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第2章 和国オウラ騒動編
12.新しいスタートです!
しおりを挟む「ん~……。朝か」
モゾモゾとベッドの上で起き上がったのは────リンだ。
ベッドから降りて立ち上がると、部屋のカーテンを勢い良く開けて窓際で伸びをする。
「ん!良い天気!リコラおはよー!」
庭で寝ているリコラの頭が持ち上がり、リンの方を向いて尻尾をゆらゆらと振った。
和国オウラに到着してから、1週間ほどは怒濤の日々だった。
住民登録に、住居探し。
ユイトの紹介で住宅斡旋商会の会頭に案内してもらい、借りる住宅を10軒ほど見て回った。
だが、なかなか良い物件に巡り会えず、探すのを断念しようかと本気で考え始めた頃。
住宅斡旋商会の会頭に案内された最後の物件が当たりだった。
「本当にこちらでよろしいのですか?」
会頭から聞かれ、リンは迷わず頷いた。
因みに、この会頭の名前は『ホルン』と言う。
「はい。ここならリコラを自由にさせてやれますし」
「かしこまりました。では、手続きを致しますので商会の方へ戻りましょう」
そうして契約と諸々の手続きを済ませたのだった。
契約した住宅に戻ってきたリンは、改めて住宅を門から眺める。
住宅街から離れた場所にポツンと建っている、草が生い茂った庭に蔦の絡んだ家。まず、やることを決めて取り掛かったのは、庭や家の外側の手入れ。
綺麗にすると、濃い緑の屋根に白い壁の小さな家が姿を現した。
庭の手入れを隅々までやり、庭がとても広いことにも少し驚いた。リコラが元の姿に戻っても余裕のあるサイズだったのはちょっと嬉しい。ここでは元の姿に戻す訳にはいかないが。
借りた住宅は冒険者ギルドや街までの距離が遠く、誰も近寄ることの無かった物件だ。
借りてくれるのならと、ホルンから通常ならば1ヶ月30,000ガルドの所、1ヶ月15,000ガルドと言う安い家賃で貸してくれた。
敷金等はセージのお陰で勿論無料。
買い取りを希望する場合は、再度連絡を取ることにしている。
玄関に入ると靴を脱げるスペースがあり、少し奥に入ると、左手にお風呂とトイレ。
右手の奥に続く扉を開けると、左側にカウンターキッチンと6畳の居間。更に右側にはもう1つ扉があり、開けると寝室としても利用出来る10畳程のフローリングの部屋。
ベッドは無かったので、簡単に部屋の掃除をして念のために買っておいたシンプルなベッドを設置。居間には大きな窓が付いており、陽射しが差し込んでいた。
そして1週間。いまに至る。
「うーん、この世界に来て最近まで大変だったなー。そうだ!今日は鍛練も休んでリコラ達と街を歩こうっと♪」
鼻歌混じりにキッチンへ。
そうと決まれば先ずは朝食の準備だ。
ポーチから肉に野菜にと食材を出していく。そう言えば、と思い出したことがあった。何気無く取り出したのは、ネアに貰ったブレスレット。
シャラリ、と音が鳴る。白と黒の2種類。黒い方が少し太めのブレスレットだ。
黒はアルディーの分だろうと分かる。お揃いのデザインだからだ。
「うん、後にしよう」
リンはブレスレットとポーチに戻す。先ずは朝食が終わってからだ。
鍋を火に掛け、手際よく野菜を切り分ける。今日は味噌汁と白身魚の煮付けだ。
米が欲しい所だが、未だに発見出来ていないのでパンで我慢する。
漂ってくる匂いに釣られてか、リコラは前足で上手く扉を開け、扉を抜けられるサイズに体を小さくして入ってきた。
そのままキッチンへ向かっていく。
「リコラ、お肉焼く?」
「がう!」
気付いたリンに聞かれ、ブンブンとリコラが尻尾を振る。
以前、野営をした際にリンが焼いた肉を試しにリコラに与えると喜んで食べた。それからはその味に嵌まっているようで、塩コショウを少し振った味付けが一番のお気に入りらしい。
サイコロ状にした焼いた肉をリコラ用の皿に盛り付け、カウンターキッチンのテーブルへ。床に肉を乗せた皿を置く。
「いただきまーす♪」
「わふ!」
リンの言葉に続くようにリコラが小さく吠えると、ゆっくりと食べ始めた。
「そう言えば、ルチアとルアンを見ないんだけど、リコラ知ってる?」
「ぐるぅ?」
首を傾げるリコラを見て、リンは小さく溜め息を吐いた。
どこかに出掛けているらしいのだが、ルチアとルアンの姿が一向に見えない。もう、3日経つ。行き先も告げずに姿を見せないので、心配になって広範囲の索敵をかけたが見付からない。和国オウラからも出ている。
「まあ、普通のチルチルとナイトメア・ホークじゃないから大丈夫だろうけど。念話の返事も無いし……まさかルディの所に行ったとか無いわよね?」
そこまでの索敵は不可能だ。些か不安は残るが、魔力の繋がりが切れていないのでそこまで心配はしなくて大丈夫、とは思うもののやはり不安だ。
溜め息を吐きつつも、朝食を終えて食器を片付けてから部屋に戻って普段用の服に着替える。
今日は膝までの紺色のフレアタイプのワンピースだ。襟は肩まで開けており、襟回りは銀の糸で蔦模様と小さな赤い花の刺繍があしらわれている。背中側のウエストの辺りに取り外し可能な大きめのリボン。
このワンピースを鑑定したところ、《物防と魔防50%UP、リボンは魔力を流すと細身のショートソードに変化。サイズ自動的調整、自動修復》と出た。
ポーチの中には、他にも洋服が有るのだが、全て似たような性能だった。
お二人とも、どれだけ過保護なの?と突っ込みたい。
着替えを済ませて部屋から出ると、カウンターキッチンの椅子に座る。
ポーチから先程のブレスレットを取り出してテーブルに置いた。
「さて…………。『鑑定』」
ブレスレットの鑑定結果。
《白銀のブレスレット:どんな攻撃も1度だけ防ぐ。効果回復には2日かかる。(リン、ジュエルリングとポーチを一緒に置いておくれ♪アルディーはポーチとブレスレットを一緒に置くんじゃよ♪byネア)》
「……はい?」
意味が分からない。が、取り敢えず言われた通りに置いてみる。
────3つが同時に光に包まれ、眩しさに目を細める。すぐに光は収束し、残ったのはリングとポーチの可愛いチャームが付いたブレスレット。
どう言うことでしょう?とリンは首を傾げつつ───────
「『鑑定』?」
ポツリと呟いた。
鑑定結果。
《白銀のジュエルブレス:無限アイテムボックス。時間停止、サイズ自動調整、使用者固定。アイテム等はリスト画面を出すことが出来る。どんな攻撃も1度だけ防ぐ。効果回復には2日かかる》
アイテムボックスが1つになったのは喜ばしい。が!これ見付かったらヤバい感じですよねー…………どうしましょう?
────と悩んだが、もとに戻せるわけもなく。小さく息を吐くと、左腕に通した。シャラリと音を立ててジャストサイズに調整される。
「考えても仕方ないし……。出掛けて忘れられる訳ないけど。もう良いや。ルディのは会ったときね。今日は家具を買い足して、明日からまた冒険者活動よ!リコラ、行こう!」
これからここで新生活だ!とパッと立ち上がり、リコラを連れて玄関へ向かうのだった。
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