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16話

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 あれから月日は少し流れ夏のとある日

 「ハンス様、お誕生日並びにおめでとうございます」

 「ああ、セイありがとう。今日の出席もほんとうにうれしく思うよ」

 「いえ、そんな…」

 今回も今回とて、俺は秋には学園に入学するハンスの15歳の誕生日と婚約パーティーに招待されて公爵家へと来ていた。

 「よく言いますわ!1週間も泊まり込みで本日の準備をさせておいて!セイが体を壊してしまったらどうするおつもりでしたのっ!」

 「アンジェリーナちゃんごめんなさいね?セイジュ君も本当にありがとう!素敵なパーティーになりそうだわ」

 「アメリア様がお気にやむ必要などこれっぽっちもありませんわっ!すべてお兄様が悪いんですから!」

 「お二人に少しでも喜んでいただけて僕は本当にうれしいです」

 「うふふふっ、ありがとうございますセイちゃん」

 「え?い、いえ」

 「アメリア様!?」

 眉を下げ心底申し訳なさそうにしているハンスの婚約者、隣国の第3王女アメリアがアンジェリーナとセイジュに感謝を述べたのはいいが最後にいたずらっ子のように微笑みながら親しみを込めて俺を呼ぶとアンジェリーナが驚愕の表情を浮かべていた。

 「私もいづれホルマトロ公爵家の人間になるんですもの、公爵家の皆様が親しくしている方なら私だって親しくしなくてはと思って…だめだったかしら?」

 「そんな風に言われてしまっては何も言えませんわっ!」

 「アンジェ諦めてくれるかい?彼女はここにきてから本当に生き生き楽しそうにしているんだ…」

 「それはそうですわっ!こちらにお世話になって早5日!見てくださいまし!このツルツルの肌!ふわツヤな髪!食事も毎食ふわふわと柔らかな食したこともないパンや見たこともないお菓子!庭に出ればみたことのない美しいお花たち!すべてが夢のようで素敵な日々なんですもの!」

 「あはははっ!それはセイに親しみをこめてもしかたないね!」

 「ハスク様にこと本当に感謝しておりますわ!それにセイちゃんは正真正銘の大天才です!」

 「選ぶなんて人聞きの悪い、たかだか公爵の人間が一国の王女を選べるはずないじゃないか」

 「よくいいますわ…ほんと食えない方ね」

 「まぁセイとの縁を作ってくれたアンジェには感謝しかないね」

 「そうね!アンジェちゃん素敵なナイト様を見つけになられてうらやましい限りだわ!」

 「もう!アメリア様まで私をおからかいになられて!!」

 「あの…申し訳ありませんが…僕は最後の料理の仕上げを手伝ってきたいのですがよろしいでしょうか?」

 「え?もうすでに料理のすべては会場に運ばれていたと思うけどまだあるのかい?」

 「はい、今日のためにアンドレ料理長にお願いして一緒につくった新作なんですが…」

 「そうか、わざわざ作ってくれて感謝するよ」

 「セイちゃん!私こころから楽しみにしておりますわ!」

 「気に入っていただけるといいのですが…で、ではこれで失礼させていただきます」

 俺は地団太をふむアンジェリーナをよそに一礼しそのまま急いで厨房へと向かった。

 「どんなものなのかしらね」

 「んー、わからないが一つ言えるのは…」

 「なに?」

 「彼がやる気をだしたとき、たいがいとんでもない物をつくるってことだけだね」

 「ふん!お兄様なんて、セイの作ったものがすごすぎて本番で腰を抜かしてしまえばいいのですわ!」

 「くっくっく、そうならないように気を付けるよアンジェ」

 ぷんすかと怒るアンジェリーナに苦笑したハンスが楽しそうに答えた。

====================================

 「はぁ~…素敵な時間でしたわぁ~」

 「そうだね、皆からの祝福はやはりうれしい限りだね」

 「ええ、ほんとうにこちらに来られて私しあわせだわ!」

 「あぶなくアンジェの言う通り入場とともに腰を抜かしそうになったしね」

 「ふふっ、そうですわね!」

 パーティーが終わりハスクの部屋に興奮冷めやらぬまま訪ねてきたアメリアが満面の笑みで喜んだ。

 「あなたお疲れさまでした」

 「カリーナもな」

 「それにしてもすごかったですわねぇ…素敵でしたわぁ」

 カリーナは会場のど真ん中に置かれた巨大なウェディングケーキのようなタワー型のケーキや今日のために作った様々な料理を思い出しうっとりしながら思い出していた。

 「油断していたが久しぶりにセイの本分を垣間見た気がしておるよ」

 「ふふふっ、ハンスのためなら頑張らせてもらうと珍しくやる気に満ちた目をしておりましたものね」

 「ああ…まさかアンドレとあのようなものまで作っておったとはな」

 「お越しいただいた方々のあのびっくりしたお顔、楽しかったですわね!」

 「ふふっ、セイの作った料理を一口食すたびに驚いておったからな」

 素直に喜ぶカリーナとは違いハスクは自身の力を誇示できたことに満足げにしていた。

 「セイには褒美をやらねばならんな」

 「今までも渡そうとするたびに死にそうな顔で必死に拒むんですもの…無理強いはなさらず違う方法もお考え下さいませね?」

 「ふっ、そうだな」

 今までも褒美をなんども手渡そうとしたが汗をかき真っ青な顔で必死にあれこれと断りの言葉を考えるセイジュの顔を思い出しハスクは苦笑した。

 ===============================

 「セルジュ、セイは大丈夫ですの?」

 「はい、お疲れになられ眠られていらっしゃるだけのようでございます」

 「そう…よかったですわ」

 「どのようにおすごい方だとしても体力は13歳のものにございますから」

 「そうですわよね…みんなセイのすごさにばかり目をやり肝心なことろが見ておりませんのよ」

 セイが1週間寝泊まりしている部屋で眠るセイジュの顔を心配げに覗き込んだアンジェリーナがつぶやくとセルジュもそうだなと納得し、また自身もそうだったといたたまれない気分になっていた。

 「夜分遅く失礼いたします」

 「アンドレ?どうしたんですの?」

 「はい、実はパーティーが終わって少し経った頃にアンジェリーナ様にこちらを届けてほしいとセイジュ様がお頼みになられてまして…それでこちらにいらっしゃると伺ったのでお持ちした次第です」

 「セイが?」

 「はい、こちらのセイジュ様特性のお茶と小さ目なお菓子にございます。本日は長時間お立ちになられ色々な方にお会いしたのでリラックスしてお疲れをとれるようにということにございます。どうぞご賞味ください、それでは私はこれで失礼足します」

 優しい目でセイジュとアンジェリーナをみたあとセルジュにも会釈をしアンドレが帰っていった。

 「セイジュ様はどれほどお忙しくてもどのような事態になられても常にお嬢様をお思いになられていらっしゃるのですね」

 「ふぇ!?、セ、セイは皆に優しすぎるのですわ!…ほんとにもう…」

 眠るセイジュの頭を一度優しくなでた後、寝顔を見ながらお茶とお菓子を食べアンジェリーナは優しい気持ちのまま眠りについた

 

 
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