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第1章 旅立ちと怒涛の出会いは濃い始まり?編
10.訓練と旅支度
しおりを挟む異世界に来て、3ヶ月が経った。
東のエリアでレベル上げが物足りなくなってきた鈴霞は、北のエリアでレベル上げに専念。
北のエリアの魔物相手でも苦戦しなくなってきていた。
魔力操作に関しては、魔力を気功の応用で練気を続け、最初の1カ月を費やした。コントロール出来るようになってから魔闘気術に変更し、レベル上げの合間で更に1ヶ月の時間をかけた。
その隙間の時間を使って、旅に持って行く為の食料作りも欠かさず、食用に適している魔物の肉をベーコンやハム等にして大量に作りおき。アイテムポーチの時間停止機能があるから、袋に纏めて入れておけば食材自体が傷むことはない。
今日も朝早くに起きて顔を洗い、外に出る。刀術の鍛練は毎朝の日課だ。木刀は初めてこの世界に来た数日後、小屋の玄関先に何故か置いてあった。
鍛錬以外に利用していなかったのだが、一度チルチルに急かされて、森の中へ持ち込んだことがあった。
魔物に遭遇して、思わず木刀で叩き殺してしまったのだが、破損しなかったのだ。
不思議な木刀で、その後も何度か持ち込み、魔物に投げつけたり、魔物を叩きつけてみたり……。魔闘気を流せば切れ味が増し、その魔闘気を大量に流し込んでも壊れない。血が付着しても一度振れば綺麗に取れる。一体何で出来ているのか。気になって鑑定しても『硬い木から出来た木刀』としか表示されないのだ。
その木刀を振るって一通りの鍛練を済ませると、胡座で座り目を閉じ、練気を始める。魔力と闘気が混じり合う魔闘気術は、闘気と魔力を一定に保ち、緩やかに混ぜて魔闘気に変換しなければならない。ここ3ヶ月で無駄に魔闘気を使っていたのも、滑らかに発動出来るまでになり、消費を最小限まで抑えられるように。更にうっすらと纏う所まで出来るようになった。
1時間程その訓練に集中し、鈴霞は目を開ける。
「魔力操作や魔闘気術は使いこなせるようになったから良いとして……そろそろ上級の魔法やってみよう。加減が出来ないと、余計なトラブルに巻き込まれそうだしねぇ~」
鈴霞は掌に魔力を集める。
魔力が集まってきたところで、指先へと移動させる。
「……よし。ファイア」
言葉にした瞬間、指先に小さな炎が出た。ゆらゆらと揺れている。
それを鈴霞はじっと見る。
炎の大きさを変え、色を変えて威力を調整する。
「うん、上手くいった。後は他の属性に応用出来れば完璧とまではいかなくても何とかなりそうね」
ゆっくりとそれぞれの属性のイメージを膨らませ、次々に属性を変え、形を変える。大きく発動させても良いのだが、この中心部を傷付ける訳にもいかない。
その動作を終えると、大きく深呼吸をする。
「チルル!」
落ち着いたところを見計らったようにして、チルチルが姿を現した。
「おはよう!チルチル」
「チル!」
鈴霞の肩に留まって、頭を頬に擦り付けてくる。鈴霞が未だにチルチルと呼ぶのは、チルチルがただ気に入って一緒にいるだけの状態だからだ。
「チルチル、私ね。明日ここから旅に出ようと思うの。だから今日で最後かな。一緒に過ごせて楽しかったよ!また遊びに来るから忘れないで元気でいてね?」
「チルル……?」
微笑みながら首を傾げるチルチルの頭を撫でると、鈴霞は木刀を持って森の方へと歩き出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ザシュッ!ドサドサッ!
「ふぅ……。この辺りの魔物の強さに慣れてきたわね。レベルもそれなりに上がったし……もう少ししたら旅立てそうだわ」
ヒュッと便利な木刀を振って血糊を飛ばし、辺りを見回す。魔物─────オークの死体が5体転がっていた。
今日の森での戦闘は食料確保を目的にしている。森の東のエリアは低レベルの魔物と食料としての魔物が多く生息。高レベルの強い魔物が生息する森の北のエリアがレベルアップに適している。高級食材の魔物は北のエリアだ。
魔物を倒す際に初めは躊躇があったが、3ヶ月間続けていると、慣れか精神耐性のスキルのお陰か。現在の気分は落ち着いている。
人に対してどうなるかは、まだ分からないのだが。
「鑑定は便利だわ。私よりレベルが上の人達のは見えるか分からないけど、食べれるかどうかが解るのは助かるし。オーク肉って異世界の定番よね。ゴブリンと同じで女性襲うのが厄介だけど」
鈴霞は呟きながら、血抜きをして解体していく。この森で解体を何度もやっているので、手慣れたものだ。
「チルル!」
解体している途中で、チルチルは相変わらず鈴霞に魔石をお願いし、オークの魔石を咥えて去っていった。
「チルチルはぶれないわねー」
クスクス笑いながら解体を終わらせ、近くに穴を掘って素材などにならない物を焼却して埋めてしまうと、ポーチの中に解体した肉を詰めて立ち上がる。
「さて……。食料の確保も出来たし、小屋に戻ってそろそろ旅立つ準備をしなくちゃ」
その前に朝食ね、と言いながら小屋へと戻り、食事の仕度を始めることにする。
ここ3ヶ月、小屋のキッチンに置かれた調味料類で随分と助かっている。
ちょっと不満を言うなら、全てビン詰めという状態か。
「今日の朝食は……オーク肉の生姜焼きと森で採れたキノコのお味噌汁かな」
鼻歌混じりに朝食を手早く作り上げると、テーブルに運んだ。
「いただきます。──異世界だけどこの味付け最高♪」
椅子に腰掛けて手を合わせ、食べ始める。ご飯が無いのが残念だ。
ご機嫌で食事をしながら今後の事に思考を巡らせる。ゆったりと時間を掛けて朝食を食べ終え、食器を片付ける。
高校を卒業し、今まで仕事と本を読む事にばかり時間を費やしてきた。あの頃の自分を忘れていられるように。
「この10年、こんなに充実した時間を持ったこと無かったのよね……。まぁ、これから時間に囚われることも無いからまったりと旅を楽しみましょ。あいつらに会えるわけじゃないもんね」
装備の確認しないと、と呟きながらリビングに移動してあの装備品一式を出す。
「──────よし、鑑定!」
ドキドキしながらスキルを発動して、結果に驚いて目を見開いた。
武器:黒龍雪花(神刀。創世神ラムネアが孫娘に作った愛情の一刀。使用者固定、自動修復、破壊不可)
防具:黒龍の衣(女神リーシアのお手製。物理攻撃と魔法攻撃のダメージを90%軽減。自動修復、使用者固定)
黒狼のレギンス(敏捷最大UP、物理防御50%UP、自動修復、使用者固定)
黒狼のブーツ(物理防御30%UP、自動修復、使用者固定) エアリアルローブ(認識阻害、自動修復、温度自動調整、使用者固定)
アクセサリ:月光石のピアス(魔力回復速度UP、使用者固定) ジュエルリング(無限収納、時間停止、使用者固定)
「何でこんな装備を……。まぁ、これから先どんなことあるか分からないから仕方ないんだろうけど。何でポーチ有るのに無限収納?過保護過ぎる。あ、だけど無限収納は食材しまうのに大助かりかも」
驚きつつも、ひとつずつ装備していく。
「こんな可愛い装備なのに、強すぎでしょ……。取り敢えず、『ステータス』」
名前:遠宮鈴霞(トオミヤ リンカ)
性別:女
AGE:15
種族:人族
職業:魔刀剣士
LV:50
HP:3200《+25000》
MP:3450《+25000》
属性:火 水 土 風 聖 闇 無 時空
スキル:刀剣術 武闘術 魔闘気術 無詠唱 練気 隠蔽 鑑定 威圧 家事 索敵 状態異常無効 精神耐性 全言語理解
称号:創世神が後見する者 転生者
加護:創世神ラムネアの加護《孫娘》
武器:神刀・黒龍雪花(こくりゅうせっか)
防具:黒龍の衣・黒狼のレギンス・黒狼のブーツ・エアリアルローブ
アクセサリ:月光石のピアス・ジュエルリング
「この見た目ならそこまで違和感無いよねぇ」
鏡の前でクルリと1回転。黒髪に青みがかった黒い瞳。顔立ちは本当に前世の頃より女の子らしい。
目立つ顔立ちはトラブルのもとなんだけど……仕方ない。ソファに腰掛け、そろそろ独り言も飽きてきたなぁ……と呟いていると近くの空間がゆがむ。
「おぉ、鈴霞殿おはようじゃ。丁度良かったようじゃの。準備はどうじゃ?」
「あ、ネアお爺ちゃんおはようございます。準備は大体出来ました。明日の朝出発しようかと。だけど、こんな装備貰って良いの?」
「ふぉっふぉ。良いんじゃ良いんじゃ。良く似合って可愛いの。明日か~……寂しくなるのう。明日は見送りに来るぞい」
可愛い孫娘の旅立ちじゃ~!と機嫌良く叫ぶネアを、苦笑混じりに見る鈴霞。
この時、鈴霞はネアから聞かされた『鈴霞の事を知っている者がいる』という言葉をすっかり忘れ、のちに驚くことになろうとは誰も知らない。
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