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第2章 リネア王国 ― 【王都リストニア編】

物事は準備8割

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 セナが治療を終え、退院の準備をしている頃。

 「エミル様。セナ様が本日ご退院なさるそうでございます」

 「まぁ!では、お迎えにあがらなくてはいけませんわね!セバス?それと、今日の夜は豪勢な食卓にしてちょうだい?」

 「かしこまりました」

 治療院からの連絡を受け、セバスがエミルへとセナの退院をつたえ、ブレイダー家が慌ただしくセナを出迎える準備をはじめた。

 一方、厩舎では…。

 「えっ!?セナ様もう退院なんですか!?」

 「はい!治療院から先ほど使いがきて知らせてくれました」

 レイファからの知らせにメディーが驚いていた。

 「ブルルル!」

 「えっ?そ、そうね。約束だったものね…セナ様を迎えに行くんだけど…さすがに早すぎて…迅風の怪我が…」

 二人の話を聞き、迅風が嬉しそうに鳴くのをきき、メディーが顔を曇らせた。

 「きゃ!」

 「ほっほっほっ!レイファちゃんや!今日も素敵なお尻をしておるのぉ!……ふんごっ!」

 突然、レイファが悲鳴を上げると、手をワキワキさせたマーカスが満面の笑みで後ろに立っていて…そして、盛大に後ろに吹っ飛んでいった。

 「お、……おじい様」

 「悪・即・滅」
 
 その光景を見て、メディーが呆れたようにつぶやき、レイファが殺し屋のような冷たい目つきで見下し、マーカスに淡々と言い放った。
 
 「くぅ~!年寄りは大事にせんか…しかたないのぉ」

 「マーカス様?何用でございますか?肥溜めはここにはありませんよ?おボケになられたんですか?」

 「辛辣!」

 鳩尾を抑えながらも、何事もなかったかのように笑顔で近づいてくるマーカスに、レイファが更に追い打ちをかけた。

 「そ、それで?おじい様?本日は何の御用がおありで?」

 「おぉ~!そうじゃった!そうじゃった!先ほど儂の工房にも使いが来ての?セナ殿が退院するそうじゃないか」

 メディーが、二人の間に入り、マーカスへと話しかけると、思いだしたかのようにマーカスが手をポンと叩きながら言った。

 「やはり…耄碌してしまったようですね?メディー?すぐにしかるべき施設への入居をすすめます」

 「ちょっ!レイファちゃん!儂まだ耄碌しとらんよ!?」

 「はぁ~。レイファも話が進まないからその辺で許してあげて?」

 「ちっ!…わかりました」

 レイファの冷酷な一言をメディーが止め、マーカスへ話を促した。

 「うむ。セナ殿の退院を迅風と共に迎えにいくといっておったのでな?装具と…これを手に入れてきたのじゃ!」

 「え?こ、これは?」

 「ふふふふふ!儂のツテをつかい用意した3級ポーションじゃ!これを迅風に飲ますのじゃ!!」

 「えっ!?そんな高価なものを!?」

 「うむ、残念ながらアディオンが用意した2級ほどではないがな」

 マーカスが差し出した小瓶をみたメディーが尋ねると、自慢げにマーカスがいい、金額と価値をしっているレイファが、盛大に驚いた。

 「ま、まさか、セナ様は2級ポーションを?」

 「そうらしいの。レイファちゃんや?帰ってきたとは言えセナ殿にしばらくは絶対無理をさせてはならんぞ?」

 レイファが話の流れで理解したことをいうと、マーカスが真剣な目でいってきた。

 「まぁ、それよりも!英雄のご帰還に愛馬が傷だらけでは格好がつかん!迅風よ!我が工房の渾身の作を身にまとい、威風堂々とセナ殿を迎えにいくぞ!」

 「ヒヒィーン!」

 マーカスが目をカッと見開き興奮気味にいうと、迅風は一際勢いよく鳴いて答えた。

 「じゃ、じゃぁ。ポーションをもらいますね?それと、迅風?副作用で暴れたら元もこうもないから、少し窮屈だけど拘束させてもらうわね?」

 メディーがマーカスからポーションを受け取り、迅風をつなぎ止め、口に小瓶を差し入れ飲ませた。すると、少し経った頃、迅風の身体から滴り落ちるほどの汗が浮かび、呼吸を荒くし、前掻きで地面を蹴り始めた。

 「はじまったわね?迅風?我慢よ!綺麗になってセナ様を迎えにいくんでしょ?」

 「っ!?ブルルル!」

 身もだえするように、その場で足踏みなどをしていた迅風に、メディーがいうと、迅風は目を見開き、気合を入れたように鼻を鳴らした。

 そして、次第に悶えるのも収まり、呼吸が整ったのを確認したメディーが、迅風の包帯を巻きとっていった。

 「綺麗…」

 「う…うむ。ここまで見事だとはな」

 艶やかな漆黒の毛並みが、汗でなおさら輝き、艶を増したかのようにみえる迅風が、まさしく威風堂々としたように凛とした表情に、レイファが感嘆の声をあげ、マーカスが驚いていた。

 「ふふふっ。少し水を飲んでね?汗を拭きとって、艶出しを塗るわ!おじい様は今のうちに装具を用意して下さる?」

 拘束を外しながらメディーがいい、迅風が水をのみ、マーカスが工房から連れてきた錬金術師達を呼び入れた。

 そして、メディーが体に異常がないか確かめながら汗を拭き、艶出しをしていき、錬金術師達が次々と装具を装着させていった。

 「できたわ!」

 「おぉ~!これは立派だわい!」

 「えぇ!英雄たるセナ様にふさわしい立派な姿です!!」

 メディーの声で作業の終わりが告げられ、全員が迅風をみた。

 その姿は、見事な装飾に赤い宝石のような物が、数個あしらわれた金色の兜をかぶり、首から胸元を守るかのような、中央に赤、それをはさんで配置された、緑色の宝石のような石がはめこまれた、ごっつい金色のネックレスのような物に、同じく金色の脛当てを各足に装着し、真っ赤な鞍下に金色に黒と赤の装飾をあしらった鞍をつけた迅風の姿があった。

 その姿を見てマーカスが満足げに、レイファがうっとりとしていると、迅風は嬉しそうに一鳴きした。

 「ん?随分、今日は迅風が騒がしいな!……ってなんだその恰好は!?」

 そこにガルハルトがやってきて、一目見た迅風の姿に驚いていた。

 「ガルハルト様。どうですか?この神々しいまでの迅風の姿は!これでセナ様の退院に華を添えられます!」

 レイファが、ドヤ顔で胸を張り言いい、マーカスとメディーが満足げに頷き、錬金術師達が達成感に浸った。

 「…いや、これは神々しいというより…もはや、魔王の愛馬なのでは?…」

 その光景に、引き攣った笑いを浮かべ、ガルハルトが正直に自身の考えを口にした。

 「はぁ?ガルハルト様は所詮、脳筋だから、わからないのですよ!」

 「うむ。迅風はただの従魔ではないのだぞ?この国の英雄たるセナ殿の愛馬であり、迅風もまた英雄なのじゃぞ?その辺の地味な装具などでは、舐められるじゃろうが!」

 「そ、そうか…そ、そうだな!うん!これくらい立派じゃなきゃ、迅風に負けちまうな」

 ガルハルトの言葉にメディーがキレ気味にいい、マーカスは唾を盛大に飛ばしながら熱く語ってきた。そして、ガルハルトは折れた。

 「…だからモテないんですよ」

 「なっ!?」

 レイファが、ぼそっと呟き、ガルハルトの残り少なかった何かを完全に削り取った。

 そして、ブレイダー公爵家の前には、豪華なブレイダー家のマークが入った馬車が2台と、私設騎士団が20名、そして装具に身を纏った迅風が並んでいた。

 その光景に住民たちが集まり騒がしくなっていた。

 「まぁ!迅風!随分ご立派に!素晴らしい装飾ですわ!」

 「はっはっは。さすがエミル様!この素晴らしさがおわかりか!」

 迅風を一目みたエミルがほめたたえると、満足げにマーカスが答えた。

 「エミル様?あとはギルス様がご到着なされば、いつでもご出発できます」

 セバスの言葉にエミルが笑顔で頷いた。

 そして……。

 「主役のセナ様をスターシャが引き留めておりますの。これ以上お待たせするわけにはいきませんわ!今すぐ出発いたします!」

 「は?」

 「セバス?出発です」

 「か、かしこまりました!」

 エミルの言葉にセバスが戸惑ったが、すぐに動き始め、パレードのように動き始めた。

 「あの人には、直接治療院へくるよう伝えて?間に合わないようなら、それなりの覚悟をお決めになってもらいましょ?」

 エミルがセバスに笑顔でいい、さしものセバスも顔を蒼くし引き攣った顔をした。


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 もうすぐ2章も終わりにさせたいと思い、ここ数話長めになってしまっています。

 2章終了まで、このまま長めになるかもしれません。
 
 
 
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