異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良

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第1章 旅立ちと怒涛の出会いは濃い始まり?編

16.野営村ゾル

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    森から出発して、5日目の午後。
鈴霞とルチアとリコラ、アルディーは小さな街と言っても良いくらいの集落が見える丘の上に立っている。

「─────ここが、野営村ゾルだ」

「ここが……。村って規模じゃないよね?コレ」

リンはこの野営村に着くまで、ルチアとリコラ、アルディーと魔物の討伐で素材を集めながら移動してきた。
リコラの体をもふもふと撫でながら野営村を眺める。
「そうだな。街と言っても良いと思うが、冬になると人口が少なくなる。この村は規模を小さくしちまうんだ」

「成る程…………。冬は冒険者が少ないってこと?」

視線を野営村に向けたまま、リンは
ポツリと呟いた。
時折、こんな風に呟くリンを不思議に思う、アルディー。
普通はある程度の情勢を知っている筈だが、リンは時折聞いてくる事があった。
────何となく、リンの素性については察しがついている。アルディーも初めての事なのでいまいち確信が持てないが。
その内聞いてみる事にして、思考の隅へと追いやり、頭の中を野営村の事に切り替える。

「ここには冒険者ギルドの支部があるんだ。素材もそこである程度は買い取ってくれる。リンはどうする?」
「────私たちは行かないわ。この丘の上にある木々の陰で休む事にする」
首を横に振り、それに目立つと思うからと言葉を続けたリンを見て、アルディーは小さく溜め息を吐く。

「……そうか。まあ、無理に来いとは言わねえよ。あの村に入らないで野営する奴も結構居るからな。良いんじゃねえか?
俺は素材を売るのと、自分の食料買いに行ってくる。ここに来るまで、リンに随分助けてもらったからな。ギルドには依頼の時のメンバーの事も、報告する必要があるし、まだ奴等もレグリアには到着してない筈だ。この村に立ち寄ったか聞いてくる」

「うん。私は、ここでもう少し眺めたらルチアとリコラを連れて野営する場所まで移動するから。夕飯はルディの分も準備しておくね」
「すまん、頼む。買い取りの方に時間かかりそうだが、陽が落ちても戻ってこなかったら先に食べててくれ」
「うん。行ってらっしゃい」

リンが少し笑ってヒラヒラと手を振るのを見たアルディーは、野営村に向かって歩き出した。


△▲△▲△


野営村ゾル──────

    冒険者や商人達が休憩を取る、野営地点だ。ここには宿屋と食堂、酒場やアイテム屋がそこそこに建ち並ぶ。
中央の広場には、その日限りの露店。1日毎に露店が変わるため同じ商品は殆ど無い。

これからの移動についての話し合いや露天商売をやっている商人たちに混じって冒険者が買い物の為か、露店を見て回っている。

「『ルディ』、か。誰も呼ばない呼び方をする女だよなぁ……」

ここまで来る道程で、リンと幾らか打ち解けた。その時に呼ばれたのが『ルディ』。その呼び方にむず痒さを感じながら、アルディーは冒険者ギルドに向かって行く。

「気は利くし、何だかんだで俺が頼っちまってるんだよな……。ルチアの思い通りになりそうな所は気に食わんが」


    野営用のテント張りがちらほらと始まっている中をぶつぶつ呟きながらアルディーは歩く。
今日は一人旅の者もそれなりにいるようだ。中には従魔を連れている者もおり、そういった者達は村の端にテントを立てたりしている。
中央に近い場所には扉の無い小屋があり、そのなかに寝袋を広げている者達もいる。小屋は二棟あり、男性用と女性用に別れている。
見知ったその間の道を通り過ぎて、アルディーは目的の冒険者ギルドの中に入っていった。


───それを見届けるかのように、リンはずっとアルディーの背中を目で追っていた。

「さて……。野営する場所まで行こうか」
「ぐるぅ」
『はいなの』

リンは野営村に背を向けると、木々の間を縫うようにしてルチアとリコラを連れて木々の奥の方へと姿を消した。



野営村ゾル、冒険者ギルド───

「こんにちは!冒険者ギルド、ゾル支部にようこそー!───って、なんだ、アルディーさんじゃないですか」
言って損した!と受付嬢が少しむくれる。
「おま……もうちょっと考えろよ」
はあ、と態とらしく大きな溜め息を吐く。
「で?今日はどのようなご用件で?とっとと言ってください」
「雑だな、おい?」
「だって、アルディーさんってば、最近この村に来てくれないじゃないですか。いつ彼女にしてくれるんですか?アルディーさんって凄くモテるんですから、チャンスがある内はアタックし続けますよ!」
私きっと迎えに来てくれるって思って、待ってるんですよ!と受付嬢が言葉を続けた。

「ロロ。お前は俺のタイプじゃねえって断った筈だが?冗談でも言うな。それと、幼馴染みを大事にしてやれ。あんな良い男捕まえ損なったら、お前マジで嫁の貰い手居なくなるぞ」
「ちぇ~っ。分かってますよーだ」
困り顔のアルディーを見て、唇を尖らせた受付嬢──ロロはアルディーがカウンターに乗せた袋へ手を伸ばす。

「素材の買い取りを頼む。それと、最近の新しい情報と、Cランクパーティー『赤狼』がこの村に立ち寄ったかどうか」
「はいはい。では、こちらは査定のために預かりますね。この村付近の新情報は、特に有りませんね。『赤狼』は来てませんよ」
受け取った袋を、カウンター奥の鑑定カウンターへと渡しながらロロはアルディーの質問に答えた。

「そうか。やはり避けたか……」
「避けたって……あの不良パーティー何かやったんですか?」
ロロが眉間に皺を寄せる。
──『赤狼』。なかなか犯罪の尻尾を掴ませないCランクパーティー。ギルド間で《要注意パーティー》として有名だ。

「ああ。俺がんだが逃げられてな。───『赤狼』と臨時でパーティー組んだメンバーの死亡が続いた事があっただろ?」
「有りましたねー。現地調査に行っても証拠は見つからず。巧妙な手口で、犯罪として成り立たない。でしたっけ」
「そうだ。ここに寄って素材の買い取りを頼んでいたら、俺の荷物を持ち込むと思ったんだが……。来ていないなら用心したって所か」
顎に軽く握った拳を当て、アルディーは考え込む。は、レグリアのギルドからの借り物で、ロックの魔法が自動でかかる仕組みで、アルディーとレグリアのギルドマスターが持つ魔道具でロック解除出来る。中身が欲しい奴等は真っ直ぐレグリアに向かった可能性が高い。

「アルディーさんが逃げられるなんて……。ギルドマスター通して連絡しますか?」
それで逃げて良いんだ。連絡の方を頼む。───レグリアのギルドマスターに、『依頼の件で《要注意パーティー》に逃げられた。を持ってレグリアに帰還の可能性大。中に映像魔石を忍ばせてある。記録を確認してくれ』と」
アルディーの一言一句を逃さずロロがメモを取る。
「───はい、承りました。素材の鑑定終わったようですから、代金をお渡しいます。内訳知りたいですか?」
「いや、良い。買い出しもあるから、金額だけ提示してくれ」
「はい。総額6万5090ガルドです。何だか急いでますね?」

「──────大事な連れを待たせてるからな」
ボソリと呟いた言葉を聞いたロロが一瞬固まる。アルディーの口から聞いたことがない、『連れを待たせてる』。しかも、『大事な』って言った?

「ええええええええぇぇぇぇぇぇ!?」

大きな声で叫ぶロロの声を背中に受けながら、特に気にする風もなく、アルディーはそのまま冒険者ギルドの外へと出た。
扉を背に、陽が暮れ始めた空を見上げる。リンには悪いが、ああ言っておけばロロから話が広がるだろう。一応、戻ってから、リンに説明するつもりだ。

「さて、食料の調達に行くか」

アルディーは広場の露店へと足を向けて歩き出した。

    この野営村の露店を見回りながら、食料を買い込んでいく、アルディー。
ふと、ある店の前で足を止めた。
「お兄さん、いらっしゃい。雑貨屋ルーフのお店にようこそ。何か気になるものでもありました?」
店主がアルディーに声をかけた。

「ああ。コレなんだが、いくらだ?」
「えーっと───指輪ですか。これ、大したものじゃないです。セットで3000ガルドですよ」
「────それ、買わせて貰うよ」
アルディーは3000ガルドを支払い、指輪のケースごと受け取ると、ポケットへとしまった。

「有り難うございます。次回もお会いできましたらご贔屓に」

店主の声を聞きながら、宿泊用の小屋の方向へ歩き出す。小屋の間の道を抜ける途中で聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

「レイナ、久しぶりね?」

色気を漂わせる女性の声に、アルディーの足が止まった。
「あ、お久しぶりですリリアナさん」
挨拶した少女は────レイナと言うらしい。
「私は向かう途中なんだけど、レイナは和国に帰るの?」
「はい。修行の終了期限がきましたから。一緒に行きますか?」
「そうねぇ……。一緒の方が良いわね。じゃあ、私のテントに来ると良いわ」
そう言って、リリアナが外に出ようと小屋の入口に向かうと、その近くに立っていたアルディーの体にリリアナが軽くぶつかった。
「あっ……ごめんなさいね?────ってアルじゃない」
「───よう。今日は依頼の関係か?」
「違うわ。人に会いに和国オウラに向かってるの。アルは依頼?」
「ああ。さっき報告してきた。今は野営場所まで戻るところだ」
「野営場所?この村の中ではないの?」
「ああ。ここからそんな離れた場所じゃないんだが、連れが入りたがらなくてな。メシ作って待ってるから、もう戻るんだ」
じゃあな、とアルディーは右手を上げて出口に向かって歩いていく。
「アルに連れが……?メシって……女?」
驚きの表情で少しの間、動きが止まる。
「リリアナさん?」
レイナの声にはっとして振り返り、何でもないように笑う。
「ごめんね、ちょっと驚いただけ。じゃあ、テントで待ってるわね」

リリアナはそう言い、手をヒラヒラと振りながらテントに向かって行った。
レイナはその姿を見送ると少し首を傾げたが、広げた寝袋を畳んでその後ろを追って行った。




△▲△▲△


    陽が落ちた暗がりの林の中へ足を踏み入れたアルディーは、声のする方へと歩いていく。
リンとルチアが何やら楽しげに会話をしているようで、アルディーの近付く気配に気付いていないようだ。

「水の音…………?」
パシャパシャと水の跳ねる音がする。
そのままゆっくりとアルディーが近付くと、話し声がはっきり聞こえてきた。
一定の距離を保って、近くの木に寄りかかる。土で作られた壁と湯気が見えたからだ。
近付いたらマズイ気がする。
そのまま、出来るだけ気配を消しておく。


「はぁー……。今日は流石に『クリーン』は使いたくなかった」
『気持ちいいのー♪』
「グルルゥ♪」
「ルディはいつ頃戻ってくるのかな?」
『分からないの。リン、この世界の生活に馴染めたの?』
「うーん……。まだ微妙かなー。体はスキルや魔法を使うのに漸く馴染めたって感じ。魂が完全に馴染むまでは、もうちょっと掛かるんじゃないかな?
あ、それに、女神の森でネアお爺ちゃんやリーシア様にこの世界の事を学んだけど、細かいところがどうしても情報不足なのよね」
『そだねーなの。ねえ、アルディーに話しちゃえば?なの』
「ダメだよ。ルディを巻き込むわけにはいかないもの」

アルディーは、聞こえてきた会話から、何となく分かっていたリンの正体が掴めてしまった。この世界に時折現れる、落ち人。もしくは転生者。
話の内容から考え付くのは、後者だろう。
(そういう関係の仕事やってる奴からの忠告を守るか)
そっとその場から離れ、アルディーは聞かなかった事にする。


    リン達がいる場所から少し離れ、気配をじわりじわりと感じ取れるように出す。
「リン、いるのか?」
バシャンッ!と水音が大きく聞こえた。
アルディーは聞こえないようにクツクツ笑う。
「ル、ルディ!?まっ、待って!そこでストップ!」
激しい水音がした後、しばらく待っているとリンが壁の向こうから恥ずかしそうに出てきた。いつもの装備だ。

「お帰りなさい。いつ帰ってきたの?」
「さっきな。姿が見えないんで声を上げたんだが……驚かせたか?」
「…………うん。お風呂入っていたからそれなりに」
「風呂?そんなものここには────ってもしかして」
「うん。作ったの」
クリーンの魔法じゃ、ちょっと我慢出来なくなってて、とリンが続ける。
「ったく……。危険だって分かってるのか?」
「分かってるよ。結界張って入ってた。───それより、ご飯食べる?」
「ああ、食べる。────リン、もう少し危機感を持て」
俺じゃなかったらどうするんだ、とアルディーがどんどん説教臭くなっていく。
野営場所まで着くと、今度は夕飯を頬張りながらくどくどリンに言い聞かせる。

(そんなに言わなくても良いのにー!)

心の中で叫びながら、アルディーの食事の世話をしながら説教を甘んじて受ける、リン。
「───兎に角、これから入るときは声をかけてくれ。俺がいない内は心配だ。それと、ギルドでちょっと絡まれてな。『連れがいる』って言っちまったから、周囲が誤解したらすまん」
ごちそうさん、とアルディーは言葉を続け、リンは食べ終わった食器を《ウォッシュ》で綺麗に洗ってポーチにしまった。

「…………分かった」

ちょっと納得いかない気もするが、しぶしぶ従う。
それで落ち着いたアルディーは軽く息を吐く。

「まあ、説教はこれで終わりとして。──────俺も入って良いか?」

ニヤリと笑ったアルディーの言葉に、呆れた眼差しを向けたリン。

「良いですよ」

仕方ないですね、と少し唇を尖らせたリンだったが、アルディーに苦笑で返す。風呂へと向かうアルディーの背中を、リンはじっと見ていると、アルディーが立ち止まって振り返る。
「───覗くなよ?」
「なっ!?───覗きません!」
リンが赤くなる反応を見て、アルディーがクククッと笑って木の向こうへと姿を消した。

「むぅ!からかわれたっ!」

リンはムキーッ!と小さく叫ぶと、就寝の準備をしてリコラとルチアと共に先に寝てしまうのだった。






───────この後、夜中の轟音で全員目を覚ますことになる。
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