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真相

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「監禁されてるのにどうしておっきさせてるんですか? とんだドMですね」
「馬子!」
 挨拶代わりの毒を吐きながら、彼女が呆れたように笑った。
「助かった……。ってかどうして?」
「詳しい話は後でします。とりあえずここを出ましょう」
 拾い上げた鍵で手枷を外す彼女に、心から安堵したその時だった。

「やっぱりそう言うことか」
 暗闇から聞こえた声に一瞬驚くも、現われたのは狼牙と山棟蛇。
 心なしか、どこか険しい顔をしている。
「愛染。お前をハメたのは多分そいつだ」
「えっ!? はは……まさか、冗談にも――」
 程がある、と言い終わる前に、突然馬子が走り出した。
 その場から逃げるように。

「スネーク!」
 狼牙が叫ぶとほぼ同時に、山棟蛇の鞭が馬子の足を絡め取る。
 激しく転倒した馬子を、器用な鞭さばきで緊縛した。
 ――亀甲縛りですよねそれ。
 それと、スネークって何ですか?

「ど、どういう事……?」
「まぁ。その子が言うとおり説明は後だな。一旦厩舎に戻るぞ」
 謎の展開に思考が追いつかない。
 縛られた馬子をひょいと担ぎ上げるその姿はあまりにもシュールすぎた。

 厩舎に戻り、山棟蛇がもう一本の鞭を使って馬子を天井から吊るし始めた。
 当の本人はされるがまま。いつのまにか口に猿轡まではめられている。
 どこから何をツッコんでいいのか。
 プラプラと揺れるJC――エロティズムの欠片も無い。

「あ、あの……」
 口を開こうとしたその瞬間、扉が勢い良く叩かれた。
「貴女達! 其処にいるのは分かってるんですのよ! 大人しく出てきなさい! さもないとブチ破りますわよ!」
 風紀委員、風果の声に身体がすくむ。
 きっとあのイカレ女も一緒に違いない。
 マジこわい絶対殺される。

「どうして開ける必要がある。馬が怯えるから騒がないでもらおうか」
 扉に向かって、冷静に話しかける狼牙。
 黒影は怯えるどころか五月蝿そうに尻尾をパタパタさせていた。
「ここは理事長の娘の私物だ。開けて欲しいなら理事長か娘の許可を貰って来い」
 そう言うと、何やらギャアギャア騒いだ挙句静かになった。

「……大丈夫なの? 許可取られたらまた捕まっちゃうんじゃ……?」
「多分心配ないはずだ。お前が捕まって困るのは、理事長の娘も一緒だからな」
「え? それってどういう事?」
 理事長の娘って――確か非処女姫とか呼ばれている子だよな。
 僕にはまるっきり面識はないはずだが。
「二年の針金を襲ったのは桃源桃蜜――いや、多分その子が命令されてやったんだろう。お前が言ってた下級生ってのはその子の事なんだな?」
「え、あ、うん。でも……信じられないよ。だって――」
 まさか馬子が、と続ける前にさっきの光景を思い出した。
 いくら相手が油断してたとはいえ、一発で昏倒させるあの威力。
 桃華学園の生徒が強いと言っても、あれだけの蹴りを放てる人物はそうそう居ない。

「今日の昼、中等部に行って桃源に会って来たんだ。その時、わざとお前を見捨てる話をしたんだよ。「彼には付いていけない。もうゾディアックをどうこうするのも止める」とな。その後、外で私を見つめる彼女の視線に違和感を覚えたものでな、スネークに尾行させてみたら――と言うわけだ」
 またスネーク。
 スネークに突っ込んではいけないんだろうか。
 多分そうだ。

「ちょ、ちょっと待って。でも、なんで理事長の娘が?」 
「これは仮説だが、桃源はゾディアックに何らかの恨みを抱いていて、ゾディアックを潰そうと画策していた。そんな時に現われた一人の男、どうにかコイツを利用出来ないかと近づき――」
「それが……僕だったって言うのか……?」
「まぁ、これは私達の推測に過ぎない。それがどうなのかは、お前が一番良く分かっているんじゃないか?」

 初めて会った時、決闘の事を教えてくれたのは馬子だった。
 決闘に負けて学園を去ろうとしてた時、諦めるなと言ってくれたのも彼女。
 灰名が退学に追い込まれ、ゾディアックを無くすと僕が決めたのも……。

「まさか……灰名を退学させたのは……お前なのか……?」
 嘘だ。冗談だ。違うと言ってくれ。
 心臓を真綿で締め上げられるような気持ち悪さ。
 今、僕はどんな顔をしているんだろう。
 彼女がゆっくりと目を伏せる。それで、僕は全てを理解した。
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