Lost Precious

cure456

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#5

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「これで――全部かな?」

 村の周囲に居たゴブリンを全て倒し終えても、レンは汗一つ流していない。
 勇者の際に身に着けていた立派な鎧も、聖剣もない。
 武器屋で買った平凡な長剣と軽装だけ。
 しかしそれでも、レンにとってゴブリンの群れ程度は肩慣らしにすらならなかった。

「だろうな。他に気配はない」

 リアンは心底嫌そうな表情で剣についた血を拭っている。
 湾曲した刃を持つその剣はまるで大鎌の様でもある、珍しい武器だ。


「本当に助かりました。この村は年寄りばかり。ゴブリンにも手を焼く始末で」 

 村長が満面の笑みで二人を迎える。後ろに控える村人も、高齢者や女性が多く見受けられた。
 若い働き手が都市部に出稼ぎに行き過疎化が進む。
 この村に限った事ではない。農村部の宿命だろうか。 

「いえ、こちらこそ。後これ、ゴブリンが嫌う薬草を煎じた物です。村の入り口にでも撒いておけばしばらくは安心でしょう」

「良いのかい? 本当にありがたい。報酬も満足に払えんし、ゴブリン退治は中々受け手がおらんで。これも女神のお導き。お二人はこの村の救世主です」

「そんな。大袈裟ですよ」

「それにしても、最近は本当にゴブリンが多い。魔王を倒しても、魔族はいなくならんもんですな」 

 村長の何気ない一言に、レンの表情が強張った。

「……そんなに……多いんですか?」

「前よりは増えた気がしますな。狂暴な魔物は少なくなったと聞くし、実際その通り。その代わり、ゴブリンやらが悪さをする様になりましたわ」

 レンの拳が固く握られる。リアンは唯一人、其れを見逃しはしなかった。

「いや、こんな事を言っては罰が当たりますな。折角命を懸けて魔王と戦ってくれた勇者様達に申し訳がない。忘れてくだされ」
「――もう行くぞ。それでは失礼する」

 リアンが背を向けて歩き出す。レンは村長に一礼すると、追いかける様に歩き出した。


 街道を歩く二人の間に会話は無い。
 心なしか、周りの空気も重く感じる。

「僕の……所為だね……」

 後ろを歩くレンが、呟く様に口を開いた。その表情は暗い。

「ああ。お前の所為だ」 

 それはきっと、レンの求めていた答えではなかったのかもしれない。
 聞こえない振りをする選択肢もあった
 だが、何度聞かれてもリアンはきっとそう返答するだろう。
 そんな自分の性格を、リアンは少しだけ嫌悪した。

 二人の距離は縮まらない。
 吹き抜ける風は少し冷たかった。
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