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第6章 エターニャ神皇国編

陰謀

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   「まず、事の発端は…先代歌姫の幽閉と死去にはじまる」

   「先代歌姫はたしか…5年程前にご崩御なされたわよね?」

   「ああ、前教皇は自身の足場を固め穏やかで保守派だった前前教皇を暗殺し教皇の地位についたのだが、先代歌姫は人柄により人望もあり、教皇になったからと言って好き勝手はできず目の上のタンコブだったのだ」

    「それで邪魔な先代を?」

   「ああ、高齢になり体調を崩した先代歌姫を治療と称し実質幽閉することに成功し国民には重病だとふれたのだ」

    「なるほどねぇ。前教皇になって15年我慢してたんだねぇ」

  シャドウの話を聞き、うんうんと納得したようにアディオンが言った。

   「それで自身の傀儡になりそうな歌姫候補を歌姫とするべく当時の右腕をになっていた大司祭などに他の候補と邪魔になりそうな者の排除を命じた。まぁ今回の件でそう言った大司祭は処罰を受けるか、事前に逃げ出していて残っているのは…」

   「ペドロってことだね?」

   「そうだ。正確には使いっ走りがしがみついた結果だがな」

   「くっ!」

  アディオンがペドロを見ながら尋ねると皮肉を込めたようにシャドウが頷いた。

   「それで?前教皇は何故大陸統一を目指したんだ?」

   「元々野心家だったが、教皇就任直後のアルドラ聖教との接触でいけると判断したようだ」

 「じゃあやっぱり結構練りに練って根回しをしたうえでの行動だったんだねぇ」

 「そういうことだ」

 エイケンの問いに答えたシャドウの話を聞きアディオンが言った。

 「じゃあ、彼も裏ではアルドラと繋がっているのかな?」

 「いや、アルドラは自分たちの目的に必要なをほぼ自国に逃亡させている」

 「あぁじゃあ、見切りをつけられた人達だけが処罰されたり彼のように放置されたんだね?」

 「そういうことだ」

 「そんな…そんなことのために…お父さんもお母さんも殺されたの?…せっかくマウアと二人歌巫女ディーヴァになれたって喜んだのに…?」

 話を聞いていたアリアがポロポロ涙を流し放心したようにつぶやいた。

 「アリア…」

 「しっかりしなさいアリア!」

 つぶやきにイースが悲しそうに声をかけると同時にカトリーヌが声を荒らげながらアリアを強く抱きしめた。

 「っ!?…カトリーヌ」

 「あなたこんなことがもうおこらぬよう、変えるためにここに立っているのでしょう!」

 「うん…でも…」

 「でもではありませんわ!ご両親はあなたをお守りなられたのでしょう?だからあなたは今、生きていますわ!歌姫にもなられましたわ!ではあなたの今なすべきことはなんなのですかっ!悲しみに暮れ、ショックを受けて立ち止まることですの?違うでしょう!」

 カトリーヌが涙を流しあえてキツく強くアリアに問いただした。

 「…カトリーヌ」

 「アリア?唯一の肉親を目の前で失い、知った風なことを言うなとお思いになれると思いますわ…でも今のあなたにはイース様も、自身の力ではどうしようもない長い絶望から救ってくださったセナ様もお仲間もおりますわ…」

 「…うん」

 「あなたがここで、こんなくだらないことに屈し歩みを止めることはあってはなりませんわ…私も…いえ我が帝国も負けません!ですからアリアもがんばりなさいな!」

 「…ありがとうカトリーヌ…私も頑張るよ…もう…もう私も負けないよ!」

 「それでこそですわ!」

 涙を乱雑にごしごしと袖で拭いたアリアが力強く宣言すると、カトリーヌは抱きしめるのをやめ満足気に笑った。

 「さすが帝国の女って感じ?」

 「ふふっ…アレは幼き頃から特にだった」

 アディオンが面白そうに尋ねると、レオは小さいころからのカトリーヌを思い出し笑顔を浮かべた。

 「二人とも強いなぁ」

 「おめぇどっちとくっついても尻に敷かれるぜ?」

 感心したようにつぶやいたセナの言葉にエイケンがニヤニヤしながらいった。

 「はぁ~…それで?俺はもういいのか?」

 「他になにか掴んでるの?」

 「そうだな…アルドラは何かをまだ起こそうとしているようだが、今は動けないだろうな。シルティアについてはソイツに聞いた方がいい」

 リレイの言葉にシャドウはコルネを顎で指した。

 「聞かせてもらえる?」

 「…はい。私が掴んでいるのは、現在行われている教皇選出はデキレースで双方共にアルドラの息がかかっています」

 「なんだとっ!?」

 リレイに促されたコルネは一度シャドウをみてシャドウが頷くのを確認すると自身がつかんでいる情報を話始めると、一番最初に驚いたのがペドロであった。

 「双方が牽制しあう形でアルドラ側が動けるまで時間を引き延ばすためらしいです。それとペドロ教皇代理に知らせていないのは計画が漏れる、または破綻するのを避けるためです。」

 「なんだおめぇ味方からも信頼されてねぇじゃねぇか」

 「くっ!…ちくしょう…」

 コルネの言葉にエイケンが笑いながらいうと、ペドロは顔を真っ赤にして怒りを抑え込んでいた。

 「黒幕はアルドラ聖教というわけですね?それでそっちの教皇はどんな方なんですか?」

 「謎だ」

 「え?」

 ここまでの話をきいていたセナが尋ねるとシャドウが答え一同が驚いた。

 「ねぇ、あなたでもわからなかったの?」

 「ああ、そうだ。アルドラ聖教は離島にあるというのもあるが教皇についての情報が元々なかった」

 「それで?君らしくもなく自分の目で確かめはしなかったのかい?」

 リレイの問いに淡々と答えたシャドウの言葉にアディオンが少し意外そうに尋ねた。

 「潜入し調べはした」

 「それでもわからなかったのかい?」

 「ああ、まず仮面をつけ素顔がわからん」

 「就寝時や入浴時は?」

 「プライベートの空間はすべて2重で完全遮断結界を貼られていた」

 「随分警戒心の強いことね」

 「出身、年齢、経歴不明。性別は男という感じだ」

 「たぶんってどういうこと?」

 「これも推測だが仮面に声を変える道具が使われ加工されているという感じだ」

 「怪しさしかないね!」

 「ああ。一応、名はラウロというが…襲名制らしくてな。ゆえに今の教皇がいつから教皇になったのかすらわからんのだ」

 「わからないというのが一番怖いわ…」

 リレイが眉間にしわを寄せいうと一同も頷いた。

 「ペドロ教皇代理や二人の教皇候補者はそのラウロ教皇に言わば時間稼ぎの捨て駒として使われてるといった感じです」

 「まあ、いずれ統一を目指しているのなら、いうことを聞いてくれるのなら誰が教皇でも変わらないからね」

 コルネの報告を受けアディオン達は顔を見合わせ今後のアルドラ聖教対策も視野に入れなければと確認しあった。

 「それで?捨て駒代表殿はこんな扱いをうけてもアルドラ側につくのか?」

 「くっ!」

 「裏切れば殺される可能性がある、向こうに付けばこちら側の圧力に対応せねばならん」

 「四面楚歌ってやつだね!」

 「針の筵だろ?」

 エイケンの問いに苦悶するペドロにサイ、アディオン、シャドウがそれぞれ好き勝手言い放った。

 「ペドロ教皇代理。我々につくのであればできる限りの身の安全と地位の確保を約束しますよ?」

 「う…裏切れというのか?」

 「いえ?あなたは、元々アマリウス聖教の人間ですもの、シルティアの罪を受け入れアマリウス聖教が更なる発展を遂げることに尽力するというだけの普通のことをするだけ、どこに裏切りの要素があるのですか?」

 「ペドロ殿、アルドラが今後どのようなことを仕掛けてくるか不明なのは最早シルティアとて同じだ、しかもこの国を奪い足掛かりとし我らの国にまで手に入れようとしておる」

 「ああ、今はお互いが手を取りそれに対応せねばならん。一国が落ちれば他の国も被害が増える、今こそ我らが手を取り合う時と思うが?」

 リレイの言葉にゲオルグとレオがペドロを見つめながら言った。

 「そうじゃな、アマリウス聖教もアルドラ聖教に飲み込まれるわけにはいかん。我らも協力するぞ」

 イースが立ち上がり笑顔で苦悩するペドロに右手を差し出した。

 「私はアマリウス聖教ではないですし国を背負っているわけではないので、正直皆さんほどの重圧はないので難しいことは言えませんが…ペドロ教皇代理様、せっかく同じ大地に住みわかりあえる機会があるのなら皆で笑いあってくらしていきませんか?もしできるのならペドロ教皇代理様、力をかしてください。そして私も微力ながら協力させてください」

 ペドロに目線をあわせセナが朗らかな笑顔で声をかけると、ペドロは目を見開いて驚いた顔をしたあと表情を曇らせた。

 「こんな…自身の欲だけで生きてきた私にも…そんな力があるのですかね…」

 「ありますよ!今、アマリウス聖教の代表はあなたじゃないですか…それに私も欲は沢山ありますよ」

 「子供のころから愚図だなんだと言われ…何をやっても失敗ばかり…こんな私に皆も笑顔をむけてくれるか?」

 「大丈夫ですよ…もう向けてるじゃないですか」

 俯きながら力なく言うペドロがセナの言葉を聞き顔をあげると全員が笑顔をペドロへと向けていた。

 「あ…あぁ…ああ!」

 ペドロは初めて他人から必要とされ、仲間として受け入れられたと感じ取ると心の中からじわじわと実感がわきあがり号泣した。

 「ペドロ殿泣いておる場合ではないぞ?儂も尽力する故、共に頑張ろうではないか」

 「イースさんが補佐役についてくれるなら向こうもおいそれと手出しもできませんし色々心強いですね」

 「え!?イース殿が補佐?」

 イースが優しく背に手を回し励ますのを見てセナが笑顔でいうと、イースが先頭に立つと思っていたペドロが驚きの声を上げた。

 「教皇代理はあなたですよ?」

 「当然であろう。貴様はこれまで多くの挫折、不当の扱いを受けてきたのであろう?ならば人の痛みを知っておるではないか、なら貴様は我等獣人の気持ちだって理解できるはずだ。イース殿の力をかり立派な教皇代理を務めあげろ」

 メイとサイがペドロをみながら言うとペドロは目を見開きイースをみるとイースは笑顔で頷いた。

 「いばらの道ではあるが、貴殿が怯むことなく真っ直ぐ進むというのであれば、我が国は貴殿への協力を惜しまんぞ」

 「うむ。王国とジルネイも同じだと思ってもらいたい」

 レオの言葉にゲオルグが続くとメイも同意し頷いた。

 「ここまで言われてんだ。腹をくくれ、漢を見せろ、そして自分を変えて乗り越えろ」

 最後にエイケンがバシンと強くペドロの背中を叩き笑顔をむけた。

 「…つぅ…剣王様…強すぎますよ…おかげで心の芯まで響いてしまいました…」

 「へっ!そうかよ」

 嬉しそうに涙をごしごしと乱雑に拭きながらいうペドロの言葉にエイケンは覚悟をみたのか満足げにいった。

 「現アマリウス聖教並びにシルティアの代表代理としてリネア王国、ジルネイ共和国、ストラトス帝国の3国からの申し出をすべて受け入れ謝罪とさせていただきたい。それと今後シルティアも3国と足並みをそろえより良い大陸へと尽力させていただきたい」

 立ち上がったペドロがイースを一度見て頷きあったのち、胸をはり堂々と宣言した。

 「では、今後の詳細を話し合い書面をまとめましょう」

 「やりゃぁ、できんじゃねぇか!」

 「うむ。だが安心するな足元をすくわれるぞ」

 ペドロの宣言を聞き、ゲオルグ、レオ、メイが立ち上がり笑顔でペドロと握手を交わすとリレイ、エイケンそして獣人への不当な扱いが消える足掛かりができ、心なしか嬉しそうな表情をうかべたサイが言った。

 「どうだい?シャドウ」

 「なにがだ」

 「堂々と姿を見せたまま世界が変わるきっかけをみた感想だよ」

 「ぬかせ」

 つんつんと肘でシャドウの脇腹をつついたアディオンの言葉にシャドウは少し笑みをうかべて答えた。
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