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第4章 小話

歌姫の旅④

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 アリアたちが帝国へ旅を始めて2か月少々たちもうすぐ帝国との国境へたどり着くというところまで来ていた。

 「もうすぐランスロット領ですね」

 「恐ろしいほど順調な旅ですね」

 次の目的地が近いことを何故か敬語でいうマインに、頷きながら今までの旅を思い返しコニーが答えた。

 「パラドイネ領ももうすぐ終わりだな…随分手厚い歓迎を受けたな」

 「うん…最初はびっくりしたよ」

 エリスがいうとアリアも寄る領すべてで厚遇をうけたことを思い出した。

 「まぁ、東と南は王派だしなぁ…最近は学校設立でさらに強力に手を結んでるらしいしな」

 退屈そうにカインが答えた。

 「私は西にいったことがあるんで、その時の感じからして良くて教会に泊まらせてもらえればと思ってたんだけど」

 アリアが西へ旅したことを思い出し、今回との境遇の差にしみじみ話した。

 アリア一行がリストニアをでて最初に目指したパラドイネ領へ着き、街に入るための検問所で歌姫一行だとわかると歓迎をうけた。
 内容は、まず宿泊場所が最高級の宿で、街にいる騎士団が交代で警護をし、王都の騎士団にも詰め所を開放し旅の疲れをとるように言ってきた。
 神官騎士団も宿泊場所の近くにある教会に交代で休みにいけた。
 そして街の代表から旅を続けるのに必要な消耗品を提供され、次の町まで騎士団が荷物の牽引も引き受けてくれた。
 彼らは土地勘があり、旅がスムーズに進んだ。

 そして領の中心地、その名もパラドールという街についたときは領主代行がわざわざ会いに来る歓迎ぶりで、街も歌姫がきたことを歓迎していた。

 「カイン隊長!ランスロット領に到着します!」

 「はぁ~…だから俺は隊長じゃ…まぁいい…手続きをしてくれ」

 「はっ!」

 リーが馬車の横に並びカインが馬車の窓をあけると次のランスロット領が見えたと報告してきた。
そして、この2か月の間に各騎士団のメンバーにカインは隊長と呼ばれるようになっていた。
 理由は、道中の休憩中や、街の宿で、カインは自身が持つ旅や護衛の知識や技術を彼らに惜しみもなく教えたことと実戦で磨かれた戦い方なども暇を見て教えたためである。

 「ふふっ…すっかり慕われてますね」

 「至れり尽くせりの旅で暇だっただけだ」

 エリスの言葉にカインが照れ隠しをするかのようにぶっきらぼうに答えた。

 「歌姫様御一行ですね?どうぞお通りください!ランスロット領へようこそ歓迎いたします!」

 王国騎士団のリーが手続きをすることによりスムーズに検問を抜けることができた。

 「それではカイン隊長、我らは戻ります」

 「あ?今からでたら中途半端な時間に野宿になるだろうが、一泊休んでからにしろ」

 「いや、しかし…まだ昼になったばかりですし…」

 「夜までの時間を消耗品の補充にあて、疲れを少しでもとって、できる限り万全な状態で旅をしなくてはなりませんよ?」

 「はい!ありがとうございます!エリス副隊長!」

 「いや…それは本当にやめてください…」

 ここまでの旅で、ぶっきらぼうで言葉が足りないカインをエリスがフォローしていたため、副隊長と呼ばれるようになっていた。

 「くっふっふっふ…いいコンビだよね…カインさんとエリス」

 「うん…たまに夫婦なんじゃないかと…錯覚するほど自然な息の合い方だよ…」

 「これは…セナ様へのライバルが一人減ったと思っても?」

 その場を見ていたマインが笑いをこらえながらいうと、アリアも同意し、コニーに至ってはライバルが減ったと黒い笑いを浮かべていた。

 「あんたたちもいい加減にしなさい」

 「いたっ!なんで私だけ!?」

 「あくどい顔をしてたから?」

 「ひどっ!」

 そこにエリスがコニーの頭に手刀をおとした。

 「では、これより私たちが本日の宿泊場所へとご案内いたします!」

 案の定、パラドイネ領と同じようにランスロット領の騎士も街を先導し案内してくれることになった。

 その後、昼食をいただき、教会と冒険者ギルドへ旅の無事を報告し街1番の宿に泊まった。
 
 それから1か月ほどをかけランスロット領を横断し帝国との国境の街へとたどり着いた。

 「あ~、なんだ…とりあえず明日、帝国に入る…明日からが本番だと思え」

 「はっ!」

 「ふぅ~…皆さんお疲れさまでした。ここまではパラドイネ、ランスロットの両領のおかげで、消耗も最小限に無事にたどりつきました。明日からは一層気をひきしめなければなりません。今日は各自明日からの準備をしゆっくり休みましょう」

 「はい!」

 宿屋の前でカインが頭をかきながら適当に話したあと、ため息交じりにエリスが補足をした。

 「それでは本日は我らが警護にあたりますゆえ、皆さんゆっくりお休みください」

 「ありがとうございます」

 騎士の一人が挨拶をするとアリアが礼をした。

 その後、各自割り当てられた部屋へと向かったが…

 「あの…すいません…私の部屋は…?」

 一番広い部屋にアリア、マイン、コニーを案内した従業員に案内をされなかったエリスが尋ねた。

 「はい?旦那様とご一緒でと伺ったのでダブルの部屋をご用意しておりますが?」

 「なっ!?誰が?…あの夫婦ではないので…できれば…私も先ほどの部屋に…」

 従業員の言葉にエリスが驚いた後、ショックを受けたようにうなだれながら言った。

 「失礼しました…ごゆっくりお休みください…」

 従業員が気まずそうに礼をし退室した。

 「あれ?エリス婦人?旦那様のところにはいかなくてよかったの?ぷふっ!」

 「コニー…あなたの仕業ね?…」

 「手刀のおかえしじゃ!」

 疲れたように部屋にはいってきたエリスをみて、笑いをこらえながらコニーが話しかけた。

 「はぁ~」

 「どうしたのアリア?疲れた?」

 エリスとコニーのやり取りを楽し気にみていたアリアがため息をつくと、マインが心配したように声をかけた。

 「ん?ちがうの…不謹慎だけど…楽しいなぁと思って」

 「そう…」

 アリアの答えを聞き、マインが優しい笑顔を浮かべた。

 「今回の報酬ってたんまりもらえるの?」

 「えぇ、王からの指名依頼だから破格の値段ね」

 「それがどうしたの?」

 日頃、金の管理などを行うマインへコニーが尋ねた、エリスが質問の意とが読めず尋ねた。

 「ねぇアリア?王都に戻って、たんまり報酬もらったら私たちとどこかに遊びに行こうよ!」

 「えっ!?い、いいの?」

 「いいアイデアね」

 「そうね」

 コニーの思わぬ提案に3人の顔を見ながらアリアが尋ねると、3人は笑顔で頷いた。

 「どこがいいかなぁ~」

 「まだ寒いから温暖な南の方がいいかもしれないわね」

 「うん、ブレイダー領内なら比較的安全かもしれないわね」

 コニーが行き先を思案すると、マインが南行きを提案しエリスがそれに同意した。

 「ブレイダー領の中心マルンがいいね!」

 「うん!ブレイダー領ならおじい様も許してくれると思う!」

 コニーがマインとエリスに同意すると、アリアが嬉しそうに言った。

 アリア達が部屋で楽しそうに会話を弾ませている中、カインは一人部屋にて明日からの準備をしていた。

 「はぁ~…まさかこんな形で帝国に戻ることになるとはなぁ…」

 自身の愛用する剣を磨きながらため息交じりにカインがつぶやいた。

 「ん?」

 カツンカツン

 「失礼します」

 カインが何者かの気配に気づき剣を構え窓をみると、黒づくめの男が窓から室内へ入り膝をついた。

 「隠密か…この宿屋の防犯もたいしたことねぇなぁ…」

 鍵をかけたはずの窓を外から開けられ入室までゆるした宿のセキュリティーを頭をかきながらカインがダメ出しした。

 「ぶしつけな訪問失礼いたします」

 「あぁ、それで?何かあったか?」

 「はい」

 いまだ膝をつき頭をさげたままいう隠密にカインが表情を引き締め尋ねると、隠密は姿勢をかえず返事を返した。

 「ほぅ?教えてもらえるか?」

 「はい。帝国へ先行していた者4名のうち3名がやられました」

 「…ふむ…それで?」

 カインが尋ねると隠密は淡々と自身の仲間が帝国側に捕まったもしくは、殺されたことを伝えた。

 「はい。戻ってきた者もケガが酷い状態でしたが、情報を少々もってきたため報告にあがりました」

 「そうか…もどってきた奴は?」

 「…死にました」

 「ちっ!…そうか」

 隠密が尋ねてきた理由をきき、情報を持ってきたものが死んだことに、カインは悔しそうな顔をした。

 「はい。情報では現在、皇帝は病床につき実務は宰相が執り行っていると事前に入手していたので、裏を取ろうと思ったのですが…」

 「ダメだったのか?」

 「残念ながら…」

 「そうか」

 「ただ…おかしいのです…」

 「なにがだ?」

 隠密の話にカインが尋ねた。

 「はい…皇帝レオを探せませんでした…」

 「なに?」

 「皇帝の私室には番が2名いるのみ…部屋に侵入してみたところ、もぬけの殻であり先ほどの4名が命をかけ散策したものの城内に姿を探すことできませんでした」

 「どういうことだ…?」

 「わかりません…」

 「そうか…深く潜入してくれたんだな?…」

 「!?…はい…」

 「わかった…すまんな…」

 「いえ…それと…歌姫様を出迎える一行に帝国の英雄が含まれているそうです…お気をつけて…」

 「ちっ!厄介なことだな…わかった…すまん助かった」

 「いえ…それではお気を付けください」

 隠密は最後まで頭をあげることなく話をし去っていった。

 そして、夜が明け朝食時にエリスとリー、マリウスにカインは昨日の情報をつたえた。

 「よし!野郎ども!こっからさきは他国だ…気を抜くなよ!?」

 「はっ!」

 リネア側の国境でカインが皆に声をかけ、騎士団、神官騎士たちが気を引き締めた表情をうかべ返事をした。

 「どうぞお気をつけて!」

 国境を守るランスロット領の騎士が敬礼をし一行を見送った。

 そして歌姫一行はリネア王国を後にしストラトス帝国へと入国をした。

 

 


 
 


 


 




 
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