうがいいと思うよ?」

 「あぁ。エイケンに聞くよりわかりやすく、正確だ」

 セナの様子が面白かったのか、アディオンが笑いながらいうと、サイも同意を示した。

 「ちなみに、これから会う方って……?」

 「ん?あぁ、ドラニスタの女王みたいなやつだ」

 「えぇ!?そんなすごい人に簡単に会えるの!?」

 セナは城と聞き、嫌な予感を持ちながら尋ねると、エイケンはあっけらかんと答えた。

 「まぁな、俺もそこに住んでるしな……それにセナ?お前も絶対あったほうがいい相手だし、向こうもきっとお前には会いたいと思ってる」

 セナの様子を見ながら苦笑気味に話し始めたエイケンだったが、後半は真顔でどこか悲しそうな顔をして答えた。

 「え?女王様は僕のことをしってるの?」

 「あぁ、名前だけはな。そして……たぶんだが、この世界で一番お前に会いたいと願っている人物だ」

 「いや、叔父さん……話が見えないよ」

 「まぁ、行けばわかるって!」

 セナの疑問にエイケンがあいまいに答えた。

 「ねね?サイ?あの人とセナ君ってどんなつながりがあると思う?」

 「知らん!まったく見当もつかん!」

 「気になるね!」

 「下手に踏み入って逆鱗にふれるなよ?」

 エイケンとセナの会話を聞きながらアディオンとサイが小声で話し合っていた。

 「おっ?見えたぞ」

 「うっはぁ~…街にはいってからずっと気にはなってたけど、近くで見るとこんな大きくて立派なんだ!」

 「まぁな!世界で一番美しいといわれてるドラゴニア城だ!」

 「へぇ!」

 馬車に揺られ30分ほどたったころ、街の中心にある山のような高台から見下ろすように建っていた城を車内の窓から見上げながらセナが感心した。

 「エイケン様、お帰りなさいませ」

 「おう!ご苦労さん!」

 城の入り口を守る騎士が窓から顔を出したエイケンをみて敬礼をし、馬車はそのまま城内へと入っていった。

 「おし!セナ着いたぜ?こっちだ」

 「え?うん、わかった」

 馬車が止まり、ドアを開けながらエイケンがセナに言い、セナは先に進み始めたエイケンの後を追った。

 「お帰りなさいませ、エイケン殿」

 「おっす、ヤオ婆かわりねぇか?」

 エイケンたちを出迎えた若い女性にエイケンが笑顔で挨拶を返した。

 「えっ?叔父さん?失礼だよ?」

 「ふふっ!セナ君?見た目に騙されちゃいけないよ?あぁ見えてヤオ婆は3びゃ……っ!?」

 「おぉ~!これはこれはアディオン殿、サイ殿まで、よくいらっしゃいましたなぁ」

 若い綺麗な女性に対していったエイケンに、たしなめるようにいうセナへアディオンが耳打ちをしたが、急に冷や汗をかいてしゃべるのをやめた。

 「ひさしいなヤオ殿。気に衰えもなく元気そうでなによりだ」

 「あは、あははは。ほんとだねぇ……」

 流し目でアディオンを見ているヤオにサイが挨拶をし、アディオンも乾いた笑いを浮かべた。

 「ヤオ婆その辺にしとけよ。んで?我が主殿はおられますかな?」

 「ふむ。姫は自室におられますゆえ、先に謁見の間へご案内いたしましょう」

 「あぁ、けど、行くのは俺とこいつだけだ。サイとアディオンは客室に案内してやってくれ」

 深々と一礼しながらいうヤオにエイケンが用件を伝えた。

 「ん?我らは同行できんのか?」

 「すまねぇな……ちと、込み入った話になると思うからよ……今回は外してくれ」

 「ふむ、ならば致し方ないな。了解した」

 「え~!ボクは行きたいよ!」

 「こやつの監視もまかせておけ」

 「サンキュー!サイ。恩に着るぜ」

 エイケンの言葉にアディオンが不満を漏らしたがサイにひきづられるように、客室の方へと案内されていった。

 「んじゃ、ヤオ婆いこうか?」

 「それは構いませぬが……失礼ですがそちらのお方は?」

 サイたちが角をまがり見えなくなるのを確認したエイケンが振り向いていうと、ヤオはセナを見ながら訪ねた。

 「あっ、挨拶が遅れて……リネアで冒険者をしております。セナと申します」

 「ほぅ?随分遠くから……」

 「ヤオ婆?こいつは正真正銘、甥だ。……そのがわかるな?」

 「なっ!?なんとっ!では!?」

 「あぁ、だから私室にむかうぜ?」

 「え?私室?いいの?」

 「かしこまりました!どうぞこちらへ」

 「え?」

 エイケンの紹介を聞いたヤオが一瞬硬直したと思ったら、急に驚き、姫と呼ばれている人物の私室へ案内されることになりセナは盛大に驚き戸惑った。

 そして、姫の私室に向かう中、なんどもヤオにチラチラとみられセナが緊張するのをエイケンが苦笑するなか、豪華な扉の前に女性の騎士が2名立っている部屋の前にたどり着いた。

 「二人ともご苦労……姫に変わりはないですかな?」

 「これはヤオ様。はっ!お変わりありません」

 「そうですか、では失礼しますよ?」

 二人の騎士にあいさつをし、ヤオが扉をノックした。

 コンコン

 「ヤオか?エイケンもおるようだな……それと……見慣れぬ魔力の持ち主も一緒か……まあいい入れ」

 「はい。失礼いたします」

 扉の向こうから、張りのある女性の声が聞こえヤオが扉をあけ一礼した。

 「ふむ。その方が、この部屋へ人を招くとは珍しいな」

 「はい。申し訳ありません。ですが火急にお目通しをしたほうがよろしいかと思い……」

 「主よ、人払いを頼む」

 「ん?エイケン、急にきてなぜそのようなことを?」

 「頼む、ついでに結界で中の会話と覗き対策もしてくれ」

 「……そこまでのことか……わかった……」

 ヤオが顔をあげると、姫と呼ばれた巫女のような恰好をした若い綺麗な女性が声をかけ、ヤオが申し訳なさそうに話し出したが、エイケンが割って入るように結界を張らせた。

 パチン!

 「ふむ。これでもう大丈夫だけど?エイケン急にどうしたの?ヤオまで巻き込んで」

 指をならしたあと、場の空気がかわると、姫が口調を崩し親し気にエイケンへと尋ねた。

 「あぁ、実は面白れぇ奴にあってよ?会わせたくて連れてきたんだよ」

 「この子ったら……いつも急に……まぁいいわ?それで?その子がそうなの?」

 「あぁ!ほら!挨拶しろよ」

 「え?姫様、急に口調と雰囲気が……え?」

 「いいから!ほれ!」

 エイケンの話を呆れた様にきいた姫が視線をセナへと移したが、急な姫の態度の変化にとまどうセナの背中をエイケンが押し挨拶をさせた。

 「あの。私はリネアで冒険者をしております、セナと申します。」

 「リネア?随分と遠い場所からきたのね?……エイケン?それでこの子がどう面白いの?」

 「なんだよ!どっちも気づかねぇのかよ!しかたねぇな! おい!セナ?」

 「ん?なに叔父さん」

 「え?エイケン……今その子はなんてあなたを呼んだの?」

 「まぁまてよ。なぁセナ?姫の顔に見覚えはねぇか?」

 セナの自己紹介をきき、姫はエイケンが伝えたいことの意図がわからず混乱していたが、セナがエイケンを呼んだ言葉に動揺し、セナは姫の顔を見ながら記憶を漁った。

 「え?あったことないと思うんだけど……」

 「あぁ、直接あったことはないぜ?……しかたねぇな……ヒントをやろう!爺さんの家の仏間だ」

 「エイケンを叔父といったの?……爺さんの家?仏間?……ま、まさか……」

 セナの言葉をきき、苦笑気味にヒントをだしたエイケンだったが、先に姫が何かを察したようだった。

 「え?おじいちゃん家の仏間?……ん~……あっ!あぁ~!!」

 エイケンからのヒントでセナが何かを思い出し叫んだ。

 「にっしっし!思い出したか?」

 「遺影!おばあちゃんの遺影の写真にそっくりだ!!」

 いたずらが成功した子供のように笑うエイケンの横でセナが場を考えず、謎が解けてすっきりした顔で叫んだ。

 「エイケン!この子は!?」

 セナの叫びを聞き、自分の予想があたった姫が小刻みに震えながら、セナに手を伸ばしながら感極まった顔でエイケンに尋ねた。

 「あぁ!そうだぜ!あんたが心から会いたがってた……英信の一人息子であんたの初孫の星那だよ?

 「あっ……あ゛ぁ~!!」

 優しく微笑み伝えたエイケンの言葉を聞き、姫は膝をつき、両手で顔を覆い天を仰いで言葉にならないほどの感動の涙を流した。
 
 
  

 
 
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