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第1章 旅立ちと怒涛の出会いは濃い始まり?編
2.白い世界と女神様の事情説明
しおりを挟む「ぅん………………」
ゆっくりと目蓋を持ち上げて目を覚ました一人の女性が、体を起こしてぼんやりと辺りを眺め、奥行きの分からない真っ白い空間に戸惑った。
ゆるゆると頭を横に振って脳の覚醒を促していく。
覚醒してきた視界で捉えた不思議な空間には、何もない。
再びゆっくりと辺りを見回し、誰も居ないことに少し不安が過るが────意外に冷静な自分がいる。このままで居る、とはいかないので、取り敢えず自分がどうやってここに来たのか記憶を辿ってみる事にした。
─────確か、何時ものように会社に行って仕事をこなし、何のトラブルも無く今日は珍しく定時で終わった。
久し振りの定時帰宅が嬉しくて、いつも行きつけにしている本屋に向かい、最近愛読している推理小説の最新刊を購入した後、バス停に向かった。
バス停に着いてからは、明日は久し振りの休みだから本を読んでまったり過ごそう!と意気込みつつバスの到着を待っていたのだ。そこに、高校生が3人で仲良く話しながらやって来た声に気付き、その方向に何となく視線を向けて少し離れた場所から眺めながら、ふっ……と思い出してしまった。
私にもあんな時期があったなぁ……と。
──────18歳の夏、4人の友人達が姿を消すまでは。
あれは、夏休みに入る終業式後の放課後の教室だった。
友人達の飲み物を買いに、教室から出た瞬間。突然教室内が光り、思わず振り返った。教室内に幾何学模様の魔法陣が出現し、友人4人の周囲を囲んだのだ。慌てて教室内に戻ろうとしたが、魔法陣の外側にいた自分は何かに阻まれて中には行けず……4人の友人達はその魔法陣に飲み込まれて消え、一緒に行くことも、助ける事も出来なかった。
こんな不可思議な現象を、教師や友人達の親に説明しても信じてもらえないだろうと思い、どうすることも出来ず……ただただ知らないと言うしかなかった当時は、とても辛かった。
───あれから、10年の月日が流れた。当時に比べれば、辛さや寂しさは時間と共に随分と和らいできている。
友人4人の家族とも疎遠になっていき、卒業後、住んでいたアパートを解約して同級生達に何も伝えず祖父の家に身を寄せた。
祖父には、その現象を見たことや、助けてあげられなかったこと、辛くて苦しいことを洗いざらい話し、思い切り泣いた。
祖父は黙って聞いてくれ、泣き疲れて眠るまで、背中を擦ってくれたのがとても有り難かった。その祖父も既に他界して、自分には身寄りはいなくなってしまったが、祖父が臨終間際に《お前を信じているよ。この話はあの世まで持っていってやる》と言ってくれた事が何より嬉しかった。
寂しいときもあるけれど、頑張って生きていくと祖父と約束して、現在に至っている。
そういった思いに耽っている時に、起きたのだ。
バス停にハンドルを切り損なった車が猛スピードで突っ込んで高校生3人を跳ね───それと同時に魔法陣が出現して高校生3人を飲み込んだのを見た。
その魔法陣に驚いて、自分の方へ進路変更して向かってきた車に気付くのが遅れてしまい、そのまま跳ねられてしまった。
───そこまでの記憶しかない。
と、言うことは。自分は死んだ、と考え付くのが妥当か。
だが、先に跳ねられた高校生たちの姿も見えない。
もしかして……思い返していた内容でフラグ立てたかも?
一瞬そんな考えが過ったが、首を振る。
「……まさかねぇ。誰もいないって困るなあ…………。───誰かいませんかー⁉」
女性は一応叫んでみる。
────静寂。小さく溜め息をつき、女性は一瞬過ったものについて改めて考える。
もしや、自分の身に小説───ラノベの定番が降りかかったのでは?と。
確かに、推理小説の他にラノベも好んで読んでいる。
手軽に読めて楽しめるからだ。こういう世界に行ってみたら面白そうだなぁ程度に思ったことはあるが、まさか現実に起こった?
────やっぱりあのバス停で、フラグ立てたかもしれない。
だが、この白い世界には、自分1人だ。少しずつ不安になりつつある自分自身を考えないようにして、頭を横に振ってはみるが、不安は大きくなっていく。堪らずに膝を抱えて座り込み、再び溜め息をついたところで声を掛けられた。
「─はい。こちらにいます」
自分の後ろに気配を感じ、ハッとして勢い良く振り向いた先に────見目麗しい女性が静かに微笑んで立っていた。
「遠宮鈴霞さん、ですね?私はこの世界《アークスライド》を統括する女神でリーシアと申します。貴方は今回、別の世界の勇者召喚に巻き込まれ、召喚の余波で死亡しました。申し訳有りません」
女神リーシアは鈴霞と呼ばれた女性に深々と頭を下げた。
「死亡しましたって……じゃあ私、地球に帰れないんですか?」
「───はい。鈴霞さんの肉体は消滅してしまったので……生き返りとしては帰れません。そのままだと、肉体と一緒に魂までもが消滅してしまうところでした。完全なこちらの不手際です、申し訳ありません。そういう状態でしたので、私の神界の者たち───貴方の世界の言葉を借りるならば、上司と部下ですね。その話し合いの結果、鈴霞さんに私の世界、《アークスライド》へ転生して頂こうと言う話になりました。
地球の神にも謝罪致しました。地球の神は、貴女が《アークスライド》への転生を選ぶならば好条件で、と仰いました。選ばないときは此方に魂を戻し、記憶を消した上で新しい命として輪廻転生させるから、鈴霞さんの意思を尊重してくれ、とも仰いました」
リーシアは淡々と説明する。
鈴霞は呆然と聞くしか出来なかったが、もう失うものは何もない。
両親は高校生の時に事故で失い、近しい親類もいない。─────友人たちも。
「…………まぁ良いですよ。向こうに大した未練も有りませんし。あ、気になることと言えば、異世界へ転生する場合の私の記憶ってどうなりますか?」
ここで異世界へ行ってみよう!と覚悟を決めたが、鈴霞としても気になるのは記憶に関して。
消えなければ、色々と都合が良い。
「鈴霞さん、何だか随分軽い感じが……」
「そうですか?だって、こうなったものはどうしようも無いじゃないですか。戻れないし、肉体が無いんですよね?それに、地球に戻って記憶消されてまた赤ちゃんからやり直す……なんて嫌ですし、身寄りも居ませんから」
だからこそ、ここで未来を選べるならば楽しいじゃないですか。と鈴霞は言葉を続け、異世界へ行くことを選んだのだ。
「意外とあっさり決められてしまったのには少し驚きましたが……。では、記憶に関してなどお答えします。────私の統括する世界に転生する条件として、記憶、地球で培ったスキルのうち実用性のあるスキルを持ったままの転生となります。この世界は剣と魔法の世界ですので、他に希望のスキル等を選んで頂いて、付与致します。先程も言いましたが、貴女の肉体は余波の影響で消えてしまいましたので、新たな器をこちらで準備致しました。ただ……」
「ただ?」
「条件として、私が管理している地上の《女神の森》へと降りて頂きたいのです。理由は、鈴霞さんの魂とこれからお渡しする器を馴染ませるためです。それから、この世界を学ぶための本をお渡しします。ナビゲーターも少しの間ですが置きますので、この世界の事を色々と学んで下さい」
神妙な面持ちのリーシアを見て、鈴霞はゆっくりと頷いた。
「……お願いします」
ペコリと鈴霞が頭を下げた。下げた顔はちょっとにやけそうになるが、我慢して顔を上げた。
「はい。では、まずスキルと魔法のリストをお見せします」
リーシアが出したのは……タブレット。
鈴霞は少し驚きながら受け取ると、画面を見た。
「まさか、タブレットとは」
「地球の神に融通していただきました。とても便利ですね。時間は充分ありますから、ゆっくり選んでくださいね」
優しく微笑むリーシアの言葉を聞きながら、鈴霞はタブレットを覗き込んだ。
「色々あるんですね」
鈴霞がリストをスクロールさせながら、リーシアへ振り返る。
「はい。魔法に関しては、属性のみになります。希望が有れば、タップしておいてくださいね」
リーシアの言葉を聞きながら、鈴霞はスキルと魔法属性を決めていく為に、タブレットへ視線を落とすのだった。
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