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第2章 リネア王国 ― 【王都リストニア編】

とある異世界転移冒険者の1日④-クエストテンプレ編相棒の名ー

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 黒いオークがズシンと沈んだ後。セナは乱れた呼吸を整えた。

 「ふぅ~。随分多かったな…。この黒いの、ぶっちゃけ怖すぎるよ……」

 上半身と下半身が分かれた黒いオークを見ながらセナがつぶやく。

 「ブルルルッ」

 セナの背後から、馬の威嚇するような声が聞こえ、思いだしたセナが、そちらを見る。すると、黒い大きい馬は、瞳に警戒心を浮かべながら、セナを睨むように見ていた。

 「遅くなってしまったね。ごめんね?もう大丈夫だよ?」

 セナは黒馬の後ろを見て、少し悲しそうな笑顔を浮かべながら言った。

 「ブルルルル」

 黒馬はセナの言った言葉を理解しているのか、鼻を鳴らし首を横に振った。セナはそんな馬を見て賢いリーダーだったんだろうと思った。

 「君の傷を見せてもらってもいいかな?僕、薬草を持ってるんだよ」

 セナが黒馬へ、警戒を解くようにゆっくりと近づき、背中のリュックから薬草を取り出し黒馬の鼻へ近づけた。

 「クンクン。ブルルルル」

 黒馬は薬草の匂いを嗅いで、それが、自分を害するものではないと判断したのか体の力を抜いた。

 ドサっ。

 力が抜けた瞬間。黒馬は横たわり動けなくなった。それをみて、セナは焦りながらリュックから薬草を出し、身体強化を体にかけ、両手で薬草を力いっぱい揉みこんでから、黒馬の傷へ次々当てていき、最後に馬の口元へ自身の水筒をあて、水を飲ませた。

 「ごめんよ?僕、神聖魔法が使えないんだ…。一番欲しかった魔法なんだけどね」

 自称気味に黒馬にセナがいい。黒馬はブルルと小さく鼻を鳴らした。

 「ありがとう。僕が見張りをしておくから少し休むといいよ」

 セナが柔らかい笑顔をうかべ、黒馬の額を優しくなでると、黒馬は目をゆっくり閉じ眠りについた。

 黒馬が眠りについたのを確認したセナは、あたりを見渡した。

 「たしか血の臭いで他の魔物が集まるって皆がいってたし。この状況はさすがにまずいよね」

 セナはそういうと背中のリュックを左手で持ち倒れている魔物たちへ近づく。

 「全部入るかな?入らなきゃ燃やすしかないなぁ」

 セナは魔物におもむろに右手で振れた。すると、一瞬、魔物の死体が光ると消えた。

 これは、セナが初めて薬草採取をした際、あまりに大量の籠を持って帰ってきたのをみたガルハルトが、ギルスに報告し、ブレイダー公爵私設騎士団の補給兵が使うマジックバッグを、貸し出してもらったためである。

 なおかつ、セナが借りたバッグは一番容量のでかいリュックタイプであり、6人の兵士が1か月は生きていけるだけの、物資が収納可能なほどの要領を誇っていた。

 そのマジックバッグに次々魔物の死体を入れていき、すべての魔物が収納できたことにセナが地味に驚いた後。
 セナは、刀に土の魔力を流し地面に突き刺した。

 「アーククウェイク」

 セナが突き刺した刀から全方位に土が20㎝ほど盛り上がっていき、ボコという音共に盛り上がった部分が裏返っていった。
 セナはそれを何度か繰り返し、魔物の血を吸った部分の土を地面の中へ隠した。

 「ふぅ~。タルザ爺さんの畑おこしを手伝ったときに、成り行きで編み出したけど。思わぬところで役に立ったなぁ」

 セナは王都郊外に住む、農家の老夫婦からの依頼をこなしたときのことを思いだし、額の汗をぬぐった。

 セナは日本にいるときも老人ばかりの限界集落で役場職員として働いており、30歳といえ、役場の中では若手であり、色々老人の手伝いをしてきた。それは、畑の草刈りの手伝いから、種まき、収穫だけではなく、時には除雪などの作業もこなしてきたので、老人との接し方は得意であった。

 そんなことを思いながら、作業をおえたセナは、リュックからスコップを取り出すと、おもむろに穴を掘り始めた。

 「ブルルルル」

 時間がどれほどたったのかわからないが、夢中で作業をしていたセナの背後から馬の鼻を鳴らす声が聞こえ、セナが振り返った。

 そこには、目を覚まし、立ち上がった黒馬がこちらを見ているところだった。セナは黒馬に笑顔をむけながら、先ほど堀った穴があった場所を指さし。

 「そのままじゃ可哀そうだし、なにより、何かに食べられるのも辛かったから。君には悪いと思ったけど、勝手に埋葬させてもらったよ」

 セナは黒馬に申し訳なさそうな顔をしてあやまった。黒馬は少しの間セナをみつめたあと、自身の仲間が1頭ずつ丁寧に埋葬されている場所に、よろよろと歩き近づいた。

ザッザッ

 近づいた黒馬は埋葬された場所を一嗅ぎしたあと、前足で土をかけた。結局、黒馬はすべての場所を1か所ずつ嗅いで土をかけていった。

 「ヒヒヒィーーーーーーーーン!!!」

 そして、すべての場所にその動作をしたあと、天に向かい力の限り鳴いた。その鳴き声は森中に響き渡るほど大きく、そして悲しみをこらえた様な鳴き声で、見ていたセナはあまりにも悲しそうに鳴く黒馬をみて涙を流した。

 鳴き終えた黒馬はセナの元へ歩み寄り、一瞬セナの目を見つめると、瞳を閉じ自身の頭を下げ、セナへと近づけた。

 「もう…。お別れは済んだのかい?…。君は、とても強いね」

 セナはそういいながら黒馬の顔を優しく抱きしめた。

 「それで…。これから君はどうするの? このままここにいるわけにもいかないよね?元いた場所に帰るのかい?」

 抱擁を解きながらセナが黒馬にいうと、黒馬は首を横に振った後、セナのローブを甘噛みした。

 「ん?もしかして、僕と一緒に来てくれるのかな?でもいいのかい?僕は実力を付けたら、旅をする予定なんだよ?」

 「ブルルルル」

 セナが黒馬の様子を見て、自身のことを伝える。すると黒馬は了承したかのように首を縦に振り鼻を鳴らした。

 「きてくれるの?ありがとう。って君って名前あるの?もしないのなら、僕がつけてもいいかな?」

 「ブルルルル」

 「うん、わかったよ。ありがとう。じゃぁ僕がつけるね?ん~。世紀末覇者が乗ってた馬より立派に見えるし、強くて速そうだ…。迅風はやかぜってのはどう?異世界なのに和風すぎるかな?」

 「ブルッ。ヒヒィーーン!!」

 「気に入ってくれたみたいだね?ありがとう!今日から君は迅風だ!これからよろしく!迅風!」

 『戦闘馬バトルホース。迅風をテイムしました。』

 「えっ?」

 セナが名を付け、迅風が気に入り受け入れたことでテイム扱いとなり、どこからか機械的な声が聞こえたが、訓練時などに、何度もこの声を聴いたセナは、声には驚かなかったが、自身が生き物をテイムできたことに驚いた。

 「じゃぁ、傷もまだ痛むだろうし、ゆっくり行こう。それにギルス様に厚かましいけど、君も住めるようにお願いしてみるよ。もしダメだったら、君も泊まれる宿でも二人で探そう。じゃぁ、いこうか迅風」

 「ブルルルル」


 セナがいい、迅風が鼻を鳴らした。最後に埋葬した馬達に祈りをささげた後、セナたちは森を後にした。


 
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