異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良

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第2章 和国オウラ騒動編

13街中散歩と嫌な予感

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「今日は、商業区で買い物ね♪」

    今日は街中を見て回るのと、買い物を兼ねて街道をご機嫌で歩くリンの隣で、リコラが尻尾をゆらゆらと振りながら一緒に歩く。
    街の中に向かって歩いている石畳の通路には、人影が少ない。
    街の中に着くまで、歩くと30分程の時間が掛かる。リンにとってはとても楽しい散歩の時間だ。

「現在の所持金は……持ち歩いてる現金と合わせると、134万7千ガルドね。10ヶ月分の家賃は先に払ったから、今日は家具と食器を見に行こう♪ゆっくりと買い物に出掛けるなんて向こうじゃ考えられなかったからなぁ」

    時間に追われてばかりだったものね~と小さく呟き、もふもふとリコラを撫でながら歩き続ける。段々と賑やかな街並みが見えてきた。


    商業区に入ると、綺麗に建ち並ぶ建物と人の多さに目を奪われる。
普通の住人の他に従魔を連れた冒険者も歩いているからか、リコラが一緒に居てもそこまで気にする者はいないようだ。

「気配、隠蔽してて良かったかも」

    小さく呟いたリンは、念のため弱めの隠蔽を掛けている。リンの格好はこの街の若い女性がしている服装と似通っているから問題ないのだが、弱めの隠蔽をかけたのは、この洋服の質が違う上に、更に美少女っぷりが結構厄介だから。

余計なトラブルは避けたい。

「先ずは雑貨屋さん行って、家具屋さんね。この世界の洋服を見てみるのも良いかも」

    どこを見て回るか考えつつ、商業区で一番近い雑貨屋へ向かい始める。マップも記録されるので、道に迷うこともない。

    時折、屋台の串肉を買ってリコラに与えながらリンも頬張る。
喉の渇きを少し感じながら歩いていると、ちょうど果実水の店を見付けて立ち寄る事にした。

「いらっしゃい!果実水冷えてるよ!1杯200ガルドだ」

店主がにこやかに対応する。

「種類はあるんですか?」

「ああ、あるよ。パーナとリンゴとグレプだね」

    店主が店頭に並べている果物を指差す。
リンは明らかに地球の果物と分かる形に驚いた。

    パーナはパイナップル。リンゴはそのまま、グレプは葡萄。まんまじゃん!どうやって手に入れたのよ⁉と心の中で突っ込む。

「……パーナ1つ下さい」

    この国、本当に異世界人に向いてる国かも……と思いつつ、リンは取り敢えず頼むことにした。

「パーナだね。マイカップはあるかい?無かったら、カップとセットで400ガルドだよ」

「じゃあ、カップとセットでお願いします」

「ハイよ!次に来るとき持ってきたら果実水代のみで済むからね。他所の店でもカップは利用出来るから、食べ歩きするときは持って回ると良いぞ!お嬢ちゃん可愛いからこれはオマケ!」

    カップと一緒に渡されたのは、カップホルダー。蓋付きだ。腰に吊り下げられるようになっている。
「良いんですか?」

400ガルドを手渡しながら、聞いてみる。

「良いんだよ!また利用してくれればね。毎度あり!」

    ニコニコしながら受け取る店主の笑顔に釣られてリンもクスリと笑う。
カップを受け取って一口。
冷たくて美味しいパイナップルジュースだ。

「美味しい!また寄りますね♪」

「あいよ!毎度あり!」

    リンはニコニコ笑う店主に手を振って再び歩き出した。
リンは田舎も好きだが、賑やかしい街も好きだ。人混みの中をのんびり歩いていると、物凄い勢いで走って来る人影が視界に入る。
    先頭を走っている人物が追われているようだ。飲みかけのジュースに蓋をしてアイテムボックスに入れた。

「いやぁ~!来ないでください~!」

    叫びながら走って来る人影の声に聞き覚えがある。じっとその方向を見ていると、姿が見えてきた。

「……レイナちゃん?」

    首を傾げつつ眺めていると、レイナの後方80メートルくらいだろうか?に砂埃が舞っている。どうやら追われているようだ。

    隠蔽を解除して、レイナが発見しやすいように手を振る。レイナが気付いて走るスピードを上げ、一気に向かってきた。

「助けて~!」

    リンへとレイナが勢い良く飛び込んできたのを、力を上手く受け流しながら抱き止める。

「これやるの、普通なら男性よねー……っと『隠蔽』」

    リンは呟きながら街道の端にリコラとすぐに避ける。アイテムボックスから出したローブでレイナを素早く包んで抱き締めると、隠蔽を強く掛けた。レイナの姿もしっかり隠れるように。

「「「「レイナさぁ~ん!僕たちの愛を受け取ってぇぇぇ~!」」」」

    ズドドドドド……と地響きと砂埃を巻き上げ、猛スピードで10人程の男性たちが走り去っていく。

「げほっ。何あれ……。レイナちゃん大丈夫?」

「ふぇ?リンちゃん!助かりました……」

    抱きついたままの姿勢でリンと確認すると、レイナはくったりと力を抜いて返事を返した。

「彼らは何者?」

「《レイナ親衛隊・求愛組》と言う組織らしいです……。修行期間終わって帰ってきたら出来ていたんです」

レイナはぷるぷる震えながらも、リンから離れて立つ。

「それって、他の組も有りそうね?」

「うっ……。もう追いかけられたくないです」

    涙目になるレイナの頭を撫でながら、リンは思考を巡らせる。レイナは可憐で可愛い系の美少女だ。冒険者としてそれなりの実力もある。    
    パーティーに誘われる事も多いだろう。自分とパーティーを組んだから断りやすくはなっただろうが、こちらとしても面倒事は出来るだけ避けたい。ここで手を打てる何か良い案は無いものか。
    あれは逃げるべき集団だ。他にもいるとなると……余計にコワイ。

「レイナちゃんのお父様に話した方が良さそうね……」
「……そうします。今日はスゴく可愛いお洋服ですね。リンちゃんはこれからどこに行くんですか?」

    落ち着きを取り戻したレイナに聞かれ、リンは微笑む。

「今日は雑貨屋と家具屋に行く予定よ。その後は、お昼を済ませて洋服や調味料を見に行くつもり」

「じゃぁ、私に案内させて下さい!今日助けてもらったお礼に案内します!」

    ニコニコするレイナを見て少し気圧されたが、リンは頷いた。

「ふふっ。お願いしようかな。あ、そのローブ着てて良いよ。効果は低いけど認識阻害の付与魔法が織り込まれてるから。見付かったら、買い物してる場合じゃ無くなっちゃうしね」

    さらりと言うリンの言葉に、レイナは少し目を見開く。程度はどうであれ、認識阻害の付与の装備はレアな物なのだ。
それを織り込むとなると、最上級の付与魔法師による認識阻害の魔法陣が必要になる。

「……有り難うございます。あの集団はとても怖かったです。よし!気分を切り替えて行きましょう!」
良い雑貨屋さんが有るんですよ~!と言いながら張り切るレイナは、リンの手を引いて歩き出した。

「ストーカー…………。これは嫌な予感しかしないわ」

レイナに手を引かれて歩きながら後ろを一瞥すると、再び前を向いた。




    二人が去った後の近くの物陰から、ゆらりと1つの影が動く。
街中で溶け込める平凡な顔立ちの男は、リンとレイナの背中を静かに見つめる。

「あれが、レイナ様とパーティーを組んだリン・トウヤ……。そんなうらや……ゲフンゲフン!イヤイヤ、け、けしからん!危害を加えるような娘では無いにしても、あのお方にお知らせせねばならん!」

    小さく呟くと、男はいそいそと人混みに紛れて姿を消した。
リンに気付かれているとも知らずに。
























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