私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~

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初めての円陣

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「あっ! おおかみさ~ん! 大変です~! 一大事なのですよ~!」
 寮に戻る道の向こうから、有川がぱたぱたと走り寄ってきた。
「……今度は何だ?」
「蛇さんが暴れ出して、手がつけられないのですよ~」
 困った表情を浮かべる有川の言葉に、ため息が出た。

「あ~狼牙~! ちょっとこれ何とかしてよ~!」
 寮に戻ると、私を見るや否や乳が助けを求めた。
 そのだらしない尻の下で山棟蛇がもがいている。
 周囲の女子がその光景に怯えた表情を浮かべるのも無理はない。
 長い黒髪を振り乱して暴れる山棟蛇の姿はまさに狂気。
 ホラー映画を彷彿とさせた。
 どうしてこんな状況になっているのか、それは語るまでもない。

「落ち着け山棟蛇。残念だが今の私達には何も出来ない。彼を助けるためには、まず冷静になって策を練ろう」
 語りかけると、理解してくれたのかピタリと動きを止めた。
 死んでしまったのかと思う程。

「もう降りてやれ、乳。その巨体で圧し掛かられたら内臓が破裂してしまう」
「ちょっと~! それマジ失礼なんだけど~。別に太ってるわけじゃないし~!」
「とりあえず対策を練るぞ、談話室の使用許可を貰ってきてくれ」 
 ぼやく乳を無視しつつ、うつ伏せたままの山棟蛇を起こす。
「お前の気持ちは良く分かる。必ず助け出しに行こう」
 そう言うと、彼女はコクンと頷いた。



「――だそうだ」
 談話室。三人に状況を説明する。
 皆の反応はやはり同じモノだった。
「どう考えてもハメられたんでしょ~。愛染がそんな事するわけないし~」
「そうだな。だからそれを私達が証明しなければならない。今日、彼は授業が終わるとすぐ何処かへ出て行った。それは山棟蛇、お前も知っているな?」
「……居なかった」
 すっかり彼に懐いた山棟蛇は暇さえあれば彼の傍に居たがる様になってしまった。
 別に悪い事ではないと思うのだが、クラスメイトが怯えている。

「風紀委員が彼を見つけたのが、それから一時間半後だ」
「じゃあじゃあ~。愛染君にはアリババがないってわけですよね~?」
「ちょ、メ~ちゃん~。それを言うならアリクイでしょ~。おっかし~」
 可笑しいのはお前ら二人だ。
 そう言おうと思ったら山棟蛇が「アリバイ」と呟いたので止めておいた。
 文武両道の精神はどうなっているんだ。

 その時、談話室のドアが開いた。
 そこに立っていたのは、黒いゴテゴテした服を着込んだ女と着物を着た女。
 寮内での服装は基本自由な事もあり、桃華学園の生徒は思い思いの服装でお洒落を楽しんでいるが、こいつらはその中でも一際目立つ。
 もちろん悪い意味で。
 ただ、目立っているのは服装だけではない。 
 二年の双葉みづほと、双葉ほづみ。
 双子のゾディアック。対撃ついげきのジェミニ。

「何の用だ。見ての通り、今は使用中だ」
「だっ、暗黒狼《ダークウルフ》! 貴様上級魔族の我々に向かって何だその口の聞き方は! 我が左手に封じられし――もごっ!?」
「今はふざけている場合じゃないなり。ちょっと黙ってるなりよ」
 ほづみの口を塞ぎ、みずほが鋭い視線で睨みをきかす。
 こいつらが来た理由はいわずもがな。 

「虫が騒いでると気にしなかったなりが、ここまでコケにされると黙ってるわけにもいかないなり」
「何を勘違いしているのかは知らんが、今回の事件、彼を含め私達は何も関与していない」
「そんなでまかせを信じると思っているなりか?」
「信じる信じないはお前らの勝手だ。仲間がやられて怒る気持ちは分かるが、生憎お前らに構ってる暇は――っ!」
 机に視線を落とした一瞬。眼前に迫ったほづみの拳を間一髪で受け止める。
 ドアからのおよそ三メートルを、瞬間移動したかにも思える素早すぎる動き。
 ゾディアックの名は伊達ではない。

「なめやがってクソガキが……」
 まるで人が変わったかのような迫力。
 左右で色が違う、赤いカラーコンタクトが不気味に光った。
「ほづ! やめるなりよ」
「くっ! また我の封印が勝手に……!」
 左手を押さえながらほづみが苦しむ振りをする。
 良く分からないが、この学園には本当――馬鹿が多い。

「ほ、本当に知らないんですよ~。これはインモウなんですよ~!」
 ほづみの迫力に気圧されたのか、有川が半ば涙目で釈明するが、ありえない言い間違いだ。
――正直黙っていて欲しい。
「違うよメ~ちゃん。それを言うならインポウだよ~」
――この乳を引きちぎってやれば、ちょっとは頭に栄養がいくんだろうか。と思った。

「お前達が知らなくても、あの男がやってない証拠はないなりよ。まぁ、あの二人がすぐに吐かせると思うなり」
「フン。奴らは神の名を語る悪魔……。人間如きが立ち向かえる相手ではないわ……」

 桃華学園の風紀委員。
 風神の名を持つ羽山風果と雷神、三國雷果。
 ゾディアックも一目置く存在だ。
「愛染武が犯人じゃないにしろ、真犯人が出なければ追放は免れないなり。そしてもし別に真犯人がいるのなら――私達がこの手で殺すなりよ」
 そのセリフは、とても冗談には聞こえなかった。
 談話室のドアが閉まった後に残ったのは、焦りと不安のみ。

「絶対やばいって~! 愛染追放待ったなしっしょ~!」
「まだ決まったわけじゃない。私達が先に犯人を見つければいいだけの話だ」
 それがどんなに困難か。自分でも理解している。
 ゾディアックの情報収集力に敵うはずなどない。
 だがやるしかないんだ。
「クラスの皆を集めてくれ。一秒でも早く、あいつらより先に犯人を見つけるぞ!」
 そう言うと、有川がちょこんと手のひらを差し出した。
 その行為が何なのか理解できずにいた私達に。
「こういう時……えいえいおーかなって~……」
 少し照れくさそうに、顔を赤らめた。
「まさかこんなキモイ事するなんてね~」
 そう言いながら、乳が手を重ねる。
「……嫌いじゃない」
 山棟蛇がぼそりと呟き、手を重ねる。

 こんな行動をするとは夢にも思わなかった。一生自分には縁の無いモノだと。
 だけど、重ねた手の温かさは案外そう悪くはなかった。
 掛け声をかけた後、微妙な空気が流れたのは言うまでも無い。
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