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第5章 ストラトス帝国編

勝てば官軍

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 「セナ君、観客も入るらしいからあっさり勝ってしまってはいけないからね!」

 「うむ。今後おかしな行動を起こすものが現れないよう徹底的にいたぶってかられ」

 「物騒なこと言わないでくださいよ…そもそもなんでこんなことに…」


 黒い笑いを浮かべたアディオンに人差し指を眼前に建てられ戸惑うセナにアリア達も声をかけた。

 「セナ、私あんなおバカな筋肉達磨のお嫁さんになりたくないよ…」

 「セナ様、ジルバート様に負けるということは我々獣人達への待遇も今までと変わらないということになってしまいます」

 「二人とも大丈夫ですよ!なんてったってセナ様は歌姫の剣ですよ?アリアがらみでセナ様が負けるわけありませんよ!…だからセナ様ならってくれますよ!…肉片の1欠片も残さずにね…」

 「コニー…根に持ってるのね…」


 アリア、スカーレット、そしてコニーの言葉をきいて何かを考えているセナにヤオが声をかけた。

 「セナ様?さきほどから何をお考えになっておられるのですか?」

 「いや、皇子様はいままでどこにいたのかなと…」

 「そこっ!?今そこを気にしますか?」

 「いやもう一人の皇子様と皇姫様もどこにいるのかなとか、こういうのって一度気になると…つい」

 セナの言葉にコニーがツッコムとセナは申し訳なさそうに苦笑した。

 「第一皇子の彼は武者修行と称し帝国内を旅して歩いていたらしい、第二皇子は皇姫とともに神皇国にいるとなっているよ」

 「そうなんですか、ありがとうございます」

 アディオンの情報を聞きセナがどこかすっきりした顔をしながら礼をいった。

 「お前なぁ…んなことより今は目の前の戦いについて考えろよな」

 「ごめん」

 「おめぇらしいっちゃらしいが…集中しなきゃならねぇときはしっかり集中しねぇと守りてぇもんも守れなくなっちまうぞ?」

 「うん。わかった」

 エイケンが少し真剣な目つきでいうとセナは素直に謝罪をし決闘に意識を向けた。

 「それで、おめぇからみてあの馬鹿皇子の実力はどんなもんよ」

 「んー…正直に言うとスカーレットさんとエリスさんの間くらいかな?と思ったよ」

 「ふむ。いい線みているな」

 エイケンの問いにセナが答えるとサイは満足げにうなずいた。
 
 「あんなのにすら…私は勝てないのか…」

 「今はな」

 「サイ様」

 自身の実力不足に肩を落とすエリスにサイが肩を叩きいった。

 「サイさんに教えてもらうってことは拳で戦うスタイルにするんですか?」

 「いや、私が教えるのは基本だけだ剣はエイケンが教える」

 「はぁ?んなこと聞いてねぇぞ?」

 「当然だ、今言った」

 「んだよそれ、めんどくせぇよ」

 「エリスに剣を教えている間、私とスカーレットもお前の元でやっかいに」

 「任せろ!俺が一流の剣士に育ててやる!」
 
 「あ、ありがとうございます」

 「叔父さん…」

 セナの何気ない質問にサイが答えやる気を出したエイケンをセナは遠い目で見つめた。

 「セナ様そろそろお時間になられるかと」

 「ありがとうございます」

 ヤオの言葉にセナが礼を言い一行は闘技場へ移動した。

 「セナ殿いいな?圧倒的な実力差を見せつけ勝て」

 「リネアやジルネイ、そしてセナ君に逆らうことがどんなことかこの場にいるすべての人たちに知らしめなければこの国の根底を変えられない、その意味わかるね?」

 「はい。他種族への不当な扱いをやめさせるアピールですね?」

 「そういうこと!」

 「セナてめぇの立てた誓いは必ず守れよ?」

 「うん、わかってる」

 「セナ」

 「おう!んじゃいってこい!」

 「はい!」

 エイケンの言葉に一瞬アリアをみたあと信念を持った強い目でセナが頷くと、感激しうっとりとするアリアとともに全員が笑顔でセナを送り出した。

 「たかだか王国程度の英雄が私を待たせるとはいい度胸だな!」

 「すいません。今日着いたばかりでかってがよくわからなくて」

 闘技場へはいると中央で腕を組みイライラしていたジルバートが立っていた。

 「それではこれよりストラトス帝国第一皇子にして帝国英雄第一位ジルバートとリネア王国初代英雄セナの決闘を執り行う!」

 「おーーー!!!」

 「なお、帝国側が勝利した場合帝国の自由を、王国側が勝利した場合、帝国の無条件降伏とする!これは皇帝レオ=ストラトス並びに国王ゲオルグ=リネア並びにジルネイ共和国首相リレイの合意の元の決定とする」

 「それでは双方!力の限り戦え!」

 本来ならば動くこともままならないはずのレオが立ち上がり拡声鳥をつかい宣言するとドラがなり決闘が始まった。

 「いくぞ!さっさと死ね!」

 開始と同時に剣を抜きセナへと切りかかるジルバートの攻撃を刀を抜くことなくセナは躱し始めた。

 「くそっ!素直に切られろ!」

 すべての攻撃をかわすセナを苦々しい顔で睨みつけジルバートが渾身の突きをみまった。

 バシーン!

 「なっ!?」

 セナは突きに来た剣の腹を掌底で叩くと剣はジルバートの手を離れ闘技場を囲う壁まで飛ばされ壁に突き刺さった。

 「勝負ありだな」

 光景を見た会場のすべての人々はその圧倒的な実力差に息をのみ言葉を失ったのか闘技場は沈黙に包まれる中、サイが腕を組んだまま興味なさげに終わりをつげた。

 「こんなバカなことがあるか…悪夢を見ているのか…」

 「降参してください」

 「くっ!ふざけるな!!王国ごときに私が負けるなどあってはならんのだ!!」

 ドン!

 「やれ!」

 両手両膝を地面につきブツブツと言っているジルバートへ降参をすすめると、ジルバートは激高し空へ炎の球を撃ちだし会場じゅうに響くほどの声をあげた。

 「……?」

 「なぜだ!なぜ誰も動かん!どうなっておる!」

 闘技場がシーンと静まり返ったままであるとセナは困惑した顔をしジルバートは焦ったように立ち上がり会場中を見渡した。

 「忍ばせていた兵ならいないぜ?」

 「なんだとっ!?」

 「カイン?」

 盛大に焦るジルバートに会場から声が掛けられそれはカインのものだった。

 「不意打ちや会場の人々を人質にするための兵なら俺らがすべて拘束したといってるんだよ馬鹿皇子」

 「なんだと…貴様なにやつだ!」

 「俺か?俺はストラトス帝国英雄第二位で騎士団団長のカイン様だよ」

 「なんだと!貴様など私は知らんぞ!それに特別騎士団とはなんだ!そんなもの聞いたこともないぞ!」

 カインの言葉に激高したジルバートがズカズカと歩み寄っていった。

 「帝国の内情も知らねぇで遊び歩いてた馬鹿皇子が知るわけねぇだろ」

 「貴様ぁ…なんどもこの私を愚弄しよって!!」

 「団長!反乱分子の拘束並びに収監終了いたしました」

 「こちらもです」

 「おう!ごくろうさん」

 「なっ!?帝国と王国の兵がなぜ貴様に報告に来ている!?」

 カインを切ろうとしセナに飛ばされ壁に刺さった剣を必死に抜こうとしているジルバートがカインへ報告へ来た帝国兵とリネア兵をみて困惑した。

 「あぁ?だから特別騎士団だっていってんだろ?」

 「だからそれはなんなのだっ!?」

 「俺らはそれぞれの代表から選出されたリネア王国騎士団・ジルネイ共和国騎馬隊・ストラトス帝国騎士団・リネア王国聖アマリウス教神官騎士団の混合軍なんだよ」

 「なっ!?そんなもの……いつのまに」

 「へぇ…すごいね」

 「何感心してんだこの馬鹿が!詳しい話はあとださっさと終わらせろよ!この場の安全は俺たちが保証してやる」 
 困惑しショックを受けているジルバートと共に感心してカインをみていたセナへカインが呆れたように声をかけた。

 「あぁそうだね…無関係な人々まで巻き込むのが帝国の英雄のすることですか?」

 「うるさい!これは決闘だ!反則などない!勝てばいいのだ!勝てば!」

 「そうですか…」

 セナの問いにたいしてのジルバートの答えを聞いたセナが残念そうな顔をしながら刀を抜いた。

 「どのような手を使っても貴様を殺してしまえば私の勝ちなのだ!おとなしく死ね!」

 やっと壁から剣を引き抜いたジルバートが叫びながらセナへと切りかかった。

 「四門しもん

 「うおっ!?なんだこれは!」

 セナは刀を地面に突き刺し技の名前を唱えると闘技場の東西南北に2メートルほどの高さの門が地面からせりあがった。

 「なっ!?結界か!?」

 「はい。ですがそれはあなたの動きを止めるための結界ではないですよ」

 「なに!?どういう意味だ!?」

 「被害を外に出さないためのものです」

 困惑するジルバートに結界の外からセナが淡々と言った。

 「ありゃぁ前に出した門とはちがうのか?」

 「はい…あの門は羅生門と違い門のから呼び出すものでございます」

 「呼び出す?」

 エイケンの問いにヤオが顔色を少々悪くしながら答えた。

 「開け…地獄の門!」

 「なんだ!?何が始まるのだ!?」

 セナの言葉に従う様に4つの門が同時に徐々に開き始めると禍々しい瘴気のようなものが結界内にあふれでてきて、見ていた者達とジルバートが困惑を声にした。

 「おいおいおい…ありぁなんだ…」

 「四門は死門…東西南北にあるという地獄へつながる扉にございます…」

 光景を見たエイケンが驚きながらつぶやくとヤオが答えた。

 ガシャン!

 「なんだ!?なにかでてくるぞ!」

 「ガルルルルル」

 東の扉の中から鎖が地面にあたるような音が聞こえ門の向こう側から3つの頭を持つ真っ黒で巨大な犬がすべての頭と両前足だけ門からでてきた。

 「ケルベロス!」

 「おいっ!あっちからもっ!?ひぃぃぃぃ!!」

 東の門からでてきた者の名を目を見開き驚きながらアディオンがいう中、西の門からできたに闘技場全体から悲鳴の声があがった。

 「ア…ガガ…」

 「ゾンビだ!人だけじゃねぇ!いろんな生き物だったゾンビがわんさか湧いてきてるぞ!」

 「ひぃ!?寄るな!私を誰だと思っておるのだ!」

 門からぞろぞろと出てくるゾンビに向かい混乱しながら剣を無造作に振るいジルバートが必死に追い払おうとしていた。

 「南の門からも!……へ?」

 「綺麗……」

 南の門からは白銀に輝く髪と深紅に輝く瞳、漆黒と瞳と同じ深紅のドレスを身にまとった一人の美しい女性が現れた。

 「なっ!?貴様は鬼か!このような場所にあのような美しい女性をいれるなど!」

 「クスクス」

 門から出た女性をみつけたジルバートが一瞬目を奪われた後、女性にいいところを見せようとゾンビたちを切り伏せながら女性の元へと近寄っていった。

 「……露骨ですね」

 「うん…切るたびに鼻の穴をふくらませてチラチラみてどや顔きめるのは…キモいね…」

 コニーの言葉にアリアも頷いた。

 「大丈夫ですかな?お嬢さん。この場は私があなたをお守りいたしましょう!」

 「クスクス…ありがとうございます…金持ちの馬鹿は無駄に良い血をしているけど…」

 「馬鹿?血?何を言って…」

 「あなた気持ち悪いから血もいらないわ…」
 
 「牙!?貴様!吸血鬼かっ!」

 クスクスと笑っていた笑顔を消え冷たい目でジルバートを見つめた後ニヤリと笑うと女性の犬歯が異様に長く鋭いのを見てジルバートは驚きながら距離を取った。

 「貴様!卑怯だぞ!結界これを消して正々堂々かかってこい!」

 「クスクスクス…勝てばよろしいのでしょう?先ほどあなた様がおっしゃられたことでございますわ」

 「うるさいっ!化け物が私に話しかけるなっ!」

 激高しながら結界の外にいるセナへ言葉を投げつけるジルバートを呆れたように失笑しながら吸血鬼言うと、今度は吸血鬼に激高した。

 「あなた様のような方をわざわざセナ様がお相手する必要はございませんわ、あなた様は我が王に裁かれるべきですわ」

 「王だと!?」

 「おこしになられましたわ」

 吸血鬼が膝をつき北の門へと頭をさげた時、北の門が激しくきしみ揺れると門の中から巨大な豪華な指輪をいくつもつけ、真っ赤なマントをまとい王冠を付けた巨大な骸骨があらわれた。
 

 「なんだ!あれは!!!」

 会場中も恐怖と驚きで声を失い静まり返る中、ジルバートが腰を抜かし地面にしりもちをつきながら骸骨をみあげ驚きを叫んだ。

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