異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良

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第2章 和国オウラ騒動編

21.雷遊亭にて

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    ユイトの屋敷を出たリンとレイナ2人の少し先に歩くジボーは、途中の出店で串肉を買って食べ歩きながら、ジボーの利用している宿を目指す。先に宿泊継続の手続きをするためだ。

    ゆっくり歩いているのは、尾行が居ないか確認するためでもある。

「はー…食った。もうじき『雷遊亭』って宿だ。親父が厳ついが飯も旨いし料金も安くてずっと使ってる。…あれだ」

    腹を軽く叩いたジボーが前に指をは、リンたちの返事を待たずに目線を前に戻す。


「いらっしゃい───ってジボーじゃないか!この2日どこ行ってたんだよ?」

    宿の中に入ると、カウンターにはスキンヘッドの厳つい男が立っていた。

「シュウ、済まないな。2日前に良く分からねえ襲撃受けて、コイツに助けられて世話になってた」

指差して言われたリンはムッとする。

「コイツってなによ?助けてあげたのに」

「お前…………。お嬢さん、ジボーを助けてくれて有り難うな。オレはこの宿を経営してる、シュウだ」
宜しくな、と手を差し出されて応じるリン。

「リン・トウヤと言います。宜しくお願いします」
ペコリと頭を下げた。

「で、ジボー。宿の方はこのまま継続で良いのか?昨日で契約切れてるぞ」

「───ああ。そのつもりで手続きに来た」

「分かった。この2日、姿が見えないから心配したんだぞ?」

「すまん。ちょっと厄介事に巻き込まれて。怪我が落ち着くまでは、ここに居るのは危険だと言われたんだ。───それと、俺が消息を絶つ前の事を聞きたい」

分かるか?と問われたシュウは、頷きつつ顎に拳を当てて考え込む。

「ああ。オレの知ってる限りで良いならな」

「頼む」

「ああ。…ここ最近のお前の言動はおかしかったぞ。お前が親衛隊に入ったって聞いた時は耳を疑ったぜ。レイナ嬢の事を『レイナ様』とか言うし、何かブツブツ言いながらスゲェ宗教臭いこと言ってたんだよ。妄信的だったぞ?」
声を掛けても返事もしなかったし、スゲエ気持ち悪かったとシュウは続けた。

「マジか……。他には?」

「暗殺が───とか、この果たし合いでレイナ様が───とかちょっとした言葉は聞き取れたが後は小さな声でブツブツ言ってたくらいだな。あんまりにも怪しい言動だったからやめた方が良いって忠告したけど無視したんだよ、お前。果たし合いの後は起きてこなくてな。1日寝たまま。起きてきたかと思えば、飯も食わずに眉間に皺寄せてフラリと出ていって───今日まで姿を見なかったんだぞ」

「…そうか。心配かけて済まなかったな。その時の俺はどうやら洗脳されてたらしい」

「なっ…洗脳⁉」

「ああ。果たし合いのお陰で、消えたんだ。で、怒りに任せて出ていった先で襲撃受けて。住宅街の外れに住んでるリンの家の前で倒れてた所を助けられた」

ジボーが溜め息混じりに説明する。

「お前……そこにリンさんが住んでなかったら死んでたぞ。────リンさん、もう一度言う。この大バカ者を助けてくれて有り難うな」

「いえ。助けましたけど、介抱したのはレイナちゃんなので」

ね、レイナちゃんとリンがレイナを向いた。

「う、うん」

    ちょっと俯き気味に答えたレイナを見たシュウは少し首をかしげた。

「有り難うな。…と言うか、ジボーはレイナ嬢に何かやったのか?」

   ジロリと睨む視線を向けたシュウに、ジボーは苦笑する。不可抗力なので少々説明が…。

「何でも有りません!」

    強い声で反論して来たのは、レイナ。
頬をほんのり染めてプルプルと震える姿をみたシュウが、胡乱げな眼差しでジボーをみたが、小さく溜息をついた。

「……少しは自重しろよ」

「……不可抗力だ」

    そのやり取りで、何となく状況を察したシュウは、やれやれと溜め息を吐く。

「ま、五体満足で無事なら儲けもんだと思っとけ」

    バシバシとジボーの肩を強く叩きながら、シュウは豪快に笑う。
ジボーは苦笑しつつ右頬を指先で掻いた。


「で、このままここで宿に入るか?」

「…いや、後だな。シュウ、食堂の個室は空いてるか?」

「そりゃ空いてるが…。その顔は今回に関係する話だな」

「ああ。悪いが2時間程借りたい」

「分かった。このカギ持ってけ」

    シュウがポケットから取り出したカギを、ジボーの前に差し出す。シンプルかつ、緻密な造りのカギだ。
ジボーは見たことがない。

「このカギは?」

「この宿の食堂の奥の個室のカギだ。機密性の高い話はそこで話せ。何処に耳目があるか分からんからな。軽食とお茶持ってってやるから」

    俺も出来るだけ関わりたくねえしよ、とシュウは続け、カウンターの奥に引っ込んだ。
ジボーは小さく息を吐くと、リン達の方へと向きを変える。

「よし、行くか」

リンとレイナが頷くと、ジボーは先になって歩く。
大体の宿には奥部屋があり、高ランクのパーティーが良く利用しているのを、ジボーは向かいながら説明する。
リンにとっては初めての事で、少し辺りを見回していた。

奥に続く廊下は人が行き交うことが出来ない作りになっているようで、一本道だ。

「万が一逃げたとしても、シュウに捕まる」

    部屋のカギを開けてリンとレイナに先を促して入らせ、ジボーは後ろ手に扉を閉めた。
室内には、円卓とそれを囲むように椅子が6脚有るだけで、他に家具はない。
ジボーが1つの椅子に腰掛けると、その向かいにリンとレイナが肩を並べて席に着いた。

「おーい、入るぞー」

    それを見計らったようにシュウが軽食を持って入ってきた。両手が塞がっているのに器用に扉を開け、テーブルにサンドイッチと果実水の入ったピッチャーとカップを置いていく。


「んじゃ、ごゆっくり~」

ヒラヒラと手を振ってシュウが素早く出ていくと、扉の鍵がカチリと音を立てて閉まる。
どういう仕組みなのか気になるところではあるが、3人はテーブルに向き直った。

「よし、食うか」

    いただきます、と3人は言いながら手を伸ばす。肉と野菜の具だくさんサンドイッチだ。
甘辛いタレと良くあって美味しい。

「で、これからどうするんだ?」

サンドイッチを頬張って咀嚼しながら、ジボーが最初に言葉を発する。

「そうね…。取り敢えずは様子見かな。進展があれば、ユイト様から連絡が来るだろうし。私も調べてはみるけど」

とっとと潰したいのよね、親衛隊。鬱陶しい。その続きの言葉は心の声で押し留め、リンはサンドイッチを黙々と食べ続け、果実水で流し込む。

「あの親衛隊って、何がやりたいんだ?」

「んー。レイナちゃんを愛でたい…って言うよりは手に入れたいんじゃないかしら。隊長辺りが」

「え?…私ですか?」

「そう。レイナちゃんは何か心当たりない?…例えば、誰か助けたとか」

「んー…親衛隊には近付きたくありませんし 
隊長に会ったこともないです。ギルドでの揉め事は仲裁したことありますけど」

「そっか。じゃあ、ユイト様からの情報待ちね」

「そうだな。今は情報が少なすぎる。目的がハッキリすれば色々分かってくるだろう。ここでずっと話続ける訳にもいかないしな。今日はここまでか?」

「そうね。親衛隊のこと、ジボーさんは調べないでね。怪我酷かったんだから暫く療養しないと。危険があるから、出掛けるときは知らせてね」

「分かった」

    これまで、と言う感じで話をきりあげた3人は、それぞれ食器を持って部屋を出る支度をすると、ジボーがドアノブに手を掛けた。
カチリ、と鍵が開く。

「それにしても、この仕掛けどうなってるんだろう?」

    じっとドアノブを見つめるリンの頭上に、ポンポンと手が乗る。

「それは魔道具技師じゃないと分からんぞ。この騒動が収まったらシュウに聞いてみればいい」

苦笑混じりのジボーの手をやんわりと外しながら、子供扱いされたことにリンは少し眉をしかめながら頷いた。

「…そうする」

    リンの態度に苦笑崩さないまま、ジボーは先に出ると、ドアを押さえ、リンとレイナを促して退出したのだった。



─────この後騒動が動くまで…ユイトのみぞ知る(?)




※※※※※※※※※※


明けましておめでとうございます。
昨年は皆様にお世話になりました。
なかなか更新できず、四苦八苦しております。
お待たせして申し訳ありませんm(_ _)m
これからも不定期ではありますが、更新していきたいと思っております。

今年も宜しくお願い致しますm(_ _)m
                                                      ☆葵沙良☆











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