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行動は迅速に

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 午前の授業が終わり、誰も居なくなった教室で一人。
 うん。腹減った。校内に食堂があればよかったんだけど。購買部も寮の中だし。
 その時、どこからか飛んできたパンが僕の机に。
 顔を向けると、ドアの前に狼牙が立っていた。

「お前のお節介が汚染《うつ》った」
 そう呟く様に言って、自分の席に座った。
「あ、ありがとう……」
 驚きつつも袋を開け口に運ぶ。
 とびきり美味しく感じたのは、それが久しぶりのまともな食事だからではないと思う。

「それで、これからどうするつもりだ?」
「どうする……。うん、どうすればいいんだろう」
 ゾディアックを無くす。
 そう大口を叩いては見たものの、具体的にどうするとかは全然考えていなかった。

「灰名を虐めるように仕組んだのはB組のゾディアック、牛追美由紀うしおいみゆきだ」
「B組――牛追美由紀か。どういう人?」
「乳がでかい」
「うぐっ!?」
 想像の斜め上すぎる返答に、口の中のパンが僕の気道を塞いだ。

 ざっくりしすぎだろ! 普通性格とかじゃないのかよ! 
 ってかこのパン何なんだよ!? 『ぱっさぱさぱん』っておかしいだろ! 
 水分ごっそり持ってかれてるよ! 口の中ぱっさぱさだよ!
「大丈夫か? ほら」
 飲みかけのペットボトルが飛んでくる。
 慌ててパンを流しこみ、気がついた。間接キスだ。

「なっ!?」
 ガタタッと椅子の音と共に、彼女が驚きの声を上げる。
 あれ? 口に出てた?
「……もういらん」
 そう言って顔を伏せる。何だかちょっと可愛い。
 ちょっと気まずいが、味のついた液体は貴重だ。

「ごめん……じゃあ貰っておく」
「嫌……じゃないのか?」
「え? 全然嫌じゃないよ? まぁ逆だったら嫌なのかもしれないけど、僕は男だからね」
「ふむ……そういうものなのか……」
 どこか不満げな表情を浮かべる。

「ってかそのB組の女子なんだけど、その……胸以外に何か無いのかな? 性格だったり、強さだったり?」
「力は強いが頭は弱い。二つ名は『爆乳機関車トーラス』それだけだ」
 うん。全然わかんない。
 おっぱいがデカイってのは把握した。

「ゾディアックを潰すのには闘うしかない。相手の事など、拳を交えれば嫌でもわかるさ」
「まぁそうだけど。条件をどうしようかなって。『負けたらゾディアックを抜ける』って条件だと、その人が負けても、今日あの針金って人が来たみたいに、また新しいゾディアックが決められて、同じ事の繰り返しになりそうな気もするんだよ」
 その度に闘ってたらきりが無いし、敗者が新たな犠牲者になるのも防ぎたい。

「簡単な事だ。B組を傘下に置けばいいだけの事。幸いな事に他のクラスにいるゾディアックは強い。お前に負けたからといって、クラスの勢力図が変わる事はないだろう」
「じゃあ灰名と同じ目に合う心配は無いって事か。でも傘下って――何だか大げさな気もするんだけど」
「何を甘い事を。お前はそれだけの事をしようとしているんだ。もはやこれは戦争と言ってもいい。既にこのクラスは目をつけられ、食堂でも肩身の狭い思いをしている」
 狼牙の言葉に、改めて事の重大さを思い知らされた気がした。
「そのことでお前が気に病む必要はない。承知の結果だ。だが、敵は一人でも少なくなるべきだ。それは早ければ早いほどいい。違うか?」
「間違いない」
 そう返し、残りのぱっさぱさぱんを流し込んだ。



『1ーB』
 十五分後。僕は隣のクラスのドアを叩いた。
「牛追さんに会いたいんだけど」ドアを開けてゴミを見るような目をした女子にそう告げると、中に入れと通される。
 狼牙の言葉はあながち間違いでもなかったらしい。一目で誰が牛追美由紀なのかが分かった。
 ウェーブのかかった茶髪に、制服の胸元を押し上げる豊満なバスト。
 机に上げたルーズソックスを履いた両足は、もちの様に柔らかそう。
 決して細くはないが太すぎもせず。
 その肉体は『いい意味でだらしなさ』を感じる女子だった。
 
「何の用ですか~。変態さん?」
 けだるそうに彼女が笑うと、周囲から嘲笑が上がった。
 おかしいな。この状況を楽しんでいる自分がいる。
 女子達の冷たい視線に晒されて喜ぶドMなのか。
「決闘の申し込みさ」
 手袋に驚いた顔を見る事に快感を感じるドSなのか。

 どっちにしろ、自分で思っていたほど、僕はまともじゃないのかもしれない。 
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