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第4章 ジルネイ編

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 ラミネスの言葉にその場が静まり返った。

 「……到底信じられませぬ……そのようなことなど……」

 静寂を破るかのようにヤオが苦渋の表情で絞り出すかのように言った。

 「でもラミネスがそういうのよ?」

 「そんなことがあるのであればっ!我らの今までの人生は何だったというのですかっ!!」

 エイシャの言葉に、タオが今までに見せたことがないほどの激昂を見せた。

 「あの…どういうことなんでしょうか?僕に眠る力って何か問題でもあったんですか?」

 「っ!?」

 「セナ様……そ…それは……」

 気まずい雰囲気の中、発したセナの言葉でエイシャは驚き声を失い、タオが目線を地に伏せ言葉を濁した。

 『セナちゃん…先ほども言ったように龍気と燐気は相反する力で、本来1人の人間が両方を併せ持つことなどないの』

 「え?でも、じゃぁ僕は?」

 ラミネスの言葉にセナは戸惑いをみせ言葉をつづけることができなかった。

 「まだ燐気と決まったわけじゃないし…とりあえず先に龍…」

 「エイシャ様!!燐気かどうか、試させていただきたい!」

 沈黙に耐え切れずエイシャが打開案を口にしたが、ヤオが割って入るかのように遮り言った。

 「ヤオ…あなた…」

 「お願いいたします!……おねがい…いたします」

 困ったような顔をしたエイシャに、ヤオは泣きそうな顔で懇願した。

 「セナちゃん…お願いできるかしら?」

 「…はい。わかりました」

 「姫!セナ様!ありがとうございます!」

 根負けしたのかため息交じりにエイシャが尋ねると、セナはヤオを見つめた後、ヤオがあまりにも追い詰められたような顔をしていたため、覚悟を決め了承すると、ヤオはめずらしく嬉しそうな顔をして声をあげ礼をした。

 「ここでは無理だから修練場へ向かうわ、ラミあとでまた来るわ」

 『えぇ』

 エイシャがラミネスにそう言いながら外へ向かって歩き出したのでタオとヤオ、そしてセナはらみラミネスに一礼してエイシャの後へ続いた。

 「着いたわね」

 「それで、僕はなにをしたらいいのかな?」

 髙く頑丈な壁のようなもので囲われた、広い円形の広場のような場所に着くと足を止め言ったエイシャの言葉に、
セナはキョロキョロとあたりを見渡しながら不安げに言った。

 「ヤオの指示に従ってもらえるかしら?」

 「わかりました」

 「ありがとうございます。セナ様こちらに」

 エイシャの言葉にうなずいたセナにヤオが近づき声をかけた。

 「これよりセナ様の中に眠るもう一つの力が燐気なのか…調べさせていただきます」

 「わかりました…お願いします」

 ヤオの言葉にセナは覚悟を決めたような顔をしてうなずいた。

 「それでは我が手を握ってくだされ」

 「わかりました」

 ヤオが差し出した両手をセナは両手で手を握った。

 「ご安心くだされ。無茶は致しませぬ。ただこれより我が右手より燐気を流し、左手からその力を抜いてセナ様と私の身体を循環させるだけでございます」

 「体を循環…ですか?」

 「はい。それでは…はじめますゆえ、力を抜き目を閉じ心を静め呼吸を整えてくだされ」

 「…はい」

 ヤオの言葉に従いセナは目を閉じ呼吸を整えた。

 「では…」

 「んっ!?」

 ヤオは言葉を発すると同時に白く光り輝く燐気をセナへと流し込んだ。セナは燐気が流れてくる違和感に驚き少し顔をゆがめ驚いた。

 「セナ様、魔力を巡らせるようにゆっくり心の臓からその力が全身にいきわたり、右手から抜けていくようなイメージを…」

 「はい…こうですか?」

 セナは言われたとおりに燐気が血管をとおり全身をめぐり右手から抜けていくイメージをできるだけ詳細にした。

 「さすがでございます…だんだんと流れを早くしていきますよ?」

 「…はい」

 言葉のとおり、二人を循環する燐気の流れがどんどんと早くなっていった。

 「そろそろか…セナ様?このまま腹の下あたりに力を一度、一気にため込んでくだされ!」

 「やってみます…ふん!」

 ヤオの言葉にセナはサイの元で行っていた修行のように丹田あたりにヤオの燐気を一気にためた。

 「くっ!?…うぐぐぐぐぅ!」

 「まだです!セナ様!がんばってくだされ!!」

 燐気をため込んだセナは自身の身体が丹田を中心に内側からはじけそうになるような感覚を覚え、必死にそれを抑え込もうとしていた。また、ヤオは心配そうな顔をしているがより多い燐気をセナへと流し込んだ。

 「セナちゃん!大丈夫!?」

 「姫…申し訳ありませんが…ここはヤオを信じて見守ってください」

 ヤオが何をしようとしているか知っているはずのエイシャだったが、苦しむセナに耐え切れなかったのか、セナの元へ駆け寄ろうとし、タオに引き留められた。

 「ごめん…取り乱したわ…」

 「いえ…申し訳ございません」

 我に返ったエイシャはバツの悪そうな顔で謝罪した。
 
 「セナ様!我が燐気をセナ様の中に眠る力にぶつけてくだされ!」

 「くぅ!…やっやってみま…す!」

 全身がはじけ飛びそうな痛みに耐えながらセナは必死に修行でかすかに感じることができるようになった自身の眠る力に、圧縮した燐気をイメージしイメージが固まると同時に実行してみた。

 「ぐっ!?がっ!がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 バーーーン!!!

 「きゃっ!?」

 「姫!?」


 セナが実行した瞬間まばゆい光に包まれたと思ったら周囲を吹き飛ばす爆発のようなものを引き起こし、エイシャが驚きタオがかばうように前に立った。

 ドーーーーン!

 「ぐふっ…」

 近くで衝撃をうけたヤオは修練場を覆う壁に吹き飛ばされ激突した。

 「ヤオ!」

 爆発により巻き起こった砂煙が収まりはじめると、エイシャとタオはヤオの元へと駆け寄った。

 「ぐふっ…私は大丈夫です…それよりセナ様は…?」

 ヤオの言葉に二人はセナの方を見やると、収まった砂煙の中心に人影がみえた。

 「大丈夫みた…!?」

 「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 エイシャが安心したように言うと遮るようにセナが、けたたましく叫び声をあげた


 「これはっ!?」

 「セナ様!いけません!!飲み込まれてはいけません!!」

 セナの様子にタオが焦りの表情をうかべるとヤオは痛む体を無視するかのように勢いよく立ち上がり、セナへと叫んだ。

 「急すぎたのよっ!」

 「…すまん…」

 「今はそんなことより!」

 攻めるようにいうタオに、申し訳なさそうに謝るヤオだったが、龍気をたちのぼらせてエイシャが二人に言った。

 「そうね!止めるわよ!ヤオ!」

 「くっ!わかっている!」

 「来るわよ!動きだけ止めて!」

 タオがヤオに手を差し伸べ起こし上げ、エイシャが二人に指示を飛ばした。

 「グルルルルルルゥ…がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ドン!


 喉を鳴らしセナが雄たけびを上げ飛び上がると再び砂ぼこりが巻き上がった。

 「おらよっ!」

 ドン!

 「修行が足らんぞ?セナ殿」

 ドン!

 バーーン!!

 エイシャたちに飛びかかろうしたセナが、横から飛び出した火の塊ようなエイケンに地面に向かって叩き落され、地面にぶつかりそうになったところに音もなく瞬足で踏み込んできたサイの突きをくらい身体をくの字に曲げ壁へと吹っ飛び激突した。

 「なっ!?」
 
 「エイケン殿!サイ殿まで!なぜここに!?」

 「まぁまぁ~。落ち着きなよ。あれだけ激しい燐気をだしてれば嫌でも気づくし、エイシャの龍気まであふれ出るとね?」

 「……」

 「結界も張らずにやってりゃぁ馬鹿でも気づくってもんだ」

 
 ヤオが焦りながらとうと、アディオンがいたずらが成功した子供のように笑いながらいい、左肩を右手で抑え首をコキコキならしながら、エイケンがあきれたように言った。

 「エイケン殿…すまぬ」

 「無理やり目覚めさせたようだな。どうした?らしくもない」

 「すまぬ」

 ヤオがエイケンに謝罪をすると、エイケンはあきれたような笑いを浮かべ疑問を返すと、ヤオは申し訳なさそうに顔をそむけ謝った。

 「エイケン!サイ!やりすぎよ!」

 「いや…そうでもない…チッ!」

 エイシャが二人にいうと、サイが吹き飛ばされたセナの方をみながらつぶやき舌打ちをした。

 ガラガラガラガラ…

 「ぐぅるるるるる…」

 壁を壊すほど激突したセナだったが、何事もなかったかのように、がれきを押しのけ立ち上がり威嚇するかのような声をあげた。

 「チッ!やっぱ効いてねぇかぁ」

 「ボクらの修行の成果だね!」

 「うむ。しかし今回はそれがアダになっているようだ」

 立ち上がったセナを見ながらエイケンがめんどくさそうにつぶやき、いつのまにかエイケンの隣にきていたアディオンがどこか誇らしげにいうと、サイは同意しうなずいた。

 「なっ!あれほどの攻撃をうけ…なんともないというの?」

 何事もなく無傷で立ち上がったセナを見て、タオが驚愕の表情を浮かべ言った。

 「タオ!ボケっとすんな!こっからだっ!」

 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 バン!!


 驚いているタオに目線もむけずエイケンがいうと同時にセナが一際けたたましく吠えると、セナの燐気が一際大きくなり爆発したようにはじけた。

 「完全に鬼人化したようだね…」

 「あぁ…しかし…あの角は…」

 セナの周囲が収まりあらわになった姿をみたアディオンがめずらしく表情を引き締めいうと、サイも動揺したように答えた。

 「白金と漆黒の角…」

 セナの額上部に新たにできた2本の角をみてヤオが小刻みに震えながらつぶやいた。

 「おい!ヤオ!俺は白い角なんてみたことねぇぞ!?」

 「…私も初めてです…そもそも2本というのも色が違うというのも…この目で見ても…にわかには…」

 エイケンの叫ぶような問いにヤオが動揺を隠せず答えた。

 「エイケン、どうやら出し惜しみしている場合ではなさそうだ」

 「わーってるよ!」

 左手首を押さえながら獣気をたぎらせて静かにかつ獰猛な目でいうサイに、エイケンは怒鳴るように答え、燃えるような真っ赤な燐気を放ち額には大きな赤い角が1本できていた。

 「死なせないでね!気絶だけでいいからね!」

 アディオンが魔力を体中からあふれさせながらエイケンとサイにいった。

 「手荒なことはさせたくないけど…しかたないわね…みんなよろしくね」

 エイシャが金色に輝く龍気を立ち上げながら言った。

 「わかった」

 「おぅ!」

 
 エイシャの言葉に力強く答えたエイケンとサイが、鬼人化したセナへ飛び込んでいった。

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