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第1章 旅立ちと怒涛の出会いは濃い始まり?編
24.出発~和国オウラへ。
しおりを挟む和国オウラへ出発前の夜。
リンは夕食後、宿のベッドに寝転んでいた。
「2日間、濃い生活が続いたけど、楽しかった」
ポツリと呟いたリンの側に、ルチアとルアンが寄ってくる。
『母様寂しいのか?』
「───そうね。ルディと離れるとか思ってなかった自分が居るのよねー……」
ふう、と息を吐くリンの顔の横に、ルアンが座る。ふわふわの羽毛が心地良い。
『仕方ないの!きっとアルディーも同じだと思うの……』
そう言ったルチアがちょっぴりしょぼんとする。なついてたものね。
『まあ、僕とリディルは繋がってるから、何かあったら教えてくれるよ。それに、その指輪は虫除けだと思うんだ』
ルアンが言いながら、リンにすり寄る。
「あー……。うん、分かってた。そこ突っ込んだらまずいかなって思って言わなかったの」
クスクス笑いながら、左手を天井に向けてかざし、指輪を眺めるリン。
アルディーと別れた後、指輪を鑑定したのだ。
結果。
《絆の指輪
好意を寄せる相手の左手薬指に魔力を流しながら嵌めること。嵌められた相手は自分で外せない。但し、お互いに好意を寄せていなければその効果は発揮されない》
「この指輪の事知ってて、ルディは嵌めたんだと思うの。私はまだ、恋愛感情での『好き』ってイマイチ分からないんだけど、無意識に異性として意識してたんだって自覚しちゃった」
指輪外せないんだものねー、ふふっ。とルアンを撫でながら嬉しそうに笑うリンに、ルチアとリコラがベッドに上がってくっつく。
『母様と父様が好き合ってなかったら、僕とリディルは産まれてないぞ!』
「そうなの?」
『うん。《お互いに信頼し合っている男女》って、お互い異性として好意を寄せていなければ意味がないんだ。僕とリディルは姉弟。だから、父様と母様は僕とリディルにとって親になるんだよ。きっと、父様と母様は出会った時から惹かれ合っていたんだと僕は思うよ。僕とリディルは、父様と母様の想いから産まれたんだよ!』
グリグリと頭を押し付けてくるルアンの体にリンが頬を寄せる。
「ぐるぅ!」
『そうなの!きっとアルディーも今頃は、指輪外せないから、リンの気持ち分かってるの!』
「────そうね。……そろそろ寝ようか」
『『うん!』なの!』
「ぐるる!」
女神の森での出来事に疲れていたのか、アルディーと離れた寂しさからか…………。リン達は互いに寄り添い目を閉じると、あっという間に意識を手離した。
翌日。
いつもの鍛練を終えて朝食を食べていたリンは、ふと思う。
──────ご飯食べたい。
そう、この世界に来て今まで、《米》に出会っていないのだ。それが分かってしまうと、無性に食べたくなる。
この世界のどこかにあるのなら、旅をしているうちに見付けられるだろうか。
和国オウラに着いたら、米について調べよう、とリンは決意する。
見付からなければ、諦めよう。
そんな事を顔に出すことなく考えているリン。その態度に気づく様子もないリリアナが、朝食を粗方食べ終わったのを見計らって問いかける。
「さて、これから和国オウラへ向かうのだけれど、準備は大丈夫かしら?」
「はい、ある程度は。街を出る前に少し買い足しすれば良いだけです」
最後の一口を飲み込んだリンの返事に、リリアナが頷く。
「それじゃぁ、1時間後に城門前で」
リリアナが席を立つと、頷いたリンとレイナも立ち上がって受付カウンターへ。
「おや、もう行くのかい?」
3人がカウンターへ近付くと、マーナに声を掛けられる。
「はい、お世話になりました」
「女将さん、また来るわね」
「ありがとうございました」
リンが頭を下げ、鍵を返却する。泊まれなかった分の料金は、迷惑を掛けてしまったので、そのまま支払うことにした。その後は、リリアナとレイナも軽く頭を下げ、鍵を返却した。
「3人とも、気を付けて行くんだよ?道中何があるか分からないんだからね?」
「「「はーい」」」
心配だと続けるマーナに、顔を見合せクスリと笑う。3人が手を振って宿を後にし、それから決めていた通りに各自で買い物に向かった。
リンは特に買い物をする必要はないので、そのままお世話になった卵屋のゴーダ爺さんの店を目指す。勿論、串肉等の買い食いは忘れない。
「ん、美味しい」
『母様よく食べるね』
「ん?最近よくお腹空くのよ。微妙に目線も高くなってる気がするのよね」
『リン、成長期なの。魂が器に馴染んできてる証拠なの』
「そうなのかな……?」
『きっとそうなの!』
『母様の体は、大変なんだな』
心配そうに見てくるルアンの頭を撫でながら、リンは微笑む。
「そうでもないわよ。自分磨きを頑張ってると思えば。ルディに会ったときに驚かしちゃおう!」
ふふっと嬉しそうに笑うリンに、ルアンは撫でているリンの手にすり寄る。
『そうだね!父様の驚く顔が楽しみだ』
そんな楽しい会話をしながら、ルチアに小さな木苺に似た果実を与え、ルアン、リコラに串肉を分け与えながらリンはのんびりと歩く。
リコラの上に留まっている2羽の鳥に視線が集まっているが、リン達は気にする事もしない。
『母様、もうすぐ?』
「ん?うん。ほら、見えてきた」
買い食いしながらひたすら真っ直ぐ歩いて来たリンの視界に、チルチルの絵が描かれた看板が見えてくる。
あの端の屋台が定位置のようで、他の屋台のように並びが入れ替わってはいないようだ。
「こんにちは、ゴーダお爺さん」
「はい、いらっしゃい。今朝採れたチルチルの卵だよ。10個入り……ん?おお!リンちゃんかい!?」
「はい。1袋下さい」
リンが返事を返すと卵の袋を手渡される。
「はいよ、毎度あり。今日は何か用があるのかい?」
リンはゴーダ爺さんに代金を手渡し、ニコリと笑って頷く。
「ルアン」
『ん。母様なあに?』
呼ばれたルアンが、リンの右肩に留まってすり寄る。
「ゴーダお爺さん。譲って頂いた卵から孵化した子です。ルアンって言います。もう1羽は知人の側に居るので、今度は一緒に連れてきますね」
「ほう、ほう!綺麗な鳥だ。見せに来てくれて有り難う。また来るのを楽しみに、卵屋を頑張って続けるよ!」
次が楽しみだのう!とゴーダ爺さんがニコニコしながら何度も頷く。
「はい。また、卵を買いに来ますね」
笑って、リンはリコラ達を連れて卵屋を後にする。少し早いが、用は済んだので城門に真っ直ぐ向かうことにした。
1時間後の城門前。
リリアナとレイナより先に来ていたリンは、城門前のベンチに座って木の実入りクッキーを食べながら、リコラ、ルチア、ルアンにも与えていた。
「あら……。早かったのねぇ」
「リンちゃん、お待たせしました!」
それなりの荷物を抱えた2人の姿を見たリンは、残りのクッキーをしまって立ち上がる。
「そんなに待ってないですよ」
「そう?それなら良いのだけれど。じゃあ、行きましょう」
リリアナの言葉に頷いたリンとレイナは、並んで歩き出す。
そして、門番────キリクと顔を合わせた。
「おはようございます。今から出発ですか?早いですね」
キリクがリリアナからカードを受け取りながら、話し掛けてきた。
「そうよ。ここから和国オウラまでね」
リリアナがチェック後のカードを返してもらう。
すぐにレイナとリンはカードを渡し、チェックを受けた。
「そうですか。では、また会えるのを楽しみにしていますね。気を付けて」
キリクがニコリと笑ってリンにカードを返す。
「あらぁ。リンだけ?お姉さんたちには何もないのねぇ?」
リンは可愛いものねぇ。だけどお手付きよ?フフフ……と意地悪な笑みを浮かべる。
「み、皆さんにですよ⁉何を勘違いしてるんですかっ!」
キリクが頬をほんのり赤くして焦るところを見て、少し気が済んだリリアナはヒラヒラと手を振る。
「ふふ、冗談よ。あ、お手付きって言うのは本当だからねぇ~。じゃぁ、またねぇ~」
リリアナはクスクス笑いながら、城門を出ていった。
「待って下さい、リリアナさぁ~ん!」
レイナが慌てて追いかける。
リンは取り残された。
「あの、絶対とは言えないですけど、また来ます。心遣い、有り難うございます!」
リンはニコリと笑ってキリクに頭を下げ、城門を早足で抜けていった。
「ああ……リンちゃんやっぱ可愛い!しかも、良い子なんだよなー……。だけど、あの指輪が!誰が渡したんだ!?憎らしい!くっ……!密かにリンちゃん狙ってたのに……っ!」
リンの左手薬指の指輪に気付き、深く落胆し、悔し涙を流すキリクがリンの相手がアルディーと知って更に深く沈み込むのは──────もっと先の話。
キリクがそんな風に見ていることなど露知らず。────これから、和国オウラへと向かうために、リンは改めて気を引き締めた。
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