空想街見聞録

時津橋士

文字の大きさ
上 下
11 / 20

聖夜代書

しおりを挟む
 もちろん、あなた方はサンタクロースをご存じでしょう。十二月二十四日の深夜にトナカイの引く橇に乗って世界中の人々にプレゼントを配って回るというあの老人。その白髭赤服の老人からの頼みで私はこの文書を作成することになったのです。私もあなた方同様、サンタクロースの友人ですから。
 不思議なことに最近ではサンタクロースの存在を疑っている方が少なくないそうです。その名を聞けば私達はすぐに彼のことを思い起こすことができるというのに、実に不思議なことです。ですから私はこの短い文書の書き始めにあたって、当然の事実を一つ、述べておきます。サンタクロースは本当に存在しています。そしてこの代書を通して彼は、私は、世界中の人々に彼の本当の行いを伝えようというのです。

 聖夜、サンタクロースは私達の良く知った格好で橇に乗り、トナカイに命じて空を駆け、人々にプレゼントを渡して回る。これは良くご存じのことでしょうし、事実です。しかし、私はここに、二つの注釈をつけておきます。
 第一にサンタクロースは「良い子供」の所だけにではなく、クリスマスを過ごす全ての人々のもとに訪れるのです。そこに善悪や年齢は関係しないのです(こんなことをいうと決まってサンタクロースが時速何キロメートルで橇を操っているか、などという計算をしたがる人がいますが、彼は世界中のあらゆる場所に同時に存在することができるのです。あまり知られていませんがね)。
 第二の注釈はあの恰幅の良い柔和な老人が私達にくれるプレゼントについて。本当に彼がくれるプレゼントは実体を伴った物ばかりとは限らないのです。それは銀河のような霧であったり、安らぎを放つ暖炉の火であったりすることもあります。きっとあなた方にも覚えがあるでしょう。クリスマスの町がイルミネーションに彩られ、誰かへのプレゼントを抱えた人々が行き交う様を見て、心に銀河の霧が広がるのを。街角の小さな喫茶店でレコードから流れる異国のクリスマスソングを聞きながら紅茶とシュトーレンを楽しむ最中、心に魔法の暖炉の火が灯るのを。これらはみんなサンタクロースからのプレゼントなのです。

 あなた方は今年、どれくらいのプレゼントを彼から受け取ったでしょうか。私は実にたくさん受け取りました。時間があれば、それらを一つ一つ自慢したいのですが、聖夜を楽しむという重大な仕事がありますから、この辺りで筆をおくことにいたします。
 
 世界中にメリークリスマス。今夜、世界中にプレゼントを配って回る私の友人にも、メリークリスマス。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

『脆弱能力巫女の古代女王「卑弥呼たん」門真市ニコニコ商店街に転生す!』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。 今回は、いつもの「ニコニコ商店街」と「こども食堂」を舞台に「邪馬台国」から「女王 卑弥呼たん」がなつ&陽菜の「こっくりさん」で召喚! 令和の世では「卑弥呼たんの特殊の能力」の「予言」も「天気予知」も「雨乞い能力」もスマホや水道の前には「過去の遺物」(´・ω・`)ショボーン。 こども食堂で「自信」を持って提供した「卑弥呼たん」にとっての最高のご馳走「塩むすび」も子供達からは「不評」…( ノД`)シクシク…。 でも、「女王 卑弥呼たん」はくじけない! 「元女王」としてのプライドをもって現代っ子に果敢にチャレンジ! いつぞや、みんなの人気者に! そんな「卑弥呼たん」になじんだ、こども食堂の人気者「陽葵ちゃん」に迫る魔の手…。 「陽葵ちゃん」が危機に陥った時、「古代女王 卑弥呼たん」に「怒りの電流」が流れる! 歴史マニア「赤井翼」の思う、「邪馬台国」と「卑弥呼」を思う存分に書かせてもらった「魏志倭人伝」、「古事記」、「日本書記」に「ごめんなさい!」の一作! 「歴史歪曲」と言わずに、「諸説あり」の「ひとつ」と思って「ゆるーく」読んでやってください! もちろん最後は「ハッピーエンド」はお約束! では、全11チャプターの「短期集中連載」ですのでよーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

少女と三人の男の子

浅野浩二
現代文学
一人の少女が三人の男の子にいじめられる小説です。

第1000回全国高等学校野球選手権記念大会

buf
ライト文芸
2918年、行われた第1000回甲子園。時の流れ、社会の流れに合わせて高校野球も変わりゆく。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小説練習帖 七月

犬束
現代文学
 ぐるぐる考えたけれども、具体的な物語が思いつかないので、焦っております。  人物造形もあやふややし。  だけど、始めなければ、『否応なしに』。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...