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第5章 ストラトス帝国編

逆鱗

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 不敵に笑うカインに剣をはじかれたガフトが深くかぶっていた兜を脱ぎ捨て睨みつけた。

 「せめて王か歌姫を討とうと思ったが…昔から貴様どこまでも俺の邪魔をする!」

 「昔から?俺はお前のことなんか知らないぜ?って…んなことより…セナ!おめぇはさっさとブレイダー領へ向かえ!」

 剣をガフトに向けながらカインが不思議そうに答えたあと、セナへと檄をとばした。

 「え?でも…」

 「うっせぇ!こっちにはナンバーズが4人と俺がいるんだ!問題ねぇ!」

 戸惑うセナへカインがさらに言葉を激しめにかけた。

 「うむ、セナ殿!向かってくれ!」

 「そうね…ここまできたら もう大丈夫ですから、リネアへ」

 ゲオルグとリレイが頷きカインの言葉に同意した。

 「わかりました…タオさんとヤオさんはこのまま…こちらに残ってその人の拘束を」

 「その必要ないよ?」

 「え?」

 セナが納得しヤオとタオへアドルフの拘束のため残るように言うとアディオンが割って入った。

 「どういうことですか?アディオンさん?」

 「ボクは呪術は使えないけど原理はから大丈夫って言ったんだよ?」

 「え?」

 「なんと…しかし!原理がわかったとはいえ」

 「あぁ…ヤオ?タオ?アディオンがといったのよ?…わかるでしょ?」

 「ふふふっ。そういうこと!方法は違うけど効果が同じ方法があるから大丈夫だよ」

 「すごいですね…アディオンさん…」

 「惚れたかい?」

 「いえ、それはないですけど…尊敬はしてます」

 「ぶー!まぁいいやっ!とりあえずそういうことだから君たちはチャッチャとリネアに向かってくれるかい?」

 驚くヤオとタオ、呆れたように言ったリレイをよそにアディオンはいつもどおりにセナへと手を振り言った。

 「はぁ~ちんちくりんなくせにすげぇな…やっぱナンバーズは伊達じゃねぇわ」

 「くー!貴様ら俺を無視しやがって!どこまでも!どこまでも!頭にくる奴らだぜ!!」

 やり取りをチラチラとみていたカインが感心したようにいうと、ガフトは自身がいないもののように扱われることに怒りを爆発させた。

 「ん?あぁそうだった!俺はお前のことなんかしらねぇぜ?」

 「あぁそうだろうよ!元ストラトス帝国英雄筆頭候補様は俺のことなんか知るわけがねぇ!」

 「え?カインさんって英雄候補だったんですか?」

 「ちっ!昔のことだ…」

 ガフトの言葉にコニーが驚きの声を上げ、カインは苦々しい顔でそれを認めた。

 「しかし…なぜそのような方が?セナ様の実力を知りたいだけってことはないですよね?」

 「ちっ!てめぇいらねぇことを言いやがって…」

 エリスの疑問にカインはガフトを恨めしそうに睨みつけた。

 「はっ!教えてやるぜ!」

 「え?」

 「こいつは逃げたんだよ!!たかだか女一人の命でなっ!」

 「てんめぇ…!いらねぇことをベラベラと…!」

 「ホントだろうがっ!孤児の癖に調子に乗って目立ちすぎたからだ!馬鹿がっ!」

 ガフトが苦しそうな顔をしているカインに勝ち誇ったような顔をし言った。

 「てめぇ…!」

 「そもそも栄えある帝国騎士団にてめぇみてぇな孤児あがりが入ったこと自体間違いなんだよ!」

 「帝国は実力主義のはずじゃなかったの?」

 「うるせぇ!獣の国の人間が俺にはなしかけんじゃねぇ!」

 「なにっ!?」

 ガフトの言葉にリレイが反応を示すとガフトは汚らしいとまで侮辱し、ゲオルグが激高するように腰の剣を抜いた。

 「はっ!名高きリネア国王様は丸腰の人間をきるわきゃねぇわな!」

 「言わせておけば!」

 「陛下!こいつは!こいつだけは俺にやらせてください!」

 激高するゲオルグにカインが言葉強めに願い出て、ゲオルグは苦々しい表情を浮かべたまま剣を収めた。

 「はっ!冒険者風情にまで落ちてもまだ獣人の味方をするかよ!馬鹿がっ!」

 「もういい…てめぇはしゃべるな…」

 「いいや!いうね!てめぇの女!あのシスターもてめぇが必死に隠してたが、調べたら獣人だったとすぐにばれたぜ!」

 「…あ゛?」

 「はっはっは!どうせ俺はここまでだ!全部おしえてやるぜ! あの孤児院の獣人シスターはよ!ガキたちを守るために体をはってくれたぜ?獣くせぇようだったが…日頃激務をこなしてた下っ端たちの役にはたったようだったぜ?ぐっへっへっへっへっへ!」
 
 「なっ!…てめぇ…まさか…」

 「ひどい…」

 「ひどい?何がだ?栄光ある騎士団の役になったんだ!栄誉なことだろう?…まぁ耐え切れずてめぇの名を呼んで自害しちまったがな!がっはっはっはっは!」

 「エルーシカ…」

 下衆な笑いを浮かべいうガフトにマインが口をおさえ言葉をもらすとガフトは両手を広げ天を仰ぐようにいい豪快に笑いカインはショックを受けたように剣をさげた。

 「あとてめぇを裏切ったあの神官騎士!名前はなんだったか忘れたが!あいつは孤児院が襲われる少し前まであそこで育ってたヤツでよ!」

 「マリウスがっ!?」

 「神皇国の孤児院のについて話してやったら手を貸してくれたぜ?がっはっはっはっは!」

 「なんと下衆な…」

 「まぁ!そのあとと教えてやったらよぉ?あいつビービー泣きながらシスター!団長すいません、すいませんって言いながら最後にゃぁ、てめぇの剣でてめぇの首を刺して死んだぜ?あーっはっはっはっはっは!もう孤児院なんて残ってねぇのによぉ!!…はぁはぁ…これも!全部てめぇが調子にのったせいだ!馬鹿がっ!あーっはっはっはっは!」

 ブチッ! 

 「な…なに?…体が急に震え…汗がとまらな…い」

 「くっ!なんだ…急に…」

 ガフトの高笑いを遮るように何かが切れる音が聞こえ、それと同時にその場にいた全員の身体が小刻みに震えだしなぜか冷や汗のような汗が噴き出しメディーとエリスが困惑の言葉を発した。

 「セ…セナ様…どうか!落ち着いてくだされ!」

 「セナのせいなの…ひぃっ!?」

 原因がセナであるとヤオがセナをなだめようとし、アリアがセナをみると短い悲鳴をあげしりもちをついた。

 「どういうこと…?」

 「ダメだ!セナ君がキレたみたいだ!」

 かろうじて震えを押さえ汗だけ噴き出していたリレイとアディオンが言葉を発した。

 「これは…明確な死を生き物としての本能が察しておこしてしまう…反応ですわ…」

 「ただただ…死をかんじること…もはや…恐怖などはマヒしてしまうほどの純粋な死を皆さまは感じておりますゆえ…せめてお気だけはたしかに…」

 同じように汗をふきだし耐える様にタオとヤオが伝えた。

 「ひぃ!…!」

 殺気を直に当てられたガフトがガタガタと青いかでしりもちをつき大量の汗とよだれ、そして涙を流していた。

 「セナ!こいつの相手は俺だってっつってんだろうがっ!」

 その時、カインがセナを見つめながら怒鳴り散らした。

 「ごめん…でも…」

 「でももへったくれもねぇ!何度も言わせんな!てめぇはてめぇの敵を討て!」

 「っ!…わかった…グラニール!」

 カインの言葉で我を取り戻したセナがグラニールを呼ぶと会場が影へと包まれた。

 「お…収まった…」

 グラニールが会場の上空を旋回するなか、カインと迅風に乗っていたゲオルグ以外の全員がしりもちをつき、安堵の息を吐いた、なおアレストラは気絶していてゲオルグが必死に支えていた。

 「はぁはぁはぁ…馬鹿が!」

 「なに!?」

 ドン!
 
 カインがセナの方をむいている隙をつき、ガフトがカインへ体当たりをしカインの剣を奪った。

 「てめぇだけでもってやる!」

 「ガフトてめぇ!」

 「しねぇしねぇ!!」

 「カインっ!」

 キン!

 ザシュっ!

 ガフトが奪った剣を振りかざした時、エリスが自身の剣をカインへ投げつけ受け取ったカインは間一髪のタイミングでガフトの剣を弾き飛ばし、胴を切りつけた。

 「ぐっふっ!…ぢぐしょ…」

 胴を切られ口から盛大に吐血をしながら血走った目でカインを睨みつけながらガフトが倒れ息絶えた。

 「エルーシカ…皆…マリウス…くっ!」

 自身の足元に食らいつくように倒れたガフトの前でカインは空を見上げ苦しそうにつぶやいた。

 「カイン…」

 「…さぁ!ここは俺たちに任せろ!次はてめぇの番だ!いそげセナ!」

 かける言葉が見つからずただただセナが名を呼ぶと、カインは笑顔を浮かべセナに話しかけた。

 「てめぇは守らなきゃならねぇものをしっかり守れよ!」

 「うん!」

 カインの力のこもった涙がながれる目を見ながらセナが力強くうなずいた。
 

  

 

 

 

 
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