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生徒手帳に記された謎の文句
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その後、雑談に花が咲く事もなく、淡々と僅かな質問と説明で話は終わった。
念を押されたのは『他の生徒にコネ入学の件は伏せておく事』
基本的に中途入学は認めていないらしく、僕が特例措置なのだとか。
大人の事情ってやつなのだが、そんな事をしてまで僕を入学させた理事長と父の関係が非常に気になった。
大人の関係――? いやいや、それは在り得ない。
父と理事長では、天と地じゃすまされないくらいの格差がある。
親指から小指まで穴が空き、つま先を露出させた靴下の体をなさない布切れを履きながら「これは逆五本指靴下だな」とほざく父となんて、荒唐無稽もいいことろだ。
「さて、次は学生寮に案内しますね。あ、あと校内のトイレですが、今の所男性用は一階にしかありません。不便だと思うけど、トイレに向かう時は余裕を持っていきましょう」
人差し指をピンと立ててシスターが言った。
「分かりました。廊下をバタバタと走るのは目立ちそうですしね」
校内を通り校舎の裏手に出てしばらく歩く、現われた建物は『高等部宿舎』
ここが今日から僕が寝泊りをする場所か。
ん? ここって――。
「あれ? ここって男女別れてたりしないんですか?」
「男子生徒の数が少ないから今はまだ共同なんですよ」
――共同。
何でもないその言葉がこれほどまで甘美な響きをかもし出すのは何故だ。
同じ建物ってことは、仲の良い友達同士、いつでも気軽に行き来できるわけで。
――今日どう?
何て会話を、親身になった女子とする未来も――。
「……愛染君。にやけすぎです。欲望が全て表情に出ていますよ」
眉間にシワを寄せたシスターの表情にハッとする。
「えっ!? いやっ、その――」
「まぁ、年頃の男の子だからしょうがないですかね――」
物分りの良い人だと胸を撫で下ろした瞬間。
「でも、世の中そんなに上手くはいかないものですよ」
戒めるような口調でシスターは言った。
確かに、こんな学校に通う女子と僕みたいな人間じゃ釣り合いなど取れるわけがない。
人の夢と書いて儚いと読む。
この時僕は『現実を見なさい』そう言われているんだと思っていた。
「ここが愛染君の部屋ですよ」
入口を入ってすぐ左、シスターが『0号室』と書かれた部屋の扉を開けた。
ベッドと机が二つ。そのうち一つはこの部屋に住んでいる誰かさんのスペースだろう。
きっちりと整理整頓された私物は、中々好感の持てる人物のように感じた。
「とりあえず荷物を置いて、生徒手帳でも読んでて下さい。私は入学式の準備がありますので一旦失礼しますが、またすぐお迎えにあがりますね」
そう言ったシスターに礼を言って、机に置かれた生徒手帳をめくる。
通常の校則と共に、元女子校の片鱗を伺わせるものも。
パラパラと流し読みをしていると、目を引く一文を見つけた。
『力なき美は無力なり、美無き力は暴力なり』
どこかで聞いた事のありそうな文句だが少し違う。
そして――意味が良く分からない。
「それにしても――結構いい部屋だな」
ベッドに手をかけると、埋まってしまうんじゃないかと不安になった程。
家の煎餅布団とは比較するのもおこがましい。
しばらく時間を潰し、迎えに来たシスターマリと会場へ向かう。
我が桃色の高校生活を磐石なモノとする為、迫り来るスピーチに向けて喉を鳴らしながら。
念を押されたのは『他の生徒にコネ入学の件は伏せておく事』
基本的に中途入学は認めていないらしく、僕が特例措置なのだとか。
大人の事情ってやつなのだが、そんな事をしてまで僕を入学させた理事長と父の関係が非常に気になった。
大人の関係――? いやいや、それは在り得ない。
父と理事長では、天と地じゃすまされないくらいの格差がある。
親指から小指まで穴が空き、つま先を露出させた靴下の体をなさない布切れを履きながら「これは逆五本指靴下だな」とほざく父となんて、荒唐無稽もいいことろだ。
「さて、次は学生寮に案内しますね。あ、あと校内のトイレですが、今の所男性用は一階にしかありません。不便だと思うけど、トイレに向かう時は余裕を持っていきましょう」
人差し指をピンと立ててシスターが言った。
「分かりました。廊下をバタバタと走るのは目立ちそうですしね」
校内を通り校舎の裏手に出てしばらく歩く、現われた建物は『高等部宿舎』
ここが今日から僕が寝泊りをする場所か。
ん? ここって――。
「あれ? ここって男女別れてたりしないんですか?」
「男子生徒の数が少ないから今はまだ共同なんですよ」
――共同。
何でもないその言葉がこれほどまで甘美な響きをかもし出すのは何故だ。
同じ建物ってことは、仲の良い友達同士、いつでも気軽に行き来できるわけで。
――今日どう?
何て会話を、親身になった女子とする未来も――。
「……愛染君。にやけすぎです。欲望が全て表情に出ていますよ」
眉間にシワを寄せたシスターの表情にハッとする。
「えっ!? いやっ、その――」
「まぁ、年頃の男の子だからしょうがないですかね――」
物分りの良い人だと胸を撫で下ろした瞬間。
「でも、世の中そんなに上手くはいかないものですよ」
戒めるような口調でシスターは言った。
確かに、こんな学校に通う女子と僕みたいな人間じゃ釣り合いなど取れるわけがない。
人の夢と書いて儚いと読む。
この時僕は『現実を見なさい』そう言われているんだと思っていた。
「ここが愛染君の部屋ですよ」
入口を入ってすぐ左、シスターが『0号室』と書かれた部屋の扉を開けた。
ベッドと机が二つ。そのうち一つはこの部屋に住んでいる誰かさんのスペースだろう。
きっちりと整理整頓された私物は、中々好感の持てる人物のように感じた。
「とりあえず荷物を置いて、生徒手帳でも読んでて下さい。私は入学式の準備がありますので一旦失礼しますが、またすぐお迎えにあがりますね」
そう言ったシスターに礼を言って、机に置かれた生徒手帳をめくる。
通常の校則と共に、元女子校の片鱗を伺わせるものも。
パラパラと流し読みをしていると、目を引く一文を見つけた。
『力なき美は無力なり、美無き力は暴力なり』
どこかで聞いた事のありそうな文句だが少し違う。
そして――意味が良く分からない。
「それにしても――結構いい部屋だな」
ベッドに手をかけると、埋まってしまうんじゃないかと不安になった程。
家の煎餅布団とは比較するのもおこがましい。
しばらく時間を潰し、迎えに来たシスターマリと会場へ向かう。
我が桃色の高校生活を磐石なモノとする為、迫り来るスピーチに向けて喉を鳴らしながら。
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