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苦しみの町
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夜。楓は自室でベッドに腰掛け、考え事をしていた。といって、難しいことを考えていたのではない。昔体験した少し不思議な出来事を思い出していたのだ。楓はまだ幼かったころに一度だけおかしな町に迷い込んだことがあったのだ。今となってはもう夢かもしれないその出来事を楓は決して忘れることができなかったのだ。
幼い楓が体験したのはこんな出来事だった。
それは冬の夕暮れのことだった。楓は友達と遊び終わり、いつもと同じように家に帰ろうとしていた。すると、どこで道を間違えたのか見知らぬ路地に迷い込んでしまった。それは高い建物に両側を挟まれた、暗く、とても寒い路地だった。しかし、不思議と恐怖はなかった。早く家に帰りたい一心であったのだ。どこをどう歩いたのかわからないが、楓はひたすらにその路地を進んだ。細い道を右に曲がり、少し開けた道を左に折れ、楓は束の間の冒険を楽しんだ。やがて、その路地にも終わりが見えてきた。前方に広場のような場所が見えてきたのだ。楓はそこへ駆けた。
その開けた場所は、中央に人口の池のようなものがあり、その中心には大きなオブジェが建っていた。シンプルな円錐形のそれは石膏のようなものでできているらしかったが、あちこちが欠けており苔や汚れによって、本来の純白の色は失われていた。楓はそのオブジェが据えられている人工の池をのぞき込んでみた。内側の壁には汚れが広がり、底はヘドロのようなものに覆われ、わずかばかり溜まっている水は腐敗してひどい臭いを発していた。楓はその人工の池のようなものとオブジェは朽ちてしまった噴水であると気が付いた。かつては澄んだ水を湛え、清らかな水を噴き出していたであろう噴水も見る影もないほどに朽ちてしまっていた。どれ程の間、放置されていればこれほどまでになってしまうのだろうか。そんなことを考えているうちに、楓は気分が悪くなりそこを離れた。
近くに簡素なベンチを見つけた。楓はそのベンチに噴水に背を向けるようにして腰掛けた。まだ、楓の鼻腔の奥に腐敗した水のにおいがこびりついていた。一つ、小さなため息をつくと疲れが一気に襲ってきた。ひどく寒かった。ほとんど沈みかけた夕日が辺りに敷き詰められた黒い石畳に不気味に反射していた。
「ねえ、何してるの」
ふと、後ろから声をかけられた。座ったまま振り向くと、青年が一人立っていた。とても整った顔立ちの青年で、さらさらとした肩にかからないほどの髪であった。声で何とか男性だと分かるものの、外見上は女性にも見えるほどであった。しかし、いくつか不自然なところがあった。目には疲弊の色が現れ、くまも目立ち、体つきも華奢であった。凡そ健康体には見えなかった。また、厚いコートを着ている楓でさえも凍えてしまいそうな寒さであったが、この青年は薄手のシャツ一枚しか着ていなかった。青年はじっと楓の顔を見ていた。そして、「隣、いいかい」と再び楓に声をかけた。楓が承諾すると、彼は楓の隣に腰掛けてこう続けた。
「君、迷い込んじゃったんだろ。こんな町、来ようと思って来られるとこじゃないし、来ちゃいけないんだよ。特に、君みたいないい子はね」
青年は楓に少し笑顔を見せた。楓は少し躊躇しながらも、ここがどこなのか、尋ねた。
「ここはね、苦しみの町だよ。本当の名前は違うけど、僕はそう呼んでる。とても悲しくて、馬鹿な町だよ」
楓は何も言えなかった。青年はとても悲しそうな顔をしていた。楓は青年の顔をぼんやりと見つめていたが、やがてなぜ青年がこの町を「苦しみの町」と呼ぶのか尋ねてみた。
「うん、それじゃあ、ちょっと長くなるけど話そうか。でも、君はあんまり長いこと、ここにいてはいけないんだ。だからこの後にはきっと帰るんだよ。」
青年は諭すように言うと、こう続けた。
「ここも昔はいい町だったんだ。でもいつ頃からかな。町の人の心に深い悲しみが生まれ始めたんだ。この広場の真ん中に噴水の跡があったろう。あれが元凶なんだ。あれがね、悲しみをばら撒いてるんだよ。それも、ひどい悲しみをね。それにあてられると、心が悲しみでいっぱいになるんだ。そして、その悲しみはいろんな形になって人を狂わせていくんだよ。何をするにも悪いことをしてるような気がしたり、ほかの誰よりも自分が駄目な人間のような気がしたりね。その感情に支配されてしまったら、人はどうなると思う」
楓には答えられなかった。答えたくなかった。
「苦しみを求めるようになるんだよ。それも自分からね。もう、この町にはそうなってしまった人しか残ってないよ。僕も、いろんな人を見てきたけど、おかしな人ばかりさ」
そこまで話すと青年はしばらく黙ってしまったが、やがて大きなため息を一つついてから続けた。
「例えば、この町の食事なんか、ひどいものだよ。みんなが食べるのは腐った果物やほんのわずかの粟なんかさ。飲むものは汚い泥水ばかり。実は、これでもまだいい方でね、ひどくなったら灰しか食べなくなるんだよ。普段の君と同じような食事をしてる人なんて、この町にはもういないよ」
楓はその青年が何を食べているのか、気にはなったもののそれを聞く気にはなれなかった。
「そんな食事をしながら、この町の人は一日中、身体と心をぼろぼろにするんだ。いろんな方法でね。体中にナイフで傷をつけたり、腕に釘を打ったり、自分で目を潰したり。ひどいだろ。ほかにも、自分の悪口をひたすらノートに書き留めたり、いかに自分が駄目な人間であるか、大声で喚き散らしたりね。中でも一番酷いのは」
青年はそこまで話すと、少し項垂れた。辺りはすっかり暗くなっていたため、楓はうまく青年の表情を読み取ることができなかった。しかし、そのために楓は少し安心もした。青年は楓のほうに目を向け、呟くように言った。
「一番酷いのは、愛する人を殺すことかな」
楓はそういって少し笑顔になったかのように見えた青年の表情に恐怖した。
「さて、どうしてこの町の人がそんな風に苦しみを追い求めるようになったのか、わかるかい」
青年は楓の返答を待たずして続けた。
「みんな、安心したいんだ。そして幸せになりたいんだよ。この町の人は苦しみを感じていればいつか幸せになれると思い込んでるんだ。そして、どれだけの苦しみを感じたかで、その人の価値が決まるって信じてるんだ。だから彼らは喜んで灰を食べるし、泥水を飲む。そして一日中自分を傷つけるんだ。幸せになろうとしてね。みんな幸せになろうとして、不必要に苦しみを求めるんだ。町ではたくさんの人が自分の苦しみを自慢して、それで他人を見下して、何とか自分の価値を保とうと必死なんだよ。だから、この町には苦しみしかないんだよ。悲しいだろ。本当の幸せはきっと、苦しみや悲しみから生まれるものじゃないはずなのにね」
青年はそういうと一言「嗚呼」と漏らした。楓はしばらくの間、何も言えず、ただ黙って青年の隣に座っていた。表現し難い暗い感情が楓の胸に広がっていた。しばらくして、青年はベンチから立ち上がり、楓の正面に立った。
「さあ、そろそろお帰り。あの細い道をずっと行けば、元の道だよ」
そう言って彼は広場の隅を指さした。楓は立ち上がり、心に暗い感情を宿したままで青年に向き合った。青年に礼を告げた。その途端、楓は気が付いた。いや、どうして今まで気が付かなかったのか。日は完全に沈み、満月が出ていた。その柔らかな明かりに包まれた世界の中、青年の姿はやけにはっきりと見えた。青年の左腕があるはずのシャツの袖が冷たい風に靡いていた。
彼には左腕が、無かったのだ。
楓は怖くなり、呆然としていた。それを察したのか、青年が気まずそうな顔をして言った。
「この腕のことは、君には言わないでおくよ。さあ、行きな。もう来ちゃだめだよ」
そして、青年は優しく「じゃあね」とつぶやいた。楓は青年が示した道へと歩き出した。振り向くと、青年が笑顔で手を振っていた。楓はふと、気になった。自分は青年の名前を知らなかった。大したことではなかったものの、大きな声で青年に呼び掛けた。
「あの、お兄さんの名前、教えてください」
青年も少し、大きな声で答えた。
「ああ、自己紹介してなかったね。僕はカエデっていうんだ」
楓はもう、その後のことは覚えていない。ひたすら走り続けて家にたどり着いたように思う。
これがすべてだ。幼いころの夢かもしれない。仮に本当の出来事であったとしても、なんでもない。楓はよくわからない悲しみを抱いたまま、部屋の電気を消し、布団へともぐりこんだ。なんでもない。なんでもない。
幼い楓が体験したのはこんな出来事だった。
それは冬の夕暮れのことだった。楓は友達と遊び終わり、いつもと同じように家に帰ろうとしていた。すると、どこで道を間違えたのか見知らぬ路地に迷い込んでしまった。それは高い建物に両側を挟まれた、暗く、とても寒い路地だった。しかし、不思議と恐怖はなかった。早く家に帰りたい一心であったのだ。どこをどう歩いたのかわからないが、楓はひたすらにその路地を進んだ。細い道を右に曲がり、少し開けた道を左に折れ、楓は束の間の冒険を楽しんだ。やがて、その路地にも終わりが見えてきた。前方に広場のような場所が見えてきたのだ。楓はそこへ駆けた。
その開けた場所は、中央に人口の池のようなものがあり、その中心には大きなオブジェが建っていた。シンプルな円錐形のそれは石膏のようなものでできているらしかったが、あちこちが欠けており苔や汚れによって、本来の純白の色は失われていた。楓はそのオブジェが据えられている人工の池をのぞき込んでみた。内側の壁には汚れが広がり、底はヘドロのようなものに覆われ、わずかばかり溜まっている水は腐敗してひどい臭いを発していた。楓はその人工の池のようなものとオブジェは朽ちてしまった噴水であると気が付いた。かつては澄んだ水を湛え、清らかな水を噴き出していたであろう噴水も見る影もないほどに朽ちてしまっていた。どれ程の間、放置されていればこれほどまでになってしまうのだろうか。そんなことを考えているうちに、楓は気分が悪くなりそこを離れた。
近くに簡素なベンチを見つけた。楓はそのベンチに噴水に背を向けるようにして腰掛けた。まだ、楓の鼻腔の奥に腐敗した水のにおいがこびりついていた。一つ、小さなため息をつくと疲れが一気に襲ってきた。ひどく寒かった。ほとんど沈みかけた夕日が辺りに敷き詰められた黒い石畳に不気味に反射していた。
「ねえ、何してるの」
ふと、後ろから声をかけられた。座ったまま振り向くと、青年が一人立っていた。とても整った顔立ちの青年で、さらさらとした肩にかからないほどの髪であった。声で何とか男性だと分かるものの、外見上は女性にも見えるほどであった。しかし、いくつか不自然なところがあった。目には疲弊の色が現れ、くまも目立ち、体つきも華奢であった。凡そ健康体には見えなかった。また、厚いコートを着ている楓でさえも凍えてしまいそうな寒さであったが、この青年は薄手のシャツ一枚しか着ていなかった。青年はじっと楓の顔を見ていた。そして、「隣、いいかい」と再び楓に声をかけた。楓が承諾すると、彼は楓の隣に腰掛けてこう続けた。
「君、迷い込んじゃったんだろ。こんな町、来ようと思って来られるとこじゃないし、来ちゃいけないんだよ。特に、君みたいないい子はね」
青年は楓に少し笑顔を見せた。楓は少し躊躇しながらも、ここがどこなのか、尋ねた。
「ここはね、苦しみの町だよ。本当の名前は違うけど、僕はそう呼んでる。とても悲しくて、馬鹿な町だよ」
楓は何も言えなかった。青年はとても悲しそうな顔をしていた。楓は青年の顔をぼんやりと見つめていたが、やがてなぜ青年がこの町を「苦しみの町」と呼ぶのか尋ねてみた。
「うん、それじゃあ、ちょっと長くなるけど話そうか。でも、君はあんまり長いこと、ここにいてはいけないんだ。だからこの後にはきっと帰るんだよ。」
青年は諭すように言うと、こう続けた。
「ここも昔はいい町だったんだ。でもいつ頃からかな。町の人の心に深い悲しみが生まれ始めたんだ。この広場の真ん中に噴水の跡があったろう。あれが元凶なんだ。あれがね、悲しみをばら撒いてるんだよ。それも、ひどい悲しみをね。それにあてられると、心が悲しみでいっぱいになるんだ。そして、その悲しみはいろんな形になって人を狂わせていくんだよ。何をするにも悪いことをしてるような気がしたり、ほかの誰よりも自分が駄目な人間のような気がしたりね。その感情に支配されてしまったら、人はどうなると思う」
楓には答えられなかった。答えたくなかった。
「苦しみを求めるようになるんだよ。それも自分からね。もう、この町にはそうなってしまった人しか残ってないよ。僕も、いろんな人を見てきたけど、おかしな人ばかりさ」
そこまで話すと青年はしばらく黙ってしまったが、やがて大きなため息を一つついてから続けた。
「例えば、この町の食事なんか、ひどいものだよ。みんなが食べるのは腐った果物やほんのわずかの粟なんかさ。飲むものは汚い泥水ばかり。実は、これでもまだいい方でね、ひどくなったら灰しか食べなくなるんだよ。普段の君と同じような食事をしてる人なんて、この町にはもういないよ」
楓はその青年が何を食べているのか、気にはなったもののそれを聞く気にはなれなかった。
「そんな食事をしながら、この町の人は一日中、身体と心をぼろぼろにするんだ。いろんな方法でね。体中にナイフで傷をつけたり、腕に釘を打ったり、自分で目を潰したり。ひどいだろ。ほかにも、自分の悪口をひたすらノートに書き留めたり、いかに自分が駄目な人間であるか、大声で喚き散らしたりね。中でも一番酷いのは」
青年はそこまで話すと、少し項垂れた。辺りはすっかり暗くなっていたため、楓はうまく青年の表情を読み取ることができなかった。しかし、そのために楓は少し安心もした。青年は楓のほうに目を向け、呟くように言った。
「一番酷いのは、愛する人を殺すことかな」
楓はそういって少し笑顔になったかのように見えた青年の表情に恐怖した。
「さて、どうしてこの町の人がそんな風に苦しみを追い求めるようになったのか、わかるかい」
青年は楓の返答を待たずして続けた。
「みんな、安心したいんだ。そして幸せになりたいんだよ。この町の人は苦しみを感じていればいつか幸せになれると思い込んでるんだ。そして、どれだけの苦しみを感じたかで、その人の価値が決まるって信じてるんだ。だから彼らは喜んで灰を食べるし、泥水を飲む。そして一日中自分を傷つけるんだ。幸せになろうとしてね。みんな幸せになろうとして、不必要に苦しみを求めるんだ。町ではたくさんの人が自分の苦しみを自慢して、それで他人を見下して、何とか自分の価値を保とうと必死なんだよ。だから、この町には苦しみしかないんだよ。悲しいだろ。本当の幸せはきっと、苦しみや悲しみから生まれるものじゃないはずなのにね」
青年はそういうと一言「嗚呼」と漏らした。楓はしばらくの間、何も言えず、ただ黙って青年の隣に座っていた。表現し難い暗い感情が楓の胸に広がっていた。しばらくして、青年はベンチから立ち上がり、楓の正面に立った。
「さあ、そろそろお帰り。あの細い道をずっと行けば、元の道だよ」
そう言って彼は広場の隅を指さした。楓は立ち上がり、心に暗い感情を宿したままで青年に向き合った。青年に礼を告げた。その途端、楓は気が付いた。いや、どうして今まで気が付かなかったのか。日は完全に沈み、満月が出ていた。その柔らかな明かりに包まれた世界の中、青年の姿はやけにはっきりと見えた。青年の左腕があるはずのシャツの袖が冷たい風に靡いていた。
彼には左腕が、無かったのだ。
楓は怖くなり、呆然としていた。それを察したのか、青年が気まずそうな顔をして言った。
「この腕のことは、君には言わないでおくよ。さあ、行きな。もう来ちゃだめだよ」
そして、青年は優しく「じゃあね」とつぶやいた。楓は青年が示した道へと歩き出した。振り向くと、青年が笑顔で手を振っていた。楓はふと、気になった。自分は青年の名前を知らなかった。大したことではなかったものの、大きな声で青年に呼び掛けた。
「あの、お兄さんの名前、教えてください」
青年も少し、大きな声で答えた。
「ああ、自己紹介してなかったね。僕はカエデっていうんだ」
楓はもう、その後のことは覚えていない。ひたすら走り続けて家にたどり着いたように思う。
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