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第3章 ―旅情初編―

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 ジルネイの国境からリネアの国境へと戻ってきたセナ達に、リネア側の検問所の騎士スレッガーが声をかけてきた。

 「セナ様?もうお戻りですか?…それにその子供たちは?」

 「はい。あぁ、この子たちは保護した子達で、マルンまで仲間に連れて行ってもらうために一度戻ってきたんですよ」

 セナはスレッガーにこれまでの経緯と今後の予定を伝えた。

 「そんなことがあったんですか…わかりました。皆さんお通り下さい」

 「ありがとうございます」

 スレッガーの言葉に礼をいい、セナ達はリネアへと入国し、待っていたメディーたちの元へ向かった。

 「あっ!セナ様!結構時間かかったみたいですね?」

 たまたま馬車から顔を出したメディーが、セナ達を見つけ手を振りながら声をかけてきた。

 「ただいまメディー。遅くなってすみません」

 「いえいえ、それで?その子達が?」

 子供たちに目がいったメディーが笑顔を浮かべながら、セナへと聞くと、セナは頷きながら答えた。

 「そうです。それで今日はあと少しで、日が暮れるので今日はここで過ごして、明日の朝マルンへ向かってもらえますか?」

 セナの言葉にメディーが頷き、話声が聞こえたのかコニーも馬車からでてきた。

 「セナ様おかえりなさい。無事に合流できたようでなによりです」

 コニーはセナを見ると笑顔を浮かべ無事を喜んだ。

 「それじゃぁ、子供たちを紹介しようか」

 セナがメディーとコニーに声をかけると、リリスが子供たちに挨拶をするように促した。

 「ほら、おめがだ、ちゃんと挨拶どごして」
※(ほら、お前たち ちゃんと挨拶をして)

 リリスの言葉に子供たちはモジモジと恥ずかしそうにしながら、メディーとコニーを見上げてリリスに話しかけた。

 「だんだども、姉っちゃ、おい しょしくって」
※(だけど、お姉ちゃん、私恥ずかしくって)

 子供たちの反応を見て、メディーとコニーが腰を曲げ、子供たちに目線を合わせ笑顔で話しかけた。

 「私はメディーといいます。こっちはコニー、皆さんをマルンという街に送り届けるように、セナ様に頼まれたの、だから明日からよろしくね?」

 ニッコリ笑いながら言うメディーをみて、子供たちは顔を真っ赤にした。

 「ふわぁ~…綺麗な姉っちゃだなぁ、さすが都会のふとだなぁ」
※(綺麗なお姉ちゃんだなぁ、さすが都会の人だな)

 女の子の一人が二人に見とれながらつぶやいた。

 「ん?私たちのこと?」

 「…んだ」

 コニーが少女に聞きなおすと、少女は恥ずかしそうに頷いた。

 「セナ様!聞きましたか!?私達、ですって!」

 少女の言葉に気をよくしたコニーが勢いよくセナへ振り向き声をあげた。

 「ん?コニーさん、どうしました?」

 しかしセナは、明日からリリスと別れマルンに向かう子供たちのために、今ある食材で栄養があり、おいしいと思われるものをマジックバッグ中から必死に選んでいた。

 「……なんでもないです」

 コニーはセナの行動に言葉をなくし、マインとエリスがそれをみて声を殺し笑っていた。

 そして、マイン、コニー、メディーが料理をつくり、子供たちの前に差し出した。

 「さぁ皆、晩御飯だよ!お腹いっぱい食べてね?」

 コニーの言葉に、目の前に並べられた料理を見て、子供たちがゴクンと生唾を飲みながらも、戸惑いがちにリリスへと声をかけた。

 「姉っちゃ、ほんとにこんたすごいご馳走ぐってもえの?」
※(お姉ちゃん、本当にこんなすごいご馳走食べてもいいの?

 しかし、聞かれたリリスもあまりの豪華さにキョロキョロとセナ達の顔を見ていた。

 「食べていいんだよ?沢山食べてね」

 セナが柔らかい笑顔を浮かべいうと、コニーたちも笑顔で頷いた。それをみて、リリスが涙を浮かべながらも子供たちに笑顔をむけ、言葉をかけた。

 「もぢろん!お腹いっぱい食わねぁど、明日がらの旅にだえられねぁよ?」
※(もちろん!お腹いっぱい食べないと!明日からの旅にたえられないよ!?)

 その言葉を聞き、子供たちは嬉しそうにすごい勢いで食事を食べ始めた。

 「ふふふっ。おいしいですか?まだまだ沢山ありますから、ゆっくり食べても大丈夫ですよ?」

 笑顔でご飯をかっこむ子供たちにマインが笑顔で声をかけ、メディーたちが次々おかわりをよそって回った。

 「肉だ!姉っちゃ、おい こんたすごい肉ぐったごどねぁよ!」
※(肉だ!お姉ちゃん、俺こんなすごい肉たべたことないよ!」

 「おいも!」
※(私も)

 男の子がフォークに肉を突き刺し、リリスに向かって笑顔を向け、周りにいた子達も同意の言葉をあげていた。

 「姉っちゃ、んめぇね」
※(お姉ちゃん、おいしいね)

 最初にリリスに抱き着いた女の子が、柔らかい笑顔をリリスに向け言った。

 「そうだね、しったげ んめぇね」
※(そうだね、すごくおいしいね)

 リリスも優しい笑顔をうかべ答えた。

 「こんな、野外での簡単な食事にも、こんなにも感動しちゃうなんて……ただのスープとパン、簡単に焼いたお肉だけなんですよ……?これまでのこの子たちの生活が、これまでの道のりが、どれほど過酷だったんですかね……」

 メディーがリリスと子供たちの食事の風景を見ながら、悲しそうな顔でつぶやいた。

 「未だあの子たちのような境遇の子達が多くいると思われます……少しでも手助けしたくなりますね」

 メディーの言葉にマインが悲痛な表情でいうと、エリスとコニーも真剣な眼差しで頷いた。

 「僕たちにどれほどのことが出来るのか…わからないけど……せめて目に映る範囲だけでも手助けしたい……」

 そんな皆の様子にセナが、力強い眼差しでいった。

 「そうですね」

 「はい!」

 「やれるだけやりましょう!セナ様!」

 「がんばります!」

 セナの言葉にマイン達がそれぞれの言葉で同意した。

 そして、食事が終わり子供たちを寝かせるためセナ達が馬車へと案内しようとしたところ。

 「よし!只今より夜間野外想定の訓練を実施する!」

 突然、検問所の詰所からスレッガーと騎士たちが外へ出てきて、スレッガーの声に敬礼をし、次々テントを立て始めた。

 「お?おぉ!これはセナ様!」

 わざとらしくスレッガーがセナへと声をかけた。

 「スレッガーさん?これからなにを?」

 セナが不思議に思い話しかけると、スレッガーはわざとらしく大げさに話し始めた。

 「いや、王都でのスタンピードの件もありますし、我々辺境の国境を守る騎士も緊張感や有事に対した際、どう動くかなどの訓練をせねばと思いましてね?」

 「はぁ」

 ニヤリと笑いながら言うスレッガーに、理解が追い付かないセナが気のない返事を返した。

 「それで、本日は夜間の有事を想定した訓練をすることにしたのです」

 「な、なるほど」

 セナが無理やり納得したような言葉を返したとき、一人の騎士がセナとスレッガーの元へきた。

 「隊長!テント設営終了しました!」

 「うむ!ごくろう!」

 敬礼をして報告した騎士にスレッガーが満足げに答えた。

 「ただ、一つ問題もあります!」

 「なんだ?言ってみろ!」

 「はっ!詰所が空で防犯上よろしくありません!」

 騎士が笑いをこらえながら報告すると、スレッガーはわざと大声で対応した。

 「なにごとですかね?」

 「さぁ?」

 その光景をみていたメディーがエリスに尋ねるが、エリスもわからず首を傾げた。

 「な、なんと!盲点だったわ!……んー、誰かが詰所にいてくれればなぁ!」

 「そうですねぇ~。大人10人子供10人は余裕で寝れる場所もあるんですけどねぇ~」

 スレッガーと騎士がチラチラとセナを見ながら話し合っていた。

 「ぷっ!そういうことですか」

 マインが吹き出しながらスレッガー達の考えを理解し言葉を発した。

 「お忙しい所申し訳ありません」

 「ん?なにかね?」

 「差し出口申し訳ありませんが、もしよろしければ我々が訓練の間、詰所を守りましょうか?」

 マインとスレッガーが棒読み感丸出しで話し出した。

 「おぉ!それは助かる!英雄のセナ様一行なら信頼もできる!すまんが頼めますかな?」

 「わかりました」

 マインがスレッガーとの会話を終わらせ、セナの元へと戻ってきた。


 「セナ様、スレッガーや騎士たちの心遣いに甘えましょう。子供たちを詰所に寝かせてあげましょう」

 「はい」

 マインの言葉にセナが笑顔で返事をし、スレッガーたちの好意に甘え、子供たちと共に詰所へと移動した。

 「さすがリネアの騎士だねぇ」

 「いいとこあるわぁ」

 メディーとコニーが騎士たちの横を通り過ぎるときに聞こえる様にほめて行った。 

 「暖げえ」

 詰所の中へ入った子供たちが嬉しそうに声をあげた。騎士たちは子供たちのために少し時期的には早いが、薪を焚いていてくれていたようだった。

 「ベッドだぁ!」

 そして、綺麗なシーツなどに変えられていたベッドがいくつもあり、その一つに子供が飛び込んだ。

 「こら!よごしてしまうだべ!」

 リリスが焦りながらベッドに飛び込んだ子供を叱った。

 「いや、大丈夫みたいですよ?」

 リリスにセナが置手紙をヒラヒラ見せながら言った。手紙にはベッドはご自由に、とだけ書いてあった。

 「ありがとうございます……リネアにこれて私たちは幸せです……」

 手紙をみてリリスが涙を流しながらいうと、メディーたちがリリスを囲みそれぞれ抱きしめた。

 「リリスさん?これからですよ?」

 「はい」

 マインの言葉に、涙をぐっとこらえ決意新たにした眼差しでリリスが返事をした。

 そして、よろこびすぎてテンションがあがり、なかなか寝付けなかった子供たちを寝かせるのに幾ばくかの苦労をし、セナ達も眠りについた。

 
 
 
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