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第2章 和国オウラ騒動編
24.模擬戦
しおりを挟む※ユイト視点からです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「トルマの尻尾を掴みました。次の段階へ移りましょう」
「そうですか……。では、次の情報が入り次第、連絡を。危険な行為だけは避けてください」
「かしこまりました。では、失礼します」
頭を下げて扉の向こうに消えた男性を見ずに、机の上の書類に目を落とす。
ここは、ユイトの屋敷の執務室。
隠密部隊からの知らせに、深い溜め息を吐いた。
執務室の机にあるベルを鳴らす。
1人の初老の男性が静かに入ってきた。
ユイトの前で綺麗な礼をする。
「お呼びでしょうか」
「ギルドへ伝言をお願いします。南住宅街の調査の依頼を。調査中に冒険者達に危険が及ぶようであれば、事態の収拾に取り掛かって構いません、と。各国が探していた犯罪者を囲っているなんて、我が国の恥です、全く。まあ、これ以上長引けば───ねぇ?ロア?」
あそこの住人はねぇ、と呟きとともに苦笑するユイトを見て、男性────ロアはクスリと笑う。
「そうですね。では、早急に手配の方をして参ります」
「宜しくね」
ロアと呼ばれた男性は、一礼すると足音も立てずに執務室を後にした。
「少々強行手段にはなりますが…………殆ど証拠は揃っていますから大丈夫でしょう。あの住宅街にアジト等、潰してくださいと言っているようなものなんですけどねぇ…………」
ユイトは独り呟くと、机の書類に目を落とした。
△▼△
ユイトが動き始めた頃、リンの家では─────────
ジボーとリンの模擬戦が繰り広げられていた。
「はっ!」
ガンッと木刀が激しくぶつかり合う。
「リン!おまえ双剣術は得意じゃないって言ったよな⁉うぉっ!」
素早い剣捌きに、ジボーがバックステップで避ける。
「私の死んだお爺ちゃんがっ!刀剣術は刀だろうが剣だろうがっ!やっ‼扱えて当たり前からってっ!叩き込まれました!っが!その中で双剣が一番苦手なんでっす!ふっ‼」
カンカンカンカンッ!と木刀がぶつかり合う。
翌日。朝食を終えた3人は、レイナをギルドへ連れていった後、リンの家の庭で模擬戦を繰り返していた。
「リンちゃんスゴいです……。」
リコラと一緒に木陰でのんびりと2人の模擬戦を眺めるレイナ。
「お前っ!それ苦手の域じゃねぇぞ!はっ!」
更にカンカンと打ち合いが続く。合間に蹴りを入れていくが、リンは避けて反撃してくる。
「魔法も魔闘気も使わないでっ!そこまでっ!出来る人もいないよっ!やあ‼」
ガツン!とぶつかり、2人の動きが止まる。
「やるじゃねえかっ!」
「そっちこそっ!」
2人はニヤリと笑う。
お互い同時に距離を置き、間合いを開けた。
「お2人が戦闘狂に見えますね、リコラちゃん……」
「ぐるぅ……」
小さく吠えたリコラの左耳がピクリと動く。
「そこっ‼」
斬撃を左側の建物の方向へ飛ばすリン。
物陰に隠れていた者が、腕を押さえて走り去った。
「やっぱり、監視されてる。そろそろ動きがありそうな感じ…………。ジボーさん、休憩するよ」
そう言い残して、リンはレイナとリコラのいる木陰へと歩いていく。
「……ああ」
リンが斬撃を飛ばした方向へ視線を向けるジボーは、人が隠れているなんて気付かなかった。
「すげえな……。まだまだ頑張らねえと」
そう呟いたジボーは、木陰へと歩いていった。
休憩を兼ねて作り置きしていた軽食を摘まみつつ、さっきの不審人物の話になる。
「さっきの人は何者でしょう?」
「多分、親衛隊関係の人。ちなみに、物騒な相手。暗殺者、かな?」
それにしては、殺気が微妙に漏れてたけどね~、とリンは言葉を続けるとお茶を啜る。
「「えっ」」
リンの言葉に、2人が驚く。
「何で分かったかって顔だね?」
コクコクと頷く2人に、苦笑いのリン。
「家の結界は私の管理じゃないの。リコラが管理者。リコラの体の部分とある程度連動してるの。左耳がピクリと動いたから、左側に何かいるって感じ。その方向に一瞬視線を向けて、微量の殺気が漏れてたからピンポイントで狙えたの。相手の隠蔽が完璧であれば、判断は付きにくいけどね」
「リコラってシルバーウルフですよね?」
「うーん……そうなんだけど、そうじゃないと言うか、今のところは秘密」
ごめんね?とリンが顔の前で手を合わせる。
「分かりました、今は聞きません。この件が終わったら教えて下さいね?」
有無を言わさぬ笑顔に、レイナ父の影が見え隠れする。
取り敢えず、目を逸らしておこう、うん。
庭先でお昼を済ませた3人と1頭。
リンとジボーは相変わらず模擬戦をしている。
「ここまで強い人はっ!久しぶりっ!やっ!」
「俺もだっ!」
間合いを開けた状態で、2人の魔闘気がゆらりと動く。
魔闘気で身体強化をした2人がぶつかり合い、激しさが増す。
「甘い!」
リンの素早い蹴りがジボーの腹を捉える。
「なろっ!」
勢いをつけて後退し、地面に着地と同時に前に出る。
剣撃の激しさが更に増す。
「あれって木刀ですよね……?」
どう見たって木刀ですね、何故壊れないんでしょう?とレイナは呟きつつ、リコラの頭を撫でた。
「ふっ‼終わりっ‼」
ガガン‼という音とともに、木刀を落としたのは────ジボー。
「ぜは~……。おま…………強すぎ…………」
地面に転がったジボーは荒い息継ぎで手足を放り出して伸びた。
「くそっ!俺自身の魔闘気の練気が足りねえ!練気徹底してやらねえとな。…………これ以上リンに負けたくねえ」
呟く声は、リンに聞こえているのかいないのか。
「はふーっ…………疲れた。でも久しぶりに模擬戦楽しかった」
汗を拭きながら、ふふっと屈託なく笑うリンは、普通の少女と変わらない。
「リン」
「なあに?」
「また模擬戦付き合ってくれるか?次は勝つ‼」
「良いよ。次はレイナちゃんも混ざってね」
模擬戦後にニコニコ笑うリンは、ある意味怖いかもしれない、と思うレイナだった。
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