上 下
22 / 48

明かされた学園の秘密

しおりを挟む
「わっ。驚かせないで下さい。何やってるんですか」
 厩舎の明かりが点くと同時、少女がさほど動じずに驚いたフリをする。
 その手に持たれたのは黒影の餌が入ったバケツ。
「この前の仕返しですか? それとも暗闇の中私をレイプしようとでも?」
 相変わらず、地味な外見に似合わない冗談を吐く。
 今は反応する気力も無い。

「ふむ……。食べますか?」
 バケツから生じゃがいもを取り出し、僕の目の前に差し出す。
 力なく首を振るのが精一杯だった。
「何かあったんですか?」
 少女は黒影の前にバケツを置くと、僕の目の前の椅子に腰を落ろした。

「……クラスメイトが学校を辞めた……」
「もしかして、灰名さんですか? 一体どうしてです?」
「分からない……。だけど、僕の所為だって事だけは分かる。僕が決闘を申し込まなければ! 灰名が居なくなる事はなかった! 全部僕が悪い……僕が居なかったらっ……!」
 教室で存分に流した涙は、まだ枯れてはいなかった。
 彼女の笑顔を思い浮かべると、やりきれない気持ちで胸が引き裂かれそうになる。

 その時、ふっと身体が前に引っ張られた。
 椅子ごと前に詰めた彼女が僕を抱き寄せた事に気付いたのは、額で感じた柔らかい胸の感触と、優しい匂いに包まれたから。
「泣いていいですよ。沢山泣いて下さい」
 そっと僕の頭を撫で、少女は落ち着いた声で言った。
 普段の少女からは想像もつかない行動に驚きつつも、身を任せる。
 母親が居たら、こんな感じだったのかもしれない。
 どんな情けない姿でも受け入れてくれるような。
 そして、僕は泣いた。
 自分の情けなさと、灰名京子に抱いていた、友情より少しだけ甘い気持ちを振り切るように。


「あの……ありがとう……それとゴメン……」
 泣き尽くした後、少女の胸の温かさに離れるタイミング散々悩み。
 離れ際に、まるでスパイダーマンの糸の様に繋がった鼻水が伸び、ベトベトに汚れた少女の制服を見て、気まずさと恥ずかしさが僕を襲った。

「すっきりしましたか?」
「……すっきりしました」
「制服姿のJCに白濁した体液をぶちまけてすっきりしたんですね?」
 それは、彼女が僕に気を使わせまいと放った優しさだと解釈した。

「ああ。すっきりしたよ」
「……いかれてますね。感染さん」 
 微笑んだ少女に、身体の力が抜けた。
 僕の名前がウイルスチックだよ。

「灰名を戻す方法って――ないよな」
「残念ですが。逆に自主退学となると難しいでしょうね」
「そうだよな……でも、どうして灰名が辞めたのか、理由が分からないんだ」
 おもむろに彼女はチョークを手に取ると、厩舎の壁にかかってるミニチュア黒板に『闘炎』と書いた。
「闘いの炎を燃やせ。知っていますね?」
「決闘の時に先生が言う前口上――だよな?」
「ええ。そうです。桃華学園改め、闘炎学園。もう薄々お気づきだと思いますが、ここは普通の学校じゃありません。力が全てを支配する暴力校なのです」
 外でこんな話を聞いたら『この世界は五秒前に出来た』と同レベルの与太話だと思うだろう。 
 それほどまで、理想と現実は儚くも違う。

「そして、この学園を実質的に支配しているのが姫ノ宮百合ひめのみやゆり率いる生徒会員、『ゾディアック』と呼ばれる集団です。今回の灰名さんの騒動も、彼女達が絡んでいると見て間違いありません」
「姫ノ宮百合?」
「ご存知在りませんか? 高等部の生徒会長で、入学式にスピーチをしたかと思うんですけど」
「ああ! 分かった!」
 入学式で見たあの女性。女神と見紛う程の美しさは、多分一生忘れる事はない。
 もう女神と断言しちゃってもいいレベルだ。

「でも、あんな人がわざわざ灰名を退学に追い込んだりするか? ちょっと信じられないんだけど……」
「まぁ、会長自体が手を下してはいないでしょうし、もしかしたらその事実すら知らないかもしれません。基本的に下級生の揉め事に上級生が関わる事はありませんから」
「じゃあ灰名を退学させたのは僕と同級生の生徒会員――って事?」
「多分そうでしょうね。高等部は三学年四クラスで成っています。灰名さんもそうだったように、他のクラスにも各一人ずついます。新参者、しかも男にやられたとあっては、ゾディアックのメンツに関わりますからね。その責任を取らされたのも不思議ではありません」
 少女の言葉に、再び気分が落ちる。
 どうしても自分を責めずにはいられない。

「最初の決闘の後――灰名は、僕をお見舞いに来たらしいんだよね。ほら、馬子に上げた『桃ロール』だっけ? あれと、停戦の意思を持って――さ」
「結局その日は会ってないし、どうして保健室に入ってこなかったのかは分からないけど、その時会ってさえいれば、こうはならなかったのにな」
 狼我蓮は、それを運命と言った。
 ただ一瞬のすれ違い。
 そんな小さなモノが、人の人生を大きく左右しうる事が。
 運命と呼ぶに値しうるモノだと言う事が。
 今は――少しだけ怖い。


 「そうだったのですか――」
 と一瞬驚くように、悲しげな表情で呟き。
「で、誰から犯しに行くんですか?」
「ええっ!? なにそれ!?」
 不意に飛び出す衝撃発言はある意味暴言。
 センチメンタルな感傷も軽く一蹴された。

「だって、灰名さんの仇をとるんでしょう?」
 さも当然、と言った様子で僕を見つめる少女に、一瞬言葉に詰まる。
「……僕が今更何かをしても、灰名が帰ってくるわけじゃないだろ」
「情けないですね。変態でも芯のある変態だと思っていましたが――正直軽蔑しました」 
 少女の言葉が胸に突き刺さる。
 変態じゃないけど。

「そりゃ悔しいけど。僕が何かすれば、また同じ様な問題が起きそうで怖いんだ……」
「黙れフニャチン野郎」
 ふにゃっ!? 
 名前をもじるわけでもなくただの暴言!? しかも敬語ですらない!?
「確かに今更何をしたところで灰名さんは戻って来ないかもしれません。でも何かしないと、この負の連鎖はいつまでも続きます。前日までは仲の良かった友人にゴミを投げられる人が。また、自分の意思に反してゴミを投げざるをえない人が出てくるんです」

 フルスイングで頭を殴られた様な感覚。
 そうだ、少女の言う通りじゃないか。僕はずっとクラスメイトに怒りをぶつけていた。
 昨日の友人に非道い事をする神経を疑って。
 でもそうじゃない。
 いわば彼女達は皆被害者なんだ。
『やらなきゃやられる』そんな恐怖心を煽られ。
 この狭い学園では、一歩立ち位置を間違えるとそれが命取りになる事を知っているから。 

「どうすればいいかな」
「いい顔です。おっきしましたか? それでこそ胸を揉ませた甲斐があるってものですね」
「おっきしてないし胸を揉んでもいない!」
 だけど、背中は押してもらった。
「いい考えがあります――」
 一体何を考えてるのか分からない表情で語る彼女の話に、僕はじっと耳を傾けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

処理中です...